第199話 もう限界

 転移してからの生活で、今が最大の危機です。研究中も一人なのに独り言をつぶやいたり、人との会話中に思考が言葉に成って出てしまったりと、以前の俺からしたら、ありえないことです。


 色々やり過ぎたし、色々秘密を作り過ぎたから、俺は限界に来ているんだと思う。自業自得なんだが、それをそのままにしておくことは出来ない。


 そこで、今までは皆の自主性に任せて、賢者候補たちに始めの頃より教育をしてこなかったが、これからは俺の研究に参加してもらって、研究と同時に教育もしてしまおうと思う。


 この決断に至るまでに、自分でもこれでもかという程リスクについて考えたし、一番話せるサラにも相談出来る事はした。


 結論的にこの世界の法則、世界観を共有しないと、全てを自分でやらないといけないし、秘密がどんどん増えていくという事に帰結した。


「今日皆さんに集まって貰ったのは、これからの方針をお話しする為です」


「方針? 今やってる孤児の事じゃないのか?」


「皆さんもおかしいと思っているでしょうが、今回ここに見習いの人達がいないことが疑問じゃありませんか?」


「そうですね。今までなら見習いの人も一緒に会議をしていましたから。何故なんです?」


 スーザンから理由を尋ねられたので、その事から今回の会議について話し始めた。


「今回見習いの人をこの会議に参加させていないのは、これから皆さんに報告する内容があまりにも危険だからです」


「危険? ユウマそんな危険物を作ったのか?」


「危険というのは知識的にという事ですが、ある意味本当に危険なものも含まれています」


 魔法剣のことがあるから、物理的に危険というのも間違いではないが、本当の意味での危険というのは、この世界の法則に関係する知識のこと。


「これまでも皆さんは多くの秘密を抱えて来ましたよね。その一つを公開すればまた次の秘密という様に。ですが今回皆さんに報告する内容は簡単には公開できない事ばかりなんです。一時的な秘密ではないという事です」


「ユウマ、それはこの間の事も入るんだよな?」


「フランクさんが言ってるのは森の俺の家でのことですよね。当然それも入りますが、内容的にはそれを上回ります」


 魔境の深部の事なんて殆どの人は知らないし、古い文献に書いてあるかどうかも分からないが、深部の状況が分かっても現状どうする事も出来ない。飛行船の事が公表されようとも深部の魔物を倒す術がないのですから、深部の魔物の素材や魔石が欲しいとなった時に初めて手に入れることが出来る俺達が危険になるぐらい。


 危険なのはその素材や魔石の使い道の方。これから皆に報告する内容に大きく関係するからね。


「これまで拠点、学校や病院の事で皆さんも多くを学んだでしょう。その中でも魔法とスキルについてはこれまでの常識を覆してきました。魔法はイメージ、スキルには発現条件があるとか、複数のスキルが持てることなどもそうですね」


「確かにな。実際俺が複数スキルを発現したからな」


「え! フランクさん、そうなんですか?」


「あぁ、この間の休暇でユウマの家に行った時に発現した」


「ズルいです。私もユウマさんの家に行きたかったのに」


「そう言うなよ。あれはユウマの迎えのついでだったんだから。それにエマはアクセサリーの事で忙しかっただろう」


「まあまあ、エマさん落ちついて、今回の話にはその事も含まれますから」


 それからこれまで俺が研究してきたこの世界法則、魔力量と寿命、ステータスの数値、魔法、スキル、付与魔法など、兎に角復習の意味も兼ねて一から話して行った。


 全てを話し終えた時、聞いていた全員が何も口に出来ず放心状態のようになっていた。


「今話した内容は簡略化したものです。一つの事について詳しく説明するならこの何十倍も必要です。ですからその詳しい事を学んでもらう為にこれから俺の研究を皆さんに手伝って欲しいのです。もう一人では限界なんです」


