第203話 マッドサイエンティスト

 ロイス達がクルンバ捕獲に向かった後、俺はサラにも内緒で、ある実験をしていた。昼間はサラは俺から殆ど離れないので、夜皆が寝ている夜中に病院の手術練習場で捕獲してきたゴブリンを使って、魔石の入れ替えが出来るかを試している。


 病院には元から練習用にゴブリンを捕獲してあるが、数をきっちり管理してるので、それは使えない。だから実験の前にサクッと魔境の森で調達して来た。


「うひゃひゃ、今からお前たちを改造ゴブリンにしてやる。嬉しいだろう」


 夜中にこんな事をしてるから、変なテンションに成っているが、いたって真面目な実験ですよ。


 先ずは外部から魔石に魔力を流してみて反応を見てみる。結果はある程度流してみたが変化なし。というより途中から入らなかった。


 これを自然の法則に当てはめて考えると、魔物は高魔力に長期間晒されないとレベルも、魔石も大きくならない。だから外部から流しても短時間では効果がない。そう考えた方が辻褄が合う。


 それだと切開して魔石に直接流しても同じではないだろうか? そうするとやはり、入れ替えるしか方法はないのかもしれない。


「うひゃひゃ、やはり改造するしかないようだ。どんな化け物に成るか楽しみじゃのう」


 何だかこのテンションの方が実験が上手く行くような気がする。気のせいだろうがノリノリでやれそうだ。


 先ずはレベル3のオークの魔石と交換してみよう。このゴブリンもレベル3だから大きさが違うだけの同レベルの魔石。


「どうやるかな? 魔石を素早く切り離して、直ぐに違う魔石を置いてポーションを掛ける方法が無難かな?」


 考えた通りにやってみたら、予想通り心臓は直ぐに止まった。そして魔石を変えても心臓は動かなかった。


「よし!、予想通りだ。次は静電気をイメージして電気ショックを心臓に与えてみよう」


「バチン!動かないな。それじゃもう一度、バチン!ダメか……。それじゃ魔力を濃縮したイメージで一度に心臓に流してみるか? ドン! おぉ~ 動いた! 動いたぞ~」


 これはどういう事なんだろうか? 人間の場合は電気信号によって筋肉は動いているから、心臓を再起動させるには電気ショックが良いのだが、ゴブリンの心臓は電気ショックでは動かなかった。


 この違いは、人間に魔石が無いからなのかもしれない。魔物は心臓もあるが魔石もあるから、筋肉を電気信号ではなく魔素で動かしているのかもしれない。


 これもいつか検証しないといけないな。もしかしたらだがこの世界の人間の筋肉も電気信号ではなく魔素で動いてる可能性もある。まだ心臓が止まった人の蘇生をやったことが無いから分からない……。


 以前エネルギーについて考えた時に電気=魔素という仮定を考えたよな。雷が電気の放電ならこの世界の雷は魔素の放魔と考えたらどうだろう?


 見た目が前世の雷のように見えているだけで、電気ではなく魔素だと考えれば面白い仮説が成り立つ。


 他にも魔素には種類があるとか? よくラノベとかにある様に土属性の魔素、火属性の魔素とかが存在してると仮定すると、いきなり炎を作ることが出来るのも納得できる。


「マジか~~ これはまた面白そうな研究課題が出来てしまったぞ。うひゃひゃ」


 取りあえず魔石の交換は出来たが、目的はこの後の事だ。魔石を変えられたゴブリンがどうなるかという事。これを調べるのが今回の目的なのだから、経過観察の方が重要。


 経過観察には時間が掛かるから、もう1匹でもう一つの実験をする。次は入れ替える魔石を高魔力帯のレベル5のオークの魔石にしてどうなるかを観察する。


 やり方は同じなので、問題なく入れ替えは出来た。心臓も直ぐに動いたからやり方はこれで確立したと言って良いようだ。


 2匹とも眠らせた状態のまま、隔離して観察していたが見た目的には変化がなく、時間だけが過ぎて行き、この後をどうするか暫く悩んでいると、いつの間にか眠ってしまっていて、気づいたら朝だった。


