第205話 伝書クルンバ
病院での騒動の後、しっかりサラの言いつけ通り、強制的に進化させた、ホブゴブリンは処分した。俺自身はもったいないと思ったが、流石に飼育する場所もないし、秘密が漏れるリスクを抱えたくなかった。
その時に色々とお披露目した知識の方の実験を皆にせがまれたのもあり、それ以上の研究が出来なかったのも理由の一つだ。
付与術が出来る錬金術三人衆には魔石の合成は物凄く興味のあることだし、魔刀を持っているフランクにしても魔法剣や魔法武器には興味が尽きない。ある意味戦闘狂に成っているからねフランクは……。
付与術の可能性が広がったこともかなり大きい。ティムの魔法の改良を目の当たりにしたから余計に魔法の改良、特に付与術の改良や新しい付与術の開発に熱心になってしまった。
スキルにアクティブやパッシブがある様に魔法にもあるという事を教えたら、魔道具のアクセサリーを研究してるエマが一番食いついて来た。
それまでエマの研究の手伝いをしていたローズには、身体強化の魔法を他人に付与出来ないかという課題を与えてみた。その他にもローズはイメージ力が非常に高いから、俺が使っている重量軽減の魔法も練習させている。
この魔法を教えるのには非常に苦労した。重力や引力の概念を教育しないといけないからね。星が自転してることから教えないと重力の説明が出来ないから、絵を描いたり、模型を作って説明した。
ただ、この世界の重力が地球の重力と同じかどうかは俺自身もまだ解っていない。魔磁気と同じように、魔重力という可能性もあるから……。
他にも色々やらせたいんだけど、先ずは支援魔法が出来るかの検証が大事だから、あれもこれもはやらせない。
本当は身体強化が付与出来たら、身体強化2倍なんて出来ないかな~? なんて思っているが、口に出してしまうと俺も止められなくなるし、ローズもやらかしそうで怖いから言わない。
普通に考えて身体強化もHPがそれなりに無いと習得できないから、これの2倍なんて、もし出来ても体の方が持たないような気がする?
魔法はイメージ、身体強化2倍のイメージと体が持てば出来そうなんだよね。俺なら……。 もしくはスキルに成るか魔法に成るか分からないけど、縮地なんて出来たりするかも? アクセルなんていうのもあったけど、この世界はどこまでの魔法やスキルを許すんだろう……。
ディメンションホームなんて出来たら、冷蔵庫や冷凍庫を作った意味がなくなるな。
ロイスとスーザンがいない時にこんな事してると、後でかなり僻まれるとは思うが仕方がない。俺が余計なことをしてしまったから、知識を公表しなくてはいけなくなったし、実験をさせないと皆が収まらない。
そんな事が数日続いたが、漸くそれから解放される時がやって来た。ロイス達が帰って来たからだ。それも驚くほど多くのクルンバを捕獲して。
「ロイスさんご苦労様、それにしてもその数はどうしたんです? 出来るだけ多くとは言いましたが、どう見ても50羽以上いると思うんですが……」
「それが……。実際現場に行ったらものすごい数のクルンバが居まして、20羽ぐらいで止めようと思ったんですが、やりだしたら面白くなってしまって……。此処にはこれだけですが、本当は交易所にまだこの倍以上捕獲してるんです」
ティムの魔法は改良したけど、よく考えると対象が増えたらどうなるんだろう? 従来のティム魔法なら数に問題ないのは、オックスで立証されているけど、改良型の方も無制限にティム出来るんだろうか?
アニメなどの従魔契約や召喚魔法とは違うから、魔力を常に消費する訳じゃないから、大丈夫のような気はするが、それだとバカなやつがいたら魔物の主人、魔王に成ってしまうかも?
