第200話 諜報員
フランク達とこれからの事を話し合って、俺の研究に賢者候補が参加することは決まったが、見習い達をどうするかを決めきれずにいた。
グーテル王国は兄弟国だから、情報が洩れてもさほど問題ないが、今回フランク達に公開した知識は危険を伴うから、今は巻き込みたくないし、知識を知る人数は少ない方が情報漏洩的に安全。
それでも研究の多さからしたら賢者候補だけではしんどいのだ。一つの研究だけでも2~3人でやった方が効率が良いから迷っている。
それに見習いの人達は近いうちに国に帰る存在だから、引き込むか迷う要因でもある。
取りあえずは見習いの人達に国に帰っても直ぐに活躍できる知識は教えたので、当分の間は研究に参加させず、今までの復習の意味も込めて学校や病院で教師役をやって貰う事にしようと思う。
俺達がそんな事をしている時、グランから嫌な報告があった。
グランがラロックの町の商業ギルドを訪れている時に、見慣れぬ商人がいたので何気なく鑑定をしたら、帝国の諜報員だった。
それだけならまだ良かった。帝国という国柄を考えればそういう事があっても不思議ではないからだ。しかし、そういう人物を見かけてしまったことで、疑心暗鬼になったのか、普段はあまり人の鑑定はしないグランだったが、商業ギルやケインの店に寄った時に日頃見かけない人がいたら全て鑑定していった。
その結果驚くことに、かなり多くの諜報員がここラロックにいることが分かった。エスペランス王国に友好的な国はいても1~2人だったが、帝国、神聖国、共和国は5~10人位いた。
グランが鑑定した人だけでこの人数だ。実際にはもっといると考えた方が正解だろう。
「ユウマ君、どう思うね? 流石に人数が多過ぎると思うんだが」
「そうですね、1~2人の所はまぁ普通にラロックの情報を集めて本国に送っている人でしょうけど、5~10人はおかしいですね。情報収集だけならそんな人数必要ありませんから」
「父さんが見たのは商業ギルドとケインの店だけだろう? それでその人数だともっといると考えた方が良いよな」
「そうなるともっと情報収集だけという事があり得なくなりますね」
これって俺が懸念してることが現実的になろうとしてるのか? 戦争の前の調査ならまだ時間的に余裕があるが、ラロックの秘密を奪う為の武力行使の人員だったら有余がない。
しかし、そこまでの強硬手段に出る必要が現状あるか? 退学者は出したにしてもまだ学校には生徒が半数近くが残っている。病院に関しては神聖国以外は問題ないはずだから情報は十分手に入っている。
「何が知りたいんだ?」
俺がまた無意識に呟いてしまった時。
「そりゃ分り切ってるだろう。ユウマ、お前の事だよ」
「そうだね、わしもそう思うよ。ユウマ君が中心人物だとは分かっていなくても、情報を集めて行けば、情報が無さ過ぎるユウマ君にたどり着くからね」
領都なら無理だろうが、ラロックだと俺の事を知ってる人は多いからな。俺が全ての元だと知っている人はいないだろうが、ラロックが発展し出した頃からグラン商会に俺が現れたことは調べれば分るし、学校と病院にガッツリ俺は関係してるからな。
ましてラロックに来る前の情報が全く無いから、余計に怪しまれる。
「それってもしかして俺を拉致しようとか思ってるんですかね?」
「その可能性は十分にあるだろうな。ユウマの強さとかを知ってるのは拠点メンバーでも全員じゃないし、見た目的にお前って弱そうに見えるからな」
確かにね。俺って職業も商人だし、冒険者ギルドにも登録していないからな。諜報員にレベルの高い鑑定持ちでもいれば俺を鑑定できる可能性はあるだろうが、レベル差で鑑定できないだろう。フランクでも俺を鑑定できないからね……。
「俺が襲われるのは問題ないですが、怖いのは人質を取られることですね」
「でも、ユウマそれも厳しいぞ。だって国内ならまだしも国外から来てるんだから、連れ出す事自体が出来ないだろう」
そうだよな。昔だったらそれも出来たかもしれないが、特許制度が出来てから輸出するものが増えたこの国では、密輸出が出来ないように厳重に管理されているからな。
