第67話 馬車完成

 法律施行の1月から始めた馬車作り4か月掛けて漸く馬車が完成した! 現在増産に取り掛かっている。


 10台生産後特許登録をする、半分は献上品、残りは当然自分達で使う。


 これでラロックと領都の時間的距離が近くなった。


 朝早く出れば夕方には到着できるようになったので2日で往復出来る。


 今までは往復3日。そこまで危険ではないが必ず野営をしなくてはいけなかったが、その必要が無くなったことで往来が活発になる。


 活発になる事での恩恵は多い、物価が安くなるのは当然、それ以外にも……


 この辺境では盗賊もいないので街道から外れなければ出てくる魔物はレベルが1~3の人でも倒せる物ばかりだから、野営という移動での一番の弊害が無くなった事で今まで町からあまり出なかった人も活動範囲が広くなり、人の往来が増える事で出会い、繋がりの機会が増える、増えれば商売も盛んになるし、人口も増える。


 人口が何故増えるのか?


 生涯レベル1の人がいるぐらいあまり町から出ない人の方が多いこの世界、一つの町だけでは恋愛という面で出会いが少ないから生涯独身という人も多い。


 ラロックでは農家の次男、三男がその筆頭。


 一方ミランダ達の実家のように独身女性が多い所もある。


 世界全体では男女比はそこまで偏っていないだろうが、小さなコミニュティーでは偏りがこの世界ではある。その結果人口が増えないのだ。


 第一次ベビーブームが来る日も近いかも……


 その兆候は既に起きてる、拠点で働く農家の次男坊や三男坊と錬金術師やその見習い達の中にカップルが何組か出来ている。


 良い事だけど、このまま放置という訳にもいかない。何か考えないと。


 近いうちにグラン達と相談して妻帯者ようの社宅でも作るかな?


 時は少し前、馬車の製作に掛かる前にグラン達と会議をした時の事。


「グランさん、鍛冶職人が来てくれたから、俺はこれから馬車を作ろうと思う」


 いきなりユウマから馬車を作ると言われて、その理由が鍛冶職人とどうつながるのか解らないグラン。


「馬車は木工職人の仕事だよ、鍛冶職人は馬車を作らない」


 この世界の馬車は木工職人が作っている、勿論木材だけでは無理だから補強の金属は鍛冶職人も作ってはいる。


「それは知ってるけど、俺は鍛冶職人と馬車を作りたいんだ、それが完成したら凄い事が起きるよ!」


 ユウマが言う事だ、これまで何度も脅かされてきたグランは理解は出来ないが、無理やり自分を納得させるしかなかった。


「その凄い事はどんな事だい?」


 グランは馬車の事は棚に上げて、その後に起こる事の方が自分に関係しそうだと思って聞いた。


 その時グランは本当に聞いておいて良かったと会議の後自分を褒めた。


 ユウマの話した内容は、流通の革命ともいえる内容だった、時間短縮に大量輸送という商人なら夢の様な話、ユウマの話ではそれだけでは終わらないようでもある。


 この時ユウマはメリットの話の中に敢えて戦争でも有利に働くことは言わなかった。


 馬車が広まれば当然気づく人もいるだろうが、それで躊躇してしまっては文明は進まない。


 身を守るための剣、狩りをするための弓、結局そういう物も戦争で使われる。


 大航海時代に大型の帆船が出来たことで世界中で侵略が行われた、それでも善悪を考えなければ文明の進化の要因だ。


 またその逆もある、インターネット、GPS等は軍事技術から転用され人類の文明が進化した。


 馬車の開発が進むにつれてユウマの話の現実味を実感してきたグランは領都でジーンと話し合った。


 グラン商会の商圏は今の所ほぼゾイド辺境伯領だけだ、でも馬車が完成しユウマの言う様に移動時間が短縮され、大量に物が運べるように成ればその商圏は広がる。


 グラン商会の店舗は領都とラロックにしかないが、それ以外の町にはグラン商会から配送されている。


 領都に一度集まった物が各町に配れている。現代で言う中央市場的機能を領都の一商店がやっているのだ。他にも似たようなことをやってる商店もあるが規模が小さい。


 その配送をやってるのが行商や人や荷物を馬車で送ることを生業にしてる人達だ。


 そう言う人達は全て個人事業主、配送を専門にやってる業者はいない。


 行商は商人ギルドに所属してる、その他は馬車ギルド。


 同じような事をしてるのに別組織、それが改良馬車が出来る事で変革が起きる。


 行商は今まで店舗も無い様な小さな村が商売相手だった、そこに必要な物を売るついでにその村から商品に成る物を買いグラン商会などに売る。


 そのついでに人の移動もすることがある。


 馬車ギルドの方は店舗があるような町への人や荷物の配送と回収、それとは別に良くある乗り合い馬車も走らせている。


 グランは敢えて商圏は広げないようにジーンにいう、その代わりグラン商会に配送部門を作るよう進言する。


 グラン商会は特許の事で目立ちすぎている。その上商圏を広げれば当然やっかみが酷くなり、何が起きるか分からない。


 グラン商会の業態は雑貨屋だが何でも扱ってる雑貨屋だ、でもユウマのおかげで今ではその何でも屋は従業員任せに成っている。


 グラン一家は拠点の商品だけで商売が成り立っている、十分すぎるほどに……


 だからラロックと同様、領都のグラン商会も従業員に全て任せグラン一家は拠点に集中しようとジーンに言った。


 それなのに馬車部門とジーンは疑問に思った、だが最後まで父親の話を聞いて納得した。


 この先流通に変革が起きるのは確かだが、それがどのように変わるか想像できない。


 今の流通の仕組みならグラン商会は強いけど、変革の内容によっては競争相手が沢山出来たり、馬車ギルドが強くなり商売に弊害が出るかもしれない。


 それなら何時でも今の雑貨屋は止めることが出来るようにして、馬車ギルドが強くなっても問題が無いように配送部門を作っておこうと言う事だった。


 馬車の完成までにグラン商会は配送部門創設に動いていた。

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