第68話 配送部門

 馬車の完成前に配送部門は創設されていた。グラン商会の従業員の中から責任者を、それ以外はラロックと領都の商業ギルドと冒険者ギルドに求人を掛けて募集した。


 勿論、面接はしましたよ。グランとフランクの鑑定付きで。


 幸い犯罪者の称号を持ってる人は居なかったし、鑑定疎外の魔道具持ちもいなかったので、グラン商会男性陣の面接だけで10人採用しました。


 内訳は両ギルド5人づつ、配送を一台の馬車につき商人と冒険者の二人一組でやって貰う為。


 理由は言わなくても解るよね……


 馬車の完成までは研修、拠点で生産されている商品の知識や輸送の際の注意点など様々。


 これには俺も口を出した、この拠点は世界の最先端を行くのだから、配送部門も最先端でなくてはね。


 前世の輸送業者や引っ越し業者の様な配送のプロに成って貰えるように……


 研修には当然試作車を使ってもらって、テストドライバーのような事もやって貰った。


 その陰で完成した馬車は従来の物より全長が長い、1.5倍ぐらいかな。


 この馬車の特徴は台車式、だから上物だけ作りを変えれば乗用にも荷物用にもできるし、その両方も出来る。


 だから鍛冶なんだよ、これを説明した時のグランの顔は今でも忘れられない。


 最終的に一番苦労したのは、他でもない車輪。


 タイヤは作れたんだよ、ゴムの木はあったし硫黄も俺が見つけたからね、でもどちらも普通の人では採りに行けないところにある。


 それでは意味がないんだよね、石灰石はいずれどこかで見つかるだろうから、今は俺が支給してても問題ないけどゴムや硫黄を支給し続ける事は無理。


 世界を探せば両方ともあるとは思うよ、でもこの国にはどうも無いみたいなんだよね。


 だから俺の知識として本には残すつもり、此処に行ければあるよとね。


 ではどうしたか? スライムの加工品がガラスの代わりに使われていたよね、硬く出来たんなら、その硬さを調節できないかと研究したんだよ、そしたら出来るには出来たんだけど今度は耐久力がない、直ぐにすり減ってしまうんだ。


 クッション性はゴムのように出来たから、後はどうやって耐久力を持たせるか、タイヤだってずっとは使えないんだから、ある程度持てば良い。


 そこで考えたのが魔物の皮、皮でスライム素材を包んでしまえばそれなりの耐久度とクッション性は保てるのではないかと考えた。


 しかしこれも駄目だった、チューブの様には出来てもつなぎ目が切れてしまう。


 魔物の皮は二枚重ねにすれば十分耐久力はあったから、チューブにはせず木製の車輪の周りにスライム素材を厚めに置き、魔物の皮で包んで皮を直接車輪に固定した。


 スライム素材は液状ではないので皮のつなぎ目に隙間があっても漏れる事はない。


 前世のタイヤとホイールの様には出来なかったが、クッション性と耐久性を備えた車輪が完成した。


 今回使ったのはオークの皮、魔境の森の魔物ならスーモールボアでも大丈夫だろうがレベルの低い普通の森の魔物だとオークじゃないと無理だった。


 これからスライムの需要は増えるけど今のままでは車輪が高額になってしまう、なぜならスライムガラスが高額な理由と同じ。


 スライムガラスを作っていたのも実は錬金術師、当然ミランダ達も作れたよ、それなのに普及してないのはスライムの大量捕獲が出来ない事と作るのが凄く面倒なのだ。


 スライム素材自体は安い、だけどそれは冒険者にとっても安いということ、だから依頼を出して調達するのだが、そうすると自然と錬金術師の所に来る時は値段が上がる。


 結果材料費も高く面倒だからスライムガラスは高くなる。


 その解決策として森の俺の拠点のスライム浄化槽を応用してスライムを養殖する。


 養殖のメリットは他にもある、スライムの硬さ調節を研究してる時に色んな硬さが出来たんだ。


 その中に割れ物を輸送する時に緩衝材に出来そうな硬さの物があった。


 他にも綿の代わりに袋に詰めればクッションに出来る硬さも、それも割と簡単に出来た。


 要はスライムをガラスの代用にするぐらい硬くするのが一番面倒だったと言う事。


 これもこの世界のおかしなところ、スライムガラスを始めて作った人に発想力?

 応用力? があればその過程で出来た副産物はもう利用されていただろう。


 フランクにこの話をしたら目が輝いていたね。配送部門の効率は良くなるし、途中の商品の損傷も無くなる。


 クッションという新商品も出来た、クッションも硬さを変えれば御者台にも乗用の馬車にも使える。


 世界一の馬車で世界一の配送、グラン商会の配送部門は世界一。


 いや、これだけでは駄目だ、配送業者といえばユニホームが無くては、どうせならグラン商会全員(拠点従業員含む)の職種に合わせたユニホームを作ろう。


 そうは言ってもそこまでこった物は作れないので、店舗店員は上下の分かれた前世の作業服の様な物、拠点の職人と配送部門の人達は色違いのつなぎ、勿論ファスナーは無いので全部ボタンだけど、ボタン隠しの構造は何とか再現して貰った。


 錬金術師の女性たちは特別な物じゃないけど同じデザインで色を統一した服を用意した。


 この世界綿はあるから木綿の服はある、それでも庶民の多くは麻の服を着てる方が多い。


 絹の様な物はあるにはあるけどべらぼうに高い。だってこの世界の生き物って殆ど魔物ですから、蚕のように飼いならす事が出来ないので素材を集めるのは冒険者なので当然高くなる。


 ちなみに俺の着てる服は魔物のクモの糸素材、切れないわけじゃないけど結構強い。


 配送部門のメンバーは時間を見つけては魔境の森の浅い所でパワーレベリングもしている。


 当然冒険者の方は商人よりハードに、改良ポーションをただで使えるから無理も出来る。


 ポーションを湯水のように使うので、元冒険者達は複雑な顔をしていたけど……












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