第156話 国際会議

 とんでもない役人のおかげで、スーザンが切れるという一幕はあったものの、その翌日、再度、度量衡について説明をしたら、役人は小躍りするぐらい喜んでいた。


 度量衡が統一されていないことで、これまでは不正も多く、トラブルになることが多々あったそうだ。それが統一されればそういう事が、一気に減るだろうからストレスが無くなるし、仕事量も減る。


 王様の前だったから、抑えていたけど、その喜び具合は滲み出ていた。


「これで国際会議の準備は整ったな。そこでじゃ、今回の事でも分かるように、頭の固い連中はどこにでもいるから、それを説き伏せるのに今回の功労者の二人にも是非参加して欲しい。良いな」


 良いなはもう反論できない言葉。王の命令だからね。


「スーザンさん、私、帰っていいですか? もう限界なんですが」


「シャキッとしなさい! 男でしょ! ここまで来たら腹をくくりなさいよ!」


 ロイスはスーザンより、そこそこ年上なんだが、貴族だという事を抜きにしても、容赦ない言い方。


「まぁまぁスーザンもそれぐらいで、ロイスはよく頑張っている。平民が王様に会うなんて普通は殆どないんだから。ラロックの住人が特別なだけだ」


「そうなんですが、少しは慣れてもらわないと。これからこういうことは増えていきますから」


「え! 増える? もしかしてあの人がそんななこと言っていたんですか?」


 ここで初めてスーザンは事前に、俺から伝えられていたことをロイスに話した。王都に呼ばれれば、そのまま国際会議に出ることになる可能性があることを。


「知っていたんなら教えてくださいよ。そしたらどんな事してもラロックに帰っていましたよ」


「お前は主人と同じことを考えるんだな。フランクも逃亡するのに色々策を練っていたからな」


 ここでフランクの所業がビクターによって暴露された。フランクは逃亡したことは皆に話していない。ただ教えきれなかったから、魔法士たちがラロックに来ただけと話していた。


「はぁ~ 男ってだらしないですね。フランクさんもそうだったなんて、帰ったら説教しなくては……」


 スーザンの言う事も一理あるが、根本は俺が一番悪いんだよね。俺が表に出ないのがそもそもの原因だから。


 国際会議までの間中ロイスはスーザンに、毎日のように叱咤され、会議の準備をさせられた。俺の鬼畜レベリングを受けたことがスーザンをより過激にしてしまったんだろうか? Sに目覚めた?


 国際会議当日、物々しい警備の中、各国の代表が大広間に作られた円卓に着席していった。


 今回の会議には国王級は誰も参加していない。どこの国も宰相級が代表として来ている。確かに話し合われるのが、実務的なことだから王より、宰相のような実務に携わっている人の方が話が早い。


 ロイスとスーザンは円卓から少し離れた位置で待機している。今回の会議では基本的に発言は宰相のカルロスが行う。ロイスたちは意見を求められた時だけ、発言するようになっている。


「ではこれより特許についての話し合いを始めたいと思います。議長は開催国の私が務めさせていただきます。では先ずは事前に配りしている国際特許についての内容でご不明な点や納得できない点等ございますか?」


「議長、大いにあるな。どうして一国が作った法律を我々が認めなければいけない? 法律を作るなら皆で作るべきだろう?」


 何言ってるのこのおっさん? その為の草案でしょ。国際会議で0から法律なんて作れないだろう。こいつ本当に国動かしてるの? 俺がその場にいれば間違いなくそう思っていた。


「マール共和国のマイルズ殿だったかな、あなたは暇なんですか? 一から法律を決める時間なんて私にはありませんが」


 この棘のある言い方で共和国の代表に物申したのは、見た目は国名のように艶やかなフリージア王国の代表サーシャという女性。


 その後も他の国からサーシャと同じような意見が出たことで、マール共和国のマイルズは、それ以上の言い掛かり的発言は出来なくなった。


「では改めて、質問のある方はどうぞ」


「この提案書によると、違反が見つかった時は登録国の法律で裁くという事だが、その法律は自国で勝手に決めて良いのですか?」


 中々鋭いな、この人はさっきの棘のある発言といい本質を見抜く力があるようだ。


 それぞれの国で法律が違えば、物凄い重罪にもできる。登録国の法律だから罪を軽くすることはないだろうが重すぎるのも問題になる。


「それは罪の重さに際限がないという事を懸念されているのかな?」


「その通りです。特許違反程度で命まで取るような法律では良くないでしょう」


 命までというのは大げさでも、程度に関係なく財産全額没収でも重すぎる。そういう意味では制限は設けるべきだろう。


「それでは参考までに我が国の法律と運用方法をお教えしましょう。スーザン頼むよ」


 カルロスから指名されたので、スーザンは王様の前で行った説明と同じことを各国代表に話した。


 この時に裁判制度についても話したが、それはあくまでこの国だけのやり方だからという事を強調して置いた。


「良く分かりました。貴国は特許によって得た収入に懲罰金を上乗せして払わせて、その後の特許の使用を拒否するという事ですね」


 本来の特許違反なら賠償金を払った後、特許料を払えば引き続き同じものが作れるが、この法律ではそれを認めなかった。


 金さえ払えば終わりだというのは、再犯をする可能性を生む。一度違反が見つかればその商品が二度と作れなくなるなら、再犯を続ければいつか何も作れなくなる。


 前世でもそういう事は多かった。特許違反する会社は何度でもやる。違反が発覚した時点でその商品から撤退しなければいけ無くなれば、設備投資も人も全て無駄になる。そんなリスクを負ってまで特許料を惜しむ方がおかしいから、再犯防止になる。


「使用を拒否しても使うものはいるだろう、その時はどうするのだ?」


 こいつやっぱり腹黒いな。商売人の国だけじゃなくこいつ本人が真っ黒だ。


「その時は国に請求します。これは以前の我が国からの通達と同じです」


 これは本来なくす法律だったのだが、役人たちと話している時に、これと全く同じ懸念を言った人がいた。そこで色々検討したけど解決策が見つからないので、そのまま残すことにした。


 良く考えたら、こいつみたいな人がいる国もあるんだから、下手したら国ぐるみでやってくるかもしれないから、残して正解だった。


 最終的には国に責任を取らせる。その方が国も真剣に取り組むだろうからね。


 しかし、今までなかった競争意識がそれぞれの国に現れてくると、いつかは戦争もありえるのかな?


 まぁそうならないように色々策は考えているけど……。



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