これは一度レベルが低い人に高レベルの魔物がティム出来るか試した方が良いかもしれないな。アニメなんかだと魔物を弱らせないとティム出来ないなんて言うのもあるから、法則的に可能性があるのは術者のレベルが低いと高レベルの魔物はティム出来ないという制限が有りそうだ。
「そんなにですか! それはどうするか考えないといけませんね」
「ユウマ、それは良いけど、その前にあれはどう見てもクルンバの挙動がおかしいぞ」
フランクが言う前から俺も気づいてはいた。その理由も推測は出来ているから敢えて無視していたが、あれを見たらそう言いたくなるよな。
多分、この地域の魔素がクルンバ達の生息域より濃いから、方向感覚がおかしくなっていて、一種のパニックに成っているんだと思う。
魔素が濃いといっても、人からすれば微妙なものだが、クルンバにとっては異常なんだろう。これを解決してやらないとこのパニックは収まらないと思う。
「取り敢えず一度例の実験をしてみてどうなるか確認しましょう」
「それはそうなんだろうが、ユウマこいつらの魔石って多分物凄く小さいぞ。ホーンラビットの魔石でも例の変化が起きかねないぞ」
確かにそうだ。鳥の魔物で雑食の魔物だが、性格は大人しいからレベルも低く、この魔素の濃さでも反応するぐらいだから、魔石はかなり小さいだろう。
ホーンラビットの魔石も俺はこの地域の物しか見たことがないが、もしかすると魔素が薄い所だとレベルが同じでも小さい可能性がある。
「エマさん、魔石の合成は出来ましたか?」
「えぇ、一応は出来ましたが、レベルが低く小さい物だけです」
エマの魔力量だとそれが限界なのかも? 出来る事は証明されたなら、出来ない物があるという事はその要因があるという事。それは恐らく魔力量か習熟度だけど、錬金術師で習熟度は問題ないエマなら、出来ない理由は魔力量だという事に成る。
「それなら、魚の魔石は合成出来ますね」
「おい! ユウマ、魚の魔石なんてどうするんだ? あれは物凄く小さいぞ」
「一度クルンバの魔石の大きさを確認した後に、その大きさより大きくなるように魚の魔石を合成で大きくして、入れ替えてみようと思うんです。それなら例の変化も起き難いと思うんですよ」
「そういうことか、魚の魔石なら極端に大きくならないからその可能性は高いな」
「何にしても兎に角やってみてからですが……」
実験の結果、魚の魔石をクルンバの魔石の1.5倍にしたものに入れ替えても進化はなく、パニックは収まった。
これでまた需要が出来たな。魚の魔石なんて殆ど使い道が無かったから、これから漁師の収入が増える。まぁ微々たるものだが……。
「問題は此処からです。クルンバの帰巣本能が何を利用してるかです?」
「それはどういう意味だ?」
普通に考えれば鳩のよう脳内に方位磁針を持っていて、それで帰巣してると思うが、この世界には魔磁気もあるが魔素もあるから、個人にティムされた魔物なら、個人の魔力を記憶することも出来るんじゃないかということをフランクに教えた。
「確かにそうだな。個人の命令を聞くという事はその人物を認識してるという事だから、魔力を認識してる可能性はあるな」
ただもしそうだとしても、認識範囲、人のスキルでいう魔力感知の範囲と同じように認識できる距離が制限される可能性がある。それでもちゃんと遠くから帰巣もしくは個人のいる場所に帰れるなら、両方を使っていることになる。
「兎に角色んなパターンで実験してみるしかないね」
伝書鳩に航空写真を記憶させるという実験に成功した例もあるから、色んなパターンで訓練をしたら、前世の伝書鳩より出来る事が増えるかも?
アニメのようにどこからでも魔力を認識できる可能性もあるが、そうでなくても決まった場所なら往復できるように出来れば、最低でも郵便事業的なことは出来る。
馬車や馬で10日の距離でもクルンバなら1~2日、下手すると数時間で行けるから、連絡方法の革命に成る。
ラロックから領都までなら、30分~1時間で行けるんじゃないかな?
「先ずは、グラン商会の輸送部門に持たせて、どのくらいの距離からなら帰巣出来るか試験をしてみましょう」
「それなら、輸送部門の奴にティムさせればもっと色々試せるな」
魔力を覚えるように命令出来ればもっとやれることが増える。個人間でのやり取りが出来るという事だから……。
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