第204話 ティム魔法の進化

「どうするんだよ。こんなの国に報告なんて出来ないぞ」


「そうだよね。でもこの技術でオックスの品種改良はしたいと思っているんだよね」


「成る程な。そういう使い道もあるのか……。しかしな~~」


 オックスの品種改良は確かに問題ないだろうが、やり方を公表してしまえば、結局は今回のようなことをする俺みたいな奴は出てくる。


 レベル5の魔石が手に入らないからこのような進化は無いと思うが、レベル1の魔物にレベル3の魔石の実験はしていないから何とも言えない。


 今回のホブゴブリンは魔石を交換しても元のレベルで進化したから、レベルは3だった。それと同じ法則ならレベル1のゴブリンにレベル3の魔石でもホブゴブリンのレベル1に進化すると考えられる。


「皆が集まってるから、もう一つ実験がしたいんだけど、やっても良いかな?」


「お前という奴は~~~、懲りないというか、よくこの状況でそれが言えるな」


「でもね、これも物凄くこの先役にたつことかもしれないんだよ」


「そこまで言うなら、一応話だけは聞いてやるから言ってみろ」


 俺がもう一つやりたかったことは、魔石の合成。錬成陣で鉱物と魔石の合成が出来る事は分かったから、それなら魔石同士の合成も出来るんじゃないかという事を思いついた。そして知りたいのはその魔石のレベルがどうなるかという事。


 あれ? さっきレベル5の魔石は手に入らないと思ったけど、作れるならこの前提は崩れてしまう。


 レベル1同士の魔石を合成してレベル2の魔石に成れば、人工的に高魔力帯の魔石が作れるという事に成る。これが成功したら魔境の深部の魔物を倒さなくても高レベルの魔石が手に入れられるようになる。


 こんな感じの事を説明したら、付与魔法の事をまだ説明していないことに気づいてそこから説明することに成ってしまった。


 付与魔法には高魔力帯の魔石があった方が良いが、魔物の進化にはない方が良い……。物凄く矛盾してる、まだ皆が理解していないから突っ込まれないけど、これは時間の問題だな。


「ちょっと待ってください。ユウマさん、流石に一度にこれだけの事を言われても理解できません。魔石に関しては私の化粧品とも関係するし、付与魔法はエマの研究にも関係する。どう考えても一つの研究だけでは終わりませんよね」


 そうなんだよ。今回の研究は物凄く多岐にの事に関係してくるから、おいそれとは広められない。


「ユウマさん、これは一旦処分で諦めてください。兎に角全員が揃った段階でもう一度協議しましょう。良いですね!」


 ヤッパリそうなるよな。ここはサラの言う事を聞いておくしかないようだ。


「ユウマ、サラ様の言う事が正しいからそうしろ。ただ魔石の合成については俺も興味があるからそれだけはやってみろ。その結果が次の会議でも役に立つだろうからな」


「それじゃさ、処分する前にこれは試して良い? ティム魔法の改良」


「まだあるのかよ……」


「これはクルンバの活用に必要なことだから、どうしても確認しておきたいんだよ」


 魔法の改良だけなら、今やる必要はない。オックスで後でも確認できるのだが、個人の命令をどこまで聞くかを確認するのと、人間に構造が似ているゴブリンなら複雑な命令も出来るから、どこまで出来るか調べてみたい。


「しょうがない、それなら今すぐやって、終わり次第処分だぞ。皆もそれでいいよな」


 フランクの言葉に皆も渋々了解してくれたので、早速実験をやってみる。先ずはスリープを解く前に改造ゴブリンと改造ホブゴブリンにティム魔法に俺個人の命令に従えというイメージを載せて、魔法を発動した。


 皆には見えていないけど、俺には発動した魔法の魔方陣がゴブリンに吸収されたのが見えたので、魔法は一応掛けられた。問題はここからゴブリンを起こしてからが本当の意味での実験。


