第201話 クルンバ

 サラに止められたので、今回は作るのを止めた物は個人的に作れるかの確認は後日するつもり。


 付与魔法次第だから出来る可能性はある。俺のイメージ力次第だと思うし、魔力=魔素=電気=電波が成り立てば可能だと思う。イコールではないけど、考え方として……。


 俺の鑑定EXの検索で、前世の鳩のような魔物はいないか調べてみたら、見た目はどうかは分らないが、帰巣本能ある魔物の鳥がいることが分かった。


 名前はクルンバ、生息地はエスペランス王国にもあるが、何故か、魔境から一番離れた領に多く生息しているらしい。


 これって魔力が濃い事に原因があるのかな? それだとここでの使用は厳しい事に成るが、解決方法はないだろうか?


 先ず、原因として考えられるのは、レベルが低い事で高魔力帯での帰省が出来ない。富士の樹海のように磁気が乱れていて、方向感覚がくるってしまっているという可能性だな。


 それなら、その魔物を高魔力帯で飼育してレベル上げたらどうだろうか? 時間は掛かるだろうが、可能性が無い訳ではない。


 時間を掛けない方法として考えられるのは、クルンバに直接高魔力を与え続ける事。魔物は体内に魔石を持っているから、そこに直接魔力を流せばレベルが上がるんじゃないかな?


 外部から魔石をイメージして魔力を入れる方法と手術で魔石を露出させて魔力を注ぐ方法もあるな。


 これはやって良いか分からんが、手術で他の魔物の魔石と交換する方法も考えられない事では無い。でもその結果、違う生き物が出来たらどうしよう?


 なんかそれって禁忌のような気もするからちょっと怖いな。でも前世でも他の動物の皮膚とかをやけどの治療に使ったりもしてたからな……。


 なんかマッドサイエンティストみたいな研究だけど、食用の動物なんて交配してどんどん進化させてきたものだから、この世界では魔物の品種改良とも取れるから禁忌ではないのかな?


 もしこれが成功したら、オックスなども品種改良できるかも? 魔石のレベルを上げれば、肉質が良くなるのはホーンラビットなどの燻製品で証明されている。


 魔物でも人でも高魔力にさらされ続ければ体に変化が起きる。老化が遅くなったり、人の倍はレベルは上がらないが、MPは自然に増えると思う。これが魔物の場合はレベルという形に現れるのかも? もしくは魔物同士の争いで勝つことでもレベルが上がっているとも考えられる。


 人に対する魔力の影響自体がやっと少し分かってきた段階だから、魔物の生態なんて殆ど知られていない。


 魔境の魔物はレベルが高くて旨いとは知っていても、なぜレベルが高いのか、なぜ旨いのかなんて、調べる人もいなかっただろうしな。


 今の所魔物の上位種というのは見たことがないが、集落を作る程度には進歩してる魔物もいる。只今の所は天敵のような魔物がそれぞれに存在してるから、無限に増えていくという事が起きていないだけだ。


 そういう意味では微妙なバランスの上で、この世界は成り立っているとも言える。もしこのバランスが崩れたら、上位種が生まれる可能性もある。


 ゴブリンの魔石をオークの魔石と変えたらどうなんだろう? 負荷に耐えられず死ぬか、耐えたものはホブゴブリンに進化したりして……。


「ウフフ……。これはやってみたい研究だな」


「ユウマさん、なに気持ち悪い笑いをしてるんですか、皆さん集まりましたよ」


 やべ! まさにマッドサイエンティストのような笑いをしてるところを、サラに見られてしまった。 ここは変に言い訳せず、スルーした方が良いだろう。


「皆さん今回集まって貰ったのは、ちょっと思いついたことがありまして、それについて意見が欲しいのと、賛同していただけるなら、それに協力していただきたい。その内容は……」


 この町に諜報員が多く潜伏してることから始まり、その対策とこれからの事について話して行った。その対策の中に、情報はとても大切なことで、それをいち早く知ったり、伝えたりできる事の有利さを教えて行った。


