第202話 禁忌?

 クルンバの生態については説明したから、ここからはそれをどう解決するかについて話していく。そう禁忌に成るかもしれない事……。


 前世なら品種改良とかで済ませられるかもしれないが、さてこの世界の人にはどう映るのか?


 クルンバをこのラロックでも使えるようにするにはいくつかの方法があることを説明した。


「それって本当に出来るのか?」


「まだ分かりませんね。実際にやってみない事には……」


「いつものユウマさんらしくないですね。何か自信が無いように聞こえます」


 改善方法を説明した時に大きな反応は無かったが、魔石の移植という前世でいうDNAの改変みたいなことをやることに俺自身が抵抗を感じているから、どうしても言葉に覇気がない。


「自信がないというより、やって良い物か迷いがあるんですよ」


「それって魔物のレベルを無理やり上げるってことか?」


「そうですね。ただそれに成功するともっと他にも出来る事があるので、それを悪用されるのが怖いんです」


「でもそれだって、何時かは誰かが考え出す事じゃないですか? 医者が手術する時代に成っているんですから、研究や手術の練習の時に遊び半分でやる人もいるでしょ。そこまで気にする必要ないと思いますよ」


「そうですよ。それにまだ成功するとも決まっていないんでしょ」


 確かにそうなんだよな。ゴブリンで手術の練習をしてる時に魔石を入れ替えるなんて思いつく人はいるだろう。それに成功するとも限らないのも確かだ。


 魔物の魔石は心臓みたいなものだが、心臓ではない。おかしな言い方だが、臓器としての心臓は別にあって、それと対になっている物が魔石。


 この二つのどちらかでも無くなれば魔物は死ぬ。だから簡単に魔石を入れ替えると言っているが、そんな簡単なものでもない。


 前世でいう人工心肺装置のようなことが出来なければ、入れ替えは出来ない。もしくは賭けに近いが素早く交換して、止まった心臓に電気ショック的な魔法を放つか、強力な魔力を送り込むかしないと駄目だろう。


「皆さんの言う通りですね。やってみないと分からないし、やってみてその後の事を考えれば良いですね」


 この世界の人にはこういうことが禁忌という認識はないようだ。人族至上主義があるぐらいだから、魔物は最下層扱いだろうから、何をしてもかまわないという考えがあるのかもしれない。


 動物愛護ならぬ魔物愛護なんて今のこの世界にはまだないからね。ティムの魔法で魔物をペットのように飼うように成ればまた話は変わってくるだろうが、まだまだ先の話でしょう。


 生まれたばかりの魔物をティムして育てたら、性格の大人しい魔物に成るだろうか? それを何代も続けたら、前世の犬のようになるかも?


 ティムの魔法が無い時代に馬の魔物が飼いならされているぐらいだから、可能性は十分にある。


「それじゃ結論として、クルンバを捕獲して試してみるという事で良いですね」


「それは良いが、先ずはクルンバがいない事には何も始まらないぞ。どうやって捕獲するんだ?」


 そこなんだよな。俺が行って捕獲するのが一番早いんだが、今はあまり目立つことをしたくないんだよな。諜報員がわんさかいるからね……。


「スリープの魔法が一番得意なニックさんは病院があるから無理だし、国境付近に行くとなると、やはり商売関連でフランクさんかロイスさんに行ってもらうのが一番かな?」


「ユウマ、俺は無理だぞ。定規や物差しの件で今忙しいから」


 そうだった。フランクは今はそれで動いていたんだな。人が集まらないとつい先日嘆いていたぐらいだ。


「そうするとロイスさんに成るけど、出来ればもう一人ついて行ってもらいたいな」


「それなら私がついて行きますよ。クルンバの事も知っていますし、学校も病院も現状国に報告することもないですから」


 ん? やけにスーザンが積極的だな? 確かに国際会議の時も二人は一緒だったから、慣れているとは思うが、それだけではないような……。


 そうれはさて置き、確かにこのクルンバによる伝達手段が確立されれば、国に報告することになるだろうから、スーザンが詳しく知っておいて損はない。


「それじゃクルンバの捕獲はロイスさんとスーザンさんにお願いします。ジーンさんと打ち合わせして、日程を決めて向かってください」


「行くのは良いのですが、どのくらいの数を捕獲してきます?」


 そりゃそうだ。ただ捕まえてこいでは数は分からんよな。どのくらい必要だろうか?


