第317話 おめでた
「サラ! 知らなかったとはいえ走らせたりなんかして御免!」
「しょうがないです。私もちょっと体の調子がおかしいぐらいにしか思っていませんでしたから」
「それでも……」
何で俺は前回の魔境でのレベル上げの時ステータスで気づかなかった? 急いで全員のレベルを確認したから、健康状態の所を見落としたんだな……。これは夫としての大失態だ
これって一発必中と言うやつか? 今、妊娠何か月か分からないが、結婚した日から考えてもまだ三~四か月しか経っていないから粗……必中……。俗にいうハネムーンベイビーより早いような?
「しかし、どうして今分かったの?」
「それが、急に吐き気がしたんです。フランクさんの所に近づいた時に」
「偶々、うちのキースがお腹がすいたとユウマさんが作り方を教えて普及し始めたオックスのジャーキーをかじっていたんです。その匂いに反応したんでしょう」
妊娠が分かったのは嬉しいし、良い事なんだがこれから俺はどうすれば良いんだ? 前世でも経験が全くないから男の俺の取る行動が分からない。こういうのをフランクに聞くのは間違いだとシャーロットの言葉が証明しているから、こういう時はやはりベテランのエリーに聞くのが一番か……。
「それにしてもシャーロットさん、どうしてわざわざ俺を呼び出してこの事を教えたんですか? あの場でも良かったと思うんですが?」
「はぁ~~、これだから男は……。こういう事はユウマさんが一番に聞いてそれを皆、特にサラさんのご両親に伝える方が良いんですよ」
そういうもんなんだ……。俺がね……。俺がお義父さんに言うの? 何だか恥ずかしいな。どう切り出す? いきなりサラに赤ちゃんが出来ましたって言えば良いの?
今はカルロス達もいるからここでお義父さんに言えば、直ぐにエスペランスとグーテルの国王にも伝わるな。それに建国の話もこれからユートピアにいる皆に話さないといけないから、発表したら大事に成りそうだな。
建国と同時に跡継ぎも生まれる。こんな事を知ったユートピアの住民はどうなるだろう? 今でも宗主と俺を崇めてるぐらいだから、益々、崇拝度が上がりそうで怖いな。
「それでサラはどうしたい? 今すぐお義父さんに知らせた方が良い?」
「それなんですが、今は内緒にしておきたいんです。実はうちの父は前科がありまして、兄と私が生まれる時に大騒ぎして物凄い過保護ぶりを発揮したそうなんです。いつも過保護すぎると母や婆やに注意されていたそうなんですよ。それでも中々いう事を聞かなかったという事なんで、今は内緒の方が良いと思います」
「それだと、ユートピアについてお義母さんやエリーさんがいる所の方がまだ良いという事だね」
「はいそうですね。その方がましという程度だと思いますが……」
お義父さんって脳筋のくせにそういう親バカなところもあるんだ。
「まぁそれならそういう事にするけど、あまり無理はしないでね」
「はい、分かりました」
俺が父親か……。何だか実感が湧かないな……。でも親に成るんだし、より一層家族を守れる人間に成らないといけない事だけは確かだ。国王に父親……、重いな。
「シャーロットさん、サラもこう言っていますから、今はグラン家と俺だけの秘密という事にしておいてください。ユートピアで時期をみて公表しますから」
「それは良いですけど、サラ様は今が一番大事な時期ですから無理だけはさせないようにね」
「了解しました。全力でサラと赤ちゃんを守ります」
「あなた、それだと父と同じになりますよ。あくまでも自然にです」
自分に子供が出来たという事もあって、急にこの世界のお産について考え始めたが、あれ? 病院で確か一度逆子で帝王切開をした覚えがあるけど、それ以外の患者を見たことがない。この世界に御産婆さんがいるのは知っているけど、そう言う人達は経験だけで今までやって来ている。だけど、これを助産婦のような教育を受けた専門家にしたら、子供の出産がもっと安全になるな。
これはユートピアに戻ったら是非ニックと検討する必要があるな。子供の出生率を上げる為にも……。
「それじゃ、大分遅れましたが出発しましょう」