 気づいただったら良かったのだが、正確には起こされたのだ。それも最悪の人に……。


「ユウマさん! これはどういうことです! 説明してください!」


 マジで怒っているね。サラにあれほど自重しろと言われていたのに、サラに隠れてこんな事してたら怒るのが当たり前だよ。


 それにしても気が利かないよね。俺を見つけた生徒がニックに知らせていれば、こんな事には成っていなんだよね。なんでサラに知らせるかな……。


 まぁサラが俺の婚約者だという事は知らない人がいないくらいだから、こんな場所で俺を見つけたら、まぁサラに連絡するのが普通か……。


「あのですねサラさん、これには深い事情がありましてですね。その……実験の経過観察をしてたら……、そのまま眠ってしまったというか……」


「そんな事はどうでもいいんです。どうせユウマさんの事ですから、我慢できずにやった事でしょうから。でもあれはどう説明するんです」


 サラが凄い剣幕で指さした方を見た時、俺は自分の仮説が正しかったと思う反面、この結果をどう説明しようかと困惑した。


 そこには普通に変化がないゴブリンと、見たこともない大きさのゴブリンがスリープの状態のまま横たわっていた。


 変化したゴブリンは大きさ的には普通のゴブリンの1.5倍ぐらいで、顔つきまで変わっていた。俗にいうホブゴブリンだろうか? 恐る恐る鑑定をしてみると魔物の名前の前に新種と出ていた。


 やばいよね。というかやばいで済ませるような内容じゃない。これは間違いなく世界がひっくり返るようなことだよ。新種の魔物を作り出してしまったんだから。


 冗談ではなく改造ゴブリンを誕生させてしまった。秘密結社ショッカーも真っ青だよ。ちょっと古すぎるか、今風ならウイルスじゃないけどアンブレラか?


 こうなってしまったものはしょうがない。兎に角今はかん口令をしいて、情報の拡散を止めないといけない。


「サラさん、この事を知ってるのはどのくらいますか?」


「幸いにもユウマさんを見つけたのが私の国の生徒だったので、直ぐに私に知らせてくれたので、確かめてみないと分かりませんが、多分グーテル王国の生徒ぐらいだと思いますよ。まだ他の学生が来る前だったようですから」


 たまたま発見した生徒は自主練の為に朝早く来たようで、まだ病院自体に生徒は誰もいなかった。だから恐らく広まっていても同郷の生徒ぐらいだろうという事だった。


「そうですか。それなら申し訳ありませんが直ぐにかん口令を敷いて、これ以上広まらないようにしてください。その間にこのゴブリンは始末しておきますので」


「かん口令はもう言い渡してあります。こんな物広めるわけにいきませんから、ですがこれを始末するのは少し待ってください」


 なんで? これは早くこの世から抹殺した方が良いと思うんだが、どうしてサラはそんな事言うのだろう?


「お! お前という奴はどうして大人しく出来ないんだ!」


 そこに怒りながら飛び込んできたのはフランク、サラはもうフランクに報告していたみたいだ。


「いや……、その……、なんというか……」


「好奇心でやったのは分かるが、いつも言ってるだろうやる前に言えと、やるなとは言わないから、せめてやる前に行ってくれよ……。頼むから……」


「またユウマさんがやらかしたそうですね。今度は何をしたんです?」


 次に悪態をつきながらやって来たのはローズだった。その後も今ラロックにいないロイスとスーザンを除いた、賢者候補が全員集まって来た。勿論全員、それぞれに悪態を言いながら……。


「お前あの魔物は新種と俺の鑑定に出ているが、何をした?」


「何をって、クルンバの話をした時に魔石の入れ替えの話はしたでしょ。それが本当に出来るかゴブリンで試しただけだよ。まぁ入れ替えた魔石に問題があったみたいだけど……。」


 流石にレベル3のゴブリンにレベル5のオークの魔石はやり過ぎだったかな? でもこれで魔物も進化するという事は証明されたんだけどね。


 サラには処分すると言ったけど、本当は繁殖させてみたいんだけどね。もしそれで生まれてくる魔物がレベルを維持してたら、家畜として飼っているオックスも進化させられるか、肉の質が上がるかもしれない。


 まぁゴブリンでやる必要性は無いんだけど……。



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