「そこで、皆さんに意見を頂きたいのが、情報の伝達をティムした魔物にさせられないかという事です」


「魔物にさせる? どんな魔物だよ? そんな都合のいい魔物がいるのか?」


「王都に住んでいたニックさんは知りませんかね、クルンバという鳥の魔物」


「クルンバ、クルンバ……、あぁ! 王都にいた頃本当に稀だが、市場で売られていたことがあったな。罠で捕まえて生きたまま運ばれていたから、珍しい鳥だと思って記憶に残っていたよ」


「それじゃその鳥は食用だったんですね」


「食用だったが、味は普通でそこまで美味しくはないと言っていたぞ。ただ羽の色が奇麗だったから、装飾に使われると言っていたな」


「クルンバなんていう鳥の魔物聞いたこともないな。ロイスは知ってるか?」


「いえ、商売であちこち行きましたが、私が行ったところでは聞いたことがありません」


 フランクもロイスも知らない、錬金術師三人衆も聞いたことが無いという。だがニック以外でただ一人、スーザンが知っていた。流石貴族で好奇心の塊のような女性。


「ユウマさん、クルンバは王都からビーツ王国方面に行った山に多く生息していますよ。ちょうど今、交易所が出来ている辺りですかね」


 おぉ~ それはめっちゃ好都合じゃん。交易所にはうちの土魔法士やジーンがちょくちょく行ってるし、輸送部門が頻繁に往復している。


「ユウマよ、その魔物が本当にその伝達に使えるのか?」


「以前領都の図書館で魔物図鑑を読んだことがあって、その時にそんな鳥がいたことを覚えていたんですよ。このクルンバという鳥は結構遠くまで餌を取りに行くそうなんですが、ちゃんと自分の巣に帰れるという事が書いてあったんです。生息地までは覚えていませんでしたが」


 これは真っ赤な嘘、魔物図鑑は確かにあるが、殆どが魔物の名前と容姿の特徴が書かれているくらい。挿絵なんてある方が珍しかったし、生態なんて全く書いていないに等しい。身近にいるスライムやゴブリン、ウルフ、オークぐらいは少しは書いてあったが……。


「そのクルンバをティムして命令出来れば、伝達に使えないかという実験をしたいんですよ。ただひとつ気になることがあるのでそれ次第なんですが」


「気になる事?」


 気になることがどういう物か説明した。魔力が濃い場所には生息していないという点に疑問があると。


「それだとこのラロックでは無理なんじゃないのか? 特別ここの魔力が濃いという訳ではないだろうが、生息地から考えるとユウマの考えていることが当たっているんじゃないのかと俺も思うな」


「そこで、魔物の生態について考えてみたんです。皆さんはラロックに住んでいますから普通の森と魔境の森では魔物のレベルが違う事は知っていますよね。ではなぜレベルが違うのか考えたことはありますか?」


「魔境の深部に行けば魔物が強くなるというのは知っていても、それが何故なのかまでは考えたことなかったな」


 フランクが丁度いい疑問を呈してくれたので、俺の考えてる仮説や確定してることなどを話してみた。


「それって、人にも言える事なんじゃ……」


「その通り、ミランダさんが化粧品に魔石を使った結果、効果が上がった事が証明していますね。人はレベルが上がれば魔力量も増えますから、老化が遅れます。当然強さも上がりますよね。これと同じようなことが魔物にも起こっているんじゃないかと思います。ただ全く同じかと言われれば今はまだ分かりません」


「ちょっとまって! それって私がユウマさんの森の家に住んだら、老化が遅くなるという事?」


 そこに気づいたか、流石はスーザン。


「それはまだ可能性の話ですね。それに俺の家ぐらいの深さではそう大きな違いは出ないんじゃないかと思いますよ」


 これも真っ赤な嘘だ。多分違いは絶対に出る。高魔力にさらされるだけじゃなく周りの食物も魔素を多く含んでいるし、魔物もレベルが高いから普通に狩りをしていればレベルが上がるから、相乗効果で間違いなく老化は遅くなる。


 これから勉強して行けば何時かはバレるけど、今は誤魔化す必要があった。だってそうしないと間違いなく女性陣はうちに住むと言いかねないから……。


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