「ん~~~、どのくらい生息してるかも分かりませんから、正確に数は決められませんが、最低10羽は欲しいですね。正直言えば多ければ多い程良いとは思いますがそこはお任せします」


「分かりました。出来るだけ多く捕まえてきます」


「そうだ! 忘れるところでした。スリープで捕まえるだけでティムはしないでくださいね。少し試したいことがありますから」


「また何か企んでいますね。無茶はダメですよ」


「人聞きの悪い事言わないでください。ティムの魔法に少し改良をしてみたいだけですよ。まして成功するかもまだ分かりません」


 今回試したいティムの魔法の改良は、個人の命令にだけ従うティム魔法。今までのティム魔法だと人を襲うなとかの簡単な命令で魔法を掛けた人に従順になれという物ではない。だから今度はもっと根源的に術者に従えと言うイメージを載せて、魔法を掛けてみたい。


 そうすれば、術者が魔法で躾けるのではなく、言葉で躾ける事に成る。犬の訓練と同じような物。人間の言葉を理解することはないだろうが、言葉の意味が何らかの方法で魔物に植え付けられるか、行動を抑制すると思う。


 魔物にも思考する脳はある。高魔力帯の魔物は集落を作る知能が有ることは分かっているから、訓練すれば知能の低い魔物でも簡単な命令は覚えるでしょう。


 魔物のステータスに数値はありませんが、あると仮定して知能の数値を上げてやれば覚えることも増えるはず。


 ティム後に基礎的な命令を教えた後、魔物のレベルを上げたらもっと高度な命令も理解できるようになるのではないだろうか?


 アニメやコミックのような人間の言葉を完全に理解するというのは無理だろうが、命令の言葉に対する行動は出来るようになると思う。


 それこそ、この世界の最強種ドラゴンは長寿命でしょうから、知能も高いから教えたら人間の言葉も理解するかも?


「ロマンだね……」


「ユウマさん、何か言いました?」


 サラって耳が良いな。俺のつぶやき程度の言葉でも聞き取るからな。完璧ではないからまだ良いけど、悪口だけは聞き逃さないなんて言う特技があったら、下手なことは絶対に言えない。


 話し合いをしてから数日後、ジーンが交易所に店舗設営の準備とビーツ王国側の商人との打ち合わせに行くと言うので、そのキャラバンにロイスとスーザンが同行した。


 交易所に寄った後、ジーンはビーツ王国の海まで行って今回も魚介類を仕入れてくる。その時にその町の商人と今後の魚介類の仕入れについて交渉してくる。


 その交渉に間にロイスとスーザンは交易所付近でクルンバの捕獲を行う。普通ならこういう事は冒険者の仕事だが、如何せんこの二人は冒険者よりもレベルが高いし、ロイスなんて高魔力帯のオークやオーガの集落をフランクと二人で殲滅できるだけの武力があるから、この辺りの魔物なんて相手にならないから、冒険者を雇う意味がない。


「ロイスさん、あれを見てください。あれが多分クルンバですよ。特徴的に間違いないと思います」


「そうですね。大きさも羽の色も特徴が一致していますね。それじゃ沢山いるようですから、どんどんスリープで眠らせていきましょう」


「ダメですよ。先ずは木の下にネット貼ってからです。このまま眠らせたら落ちて傷つきます」


「あ! そうでした。ユウマさんに言われていましたね。捕獲するなんて初めてでしたから、忘れていました」


 それからジーンが交易所に戻るまでの2日間、二人はこれでもかという程の数のクルンバを捕獲し続けました。








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