特に仮想敵国に対する輸出は厳密にされている。敵対しなければ制限がなくなるんだから、無駄なことはするなという意思表示なんだが今の所効果は出ていない。
ミランダの化粧品が海外に輸出されるように成れば、少しは変わる可能性もあると期待はしている。この国を変える時に女性を味方につけたように、海外の女性が味方してくれたら無謀な男共を止めてくれるんではないかと思っているが、さてどうなるか……。
こういう効果を期待する為にも今回の化粧品の改良は特許登録していない。秘匿すればこの国からしか買えないからね。それに小出しにすれば効果はもっと上がる。
「連れ出せないなら、どこかに拠点を作るだろうが、正直現状それも厳しいだろうね。ラロックには外国人が借りられるような建物は無いからね」
「領内の人間でも、もう此処では店舗を出すのが大変なぐらいだから、商売もしないのに、借家なんて絶対無理だ」
「そうですよね。拉致も無理、襲撃なんて絶対出来ないならどうするつもりでしょう?」
三人で色々な可能性を考えてみたけど、結局は何が目的か予測は出来なかった。
「しばらくは様子見するしかないですね」
「そうだな」
これまで俺達は情報を守る事ばかりしてきたが、これからはこちらからも情報を取りに行かなければいけないな。
国に頼めばそれなりに情報は貰えるだろうが、それだと後手に回ってしまう。情報は世界を制すという言葉が前世にあったように、こちらも情報戦を仕掛けないといけない。
三人の話し合いが終わり、フランクと二人きりになったところで。
「フランクさん、後で皆を集めて貰えますか? 少し実験したいことがありますから」
「それって見習いは抜きという事だな。場所は孤児院の地下か?」
「はい、そうです」
情報をいち早く手に入れる為には連絡手段が重要になる。この世界には伝書鳩のようなものはないから、現状手紙を輸送するしか方法がない。
ティムの魔法があるから、そろそろ誰かが気づきそうな物なんだが、未だに誰もやろうとしない。
この実験も誰かにやらせようかな? 魔物の鳥を捕獲出来たらの話だが……。魔物の鳥っているけど、この辺りには小鳥と言えるぐらいの物しかいない。
せめて鳩ぐらいの大きさの鳥がいれば良いのだが、それすら見かけない。鳥に限らず、この周辺にはいない魔物が多い。周辺と言っても魔境の事だけどね。
俺は普通の森に入ったことが殆どない。領都に行った帰りに一度通過した程度で、じっくり見て回った事すらない。オックスの捕獲の時でも森には入っていないからな。
こう考えると、俺ってどこにも行っていないんだな……。
異世界転生や転移の登場人物がここまでどこにも行かないってあり得ないよね。魔境の情報は人一倍持っているけど、逆にその他の情報は人から聞いたものや本で調べたことしかない。
引きこもりたいけど、この世界では引きこもると情報が一切入ってこない。前世の引きこもりはネットという物があったから、情報に疎くなることはなかった。
映像は無理でも生の情報は最低欲しいな。それにはやっぱりあれがいるよね。作れるかな?
やべ~ また作りたいものがどんどん増えてきた。どうしよう? 賢者候補たちには隠し事はしない方針にしたけど、あれらはちょっとオーバーテクノロジー過ぎるよな。
「作るべきか作らざるべきか……」
「また独り言ですか?」
フランクが皆を呼びに行ってる間に、俺の所に一番に来たサラからそう声を掛けられた。
「またやってしまったね。ちょっと考え込むと最近良くこうなる」
「今度は何を考え込んでいるんですか?」
サラにそう聞かれたので、作るか悩んでいる物について話した。
「それって夢の本に出てくる物ですよね。流石にそれはダメでしょう。それにそもそもそれは作れるんですか?」
確かに作れる保証はないんだけど、出来そうな予感はしている。
フランクには実験をすると言ってしまったけど、今回は止めておいた方が良いかな。
今すぐの実験ではなく、鳥の捕獲の話をして今回は誤魔化すか……。
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