 ゴブリンを檻の中に入れてから、スリープを解く。目が覚めたのを確認してから、檻に近づくと攻撃して来た。だから一番初めに人間を攻撃しないという命令をする。


 少し時間を空けてから、もう一度檻の近くまで行ってみたがゴブリン達は全く反応しない。今までのティム魔法は魔法を発動する時に具体的な命令をイメージして発動していたが、今回は俺個人の命令を聞くようにという漠然としたイメージ。


 具体的な命令は後からするというのが今回の魔法。これなら後からいくらでも命令を変更できる。但し個人の命令だけだが……。


 これも人間の命令というイメージを載せたら誰でも命令出来るようになるのかな? もし出来てもそれはしない方が良いな。誰でも命令出来たら命令を他人が勝手に書き換えられる。


 人を攻撃しないことは命令出来たので、次は命令通りの行動をするかを確認する。


「座れ!」 「立て!」 「手を上げろ!」 「ジャンプしろ!」……。


 簡単な命令を重ねていったけど、問題なく命令通りに動いた。


「こんな感じで魔法は成功したみたいだけど、皆はどんな行動をさせてみたい? 意見があったっら言ってみて。でも命令できるのは俺だけだからね」


「おいおい、そんなことが出来るのかよ。それなら俺は荷物を運ばせてみたい」


 フランクから案が出たのを皮切りに、皆も興味が湧いたのか、どんどん色んなアイディアが出てきた。


 皆のアイディアを一つづつやってみた結果、あまりにも複雑な命令は無理だが、道具を持たせて、穴を掘り、出たものを運ばせるぐらいは出来そうだった。


 穴を掘るもの、出た土砂を運ぶものに分ければ、トンネル堀りなどの危険なことをさせられる。


 この魔法の進化の確認はまだこの先にある。それは命令を記憶するかという事、言い換えれば学習するかとも言える。


 穴を掘れの命令を暫くやらせた後に、今度は出た土砂を運ばせる命令をし、これも暫くやらせた後に、今度は命令を重ねて、穴を掘って、土砂を運べにしたら出来るかを確認したい。


 前世でいうと動物の調教と同じような物。簡単な命令から徐々に複雑化していく。勿論限度はあるだろうが、その限度を知るのも実験。


 これに成功したら俺にはやりたいことがある。魔境の深部に色々な鉱石が取れる山や岩塩が取れる所があるから、将来的にそこでの労働力に使いたいのだ。


 勿論、自分で採掘する方が早いのだが、どうしても俺という人間はやりたいことが多すぎるから、人任せならぬゴブリン任せに出来るところはそうした方が効率が良くなると思うんだよね。


 ただ、深部だから生活的なことは本能でするとしても、食料の調達が弱いゴブリンでは無理。だからある程度のレベルのゴブリンかホブゴブリンじゃないといけないから、その辺も考慮して強化しないといけない。


 その強化も注意しないとティムの魔法が解けないとも限らないから、長期間の検証をしてからになる。それだとやっぱり魔境の奥にそういう専門の施設を作った方が良いかな?


 何か益々秘密結社の改造ゴブリン製造工場みたいになりそうだが……。


「ユウマ、これだけ命令を聞くという事はクルンバでも成功するんじゃないか?」


「たぶん行けそうです。ただ進化はさせるとどうなうか分からないので、その検証次第ですね」


 魔物が進化するという事は、前回は見つけられなかったが、もしかすると魔境の深部にはオークの進化したものがいるかも? それがオークキングなのかハイオークなのかは分からないが……。


 それに、ゆっくり進化するのと急激に進化するのではまた違ってくる可能性もあるな?


 ティムした魔物が世代を重ねたら、魔物自体の知能が上がり将来的には、従魔と呼べるものに進化するかも? 人間だってサルから進化したものだ。魔物だってならないとは限らない。


 何万年? いや人の手が入るからもっと早くなるかもしれない……。


 魔物には突然変異というのは無いのだろうか? 現状からみると無いと思って良いみたいだ。あるなら変異種が記録に有っても良いはずだからな。


 ただ、それだと人種に種族があるという事の説明がつかないんだよな。人種だけは例外なのか? 地球のような進化はなく神が初めから作った物なのか?


 もしそれが正解だと、俺のやってることは本当に神に逆らう禁忌なのかも……。

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