 暫く沈黙が続いた後、漸くミランダが口を開いた。


「ユウマさんが話した内容からすると、私が作った化粧品の研究も、もう私以上に進んでいるという事ですよね」


「化粧品の研究としてやった訳ではなく、魔力量が増えたことでエリーさんのような年齢の人の肌に変化が起きたことから、化粧品やポーションの研究をしました」


「しかし、ポーションにまだ改良の余地があったなんて……」


 錬金術師のローズからしたら驚きの事実であり悔しくもある事だった。ミランダやエマは独自に自分の研究をしていたが、自分は何もしていなかったことが悔しかった。


 ローズだって何もしていない訳ではない。勿論、他のメンバーもだ。それぞれに自分の持つスキル以外のスキルを発現させるために勉強はしてきている。恐らくフランク同様最後のカギの部分をクリアーすれば発現する可能性は大いにある。


「ユウマさん、鉱物と魔石の合成というのは錬金術だけでなく、鍛冶の世界にも革命を起こしますね」


「それなんですが、今は鉱物と魔石の合成ですが、ロイスさんもし他の物でも合成出来たらどうなると思います?」


「鉱物以外? どういう意味です?」


「例えば木材に合成出来たら、木材にも付与魔術が施せるという事です。例えば燃え難い木材にするとか、壊し難い木材にするとも可能という事です。勿論、木材と鉱物では色々と違ってくるでしょう。そういった研究を俺一人では出来ないので、皆さんに手伝ってもらいたいのです」


「成る程な、ユウマが言いたいことが分かったよ。これは確かに危険な知識だ。実際これまで売り出して来たものでも色々ともめ事があったからな。それに今では国外との関係もあるから、おいそれと公表できる知識じゃないな」


 世界を発展させる為には出来るだけ多くの事を共有するべきだが、今回皆に話した内容は前世でいう軍事利用が物凄くしやすい事が多く含まれている。その事にフランクは気づいたようだ。


「しかし、上手く使えば物凄く役に立つ知識でもあるんですよ」


「ユウマさんは結局どうするのが良いと思っているんですか? 知識の共有は分かりますし、公表し辛いものだというのも分かるんですが」


「俺は……」


 これらの研究成果は危険なものだから今は公表できないけど、研究は進めるべきだという事と、公表する前に研究を何段階も進めておいて小出しに公表するという内容を説明した。


「それって将来的に戦争になる可能性があるとユウマさんは考えているんですね」


「はい、人の欲というのは分かりませんし、国によって考え方も違いますから、今までは無くてもこの先絶対に起きないとは限りませんからね」


「確かに国際会議に出た私もそう思いますね。特許と度量衡の話だけでも色々揉めましたから」


「それを言うなら、国内でもですよ。変な貴族はいますから」


 スーザンは貴族としての教育から、戦争という危険性に気が付き、国際会議で人や国の欲に触れた二人も同意した。


「ちょっと個人的な話に戻して悪いが、ユウマが言ったステータスの数値の事なんだが、俺の鑑定でも見れるようになるという事なのか?」


「はい、その通りです。フランクさんの鑑定のスキルにもまだ伸びしろはあるという事です。ただそれが習熟度で成長するのか、魔力量に関係するのかは分かりませんが」


「それだと私達のスキルにもそういったことがあるという事なんでしょうか?」


「それは分かりませんが、無いとも言い切れません。それが今言える事です」


 そうは言ったが、スキル自体に進化があるというよりも、俺は別の可能性があるように思っている。錬金術と鍛冶のダブルスキル持ちの人の習熟度が上がったら、錬金鍛冶ともいえば良いような、錬成陣で鉱物から一気に剣が作れるようになるんではと思っている。


 勿論、両方のスキルの習熟度が相当高く、魔力量も無いと出来ないとは思うが、この世界のスキルが補正だけで終わるとは到底思えない。


 究極的に生産系のスキルを沢山修得したら、クラフトスキルのように何でも作れるように成ったりしたら夢があるよな……。














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