出発前に俺にとって大きな出来事があったが、出発してからの飛行は順調そのもので、カルロス達は生まれて初めての空の旅を満喫していた。操縦は俺がしているから、もっぱらカルロス達の相手はお義父さんがしていたが、山脈の駐機場に着く頃には少し疲れた顔をしていた。
順調な飛行だったが一つだけカルロス達が驚くことがあった。途中ミル村の近くを通ったので、ついでだからとミル村の上空を飛んで今後ユートピアの領土に成るところを見せたが、あまりの広大さにカルロス達はびっくりしていた。ミル村がある位置が本当におかしな所にあるんだよ。フリージア王国のはずれというだけじゃなく、ミル村から最初の隣町まで馬車で2~3日掛かるし、ミル村から山脈までも1日掛かる。
どうしてこんな所に村を作ったのか? 誰が見ても必ずそう思える場所にあるし、村民ですらその理由を知らない。
どちらかと言うと隠れ里と言った方が良いぐらい。大昔に内戦か国が出来る時に戦火を逃れた人たちか、敗残兵の家族、日本でいう落ち武者の村だったのかもしれない。
もしくは、帝国のあの魔境にあるワイバーンのいる魔力スポットが全盛の頃、人が住める場所がミル村の位置ぐらいしかなかったとか無いなだろうか? そうなるとフリージア王国の先祖の村という事に成るが……。この考えは飛躍し過ぎかな?
「到着しました。着陸します」
そこからは何時もの飛び降りからの飛行船を人力で降ろす作業なんだが、こちらの飛行船もフランクの飛行船からもタイプは違うが悲鳴が聞こえていた。飛び降りからの一連の作業を始めて見る人は必ずああなる。賢者ですらそうだったからね。
「ユウマ殿、中々凄い着陸方法だね。あの方法しかないのかね?」
「決まった場所での着陸なら方法はありますが、必ずそこに身体強化の出来る人がいることが条件です。それ以外の場所だと飛び降りるか、ロープで降りるしかないですね」
「此処からは歩きに成りますので、下りですが気を付けてください。下りだから楽で安全という事はないので」
これはサラへの俺からの注意でもある。下りの方が危ないという記事を前世で読んだことがあったから、サラに気を付けるようにそれとなく伝えたつもり。日頃こんな事言わない俺が言えば、普通なら不思議がる人もいるはずだが、相手がお義父さんだけだからバレなかった。そのついでに、小声で、
「シャーロットさん、サラの事を見てやって下さい。お願いします」
「良い事を言いましたが、あまり露骨だと気付かれますよ。まぁそこまで隠さないといけない事でも無いですが」
そこからの下山途中、鉱山の件をカルロス達に教えたら物凄い驚きようで、金鉱山にについてはやはり当分は秘匿した方が良いと言われた。ただ秘匿はするべきだが取引はしようとちゃっかり商談は申し込まれた。
それならと、金の取り引きと交換条件で、ユートピアでお金が製造できるようになるまで、エスペランスで作ってくれないかと持ち掛けてみた。下山途中にするような話ではないが、こういう事は話が出た時にした方がこちらの希望が通りやすい。落ちついて話すと条件が厳しくなるからね。
新しい金鉱山なんてそう簡単に見つかる物じゃないから、エスペランスにとっても将来を考えれば是非纏めたい話だ。細かい事は後で決めるにしても、大筋を此処で決めてしまえば、後から厳しい条件が出し難くなる。
「ユウマ殿、金鉱山だけじゃなく、他の鉱物も採れるのじゃろ。そちらも是非交渉したいの」
この鉱物にミスリルは入っているんだろうか? ミスリルに関しては話しても意味が分からないと思うし、フランクがそこまで話したのか俺は知らない。会議の時も質問にも出なかったから、話していないのかな?
マーサが島に役人を連れて行った時もミスリル鉱脈には連れて行っていないみたいだし、神聖国もその事は知らなかったからな。
今までミスリルについて聞かれたことが無いから、フランクもそこは言っていないんだろうな。自分がミスリルの武器を使っているから、その危険性も把握しているから言っていないのかもしれない。
「カルロス様、その辺は今度ゆっくり交渉しましょう。もうそろそろユートピアが見えてきますから」
ユートピアに戻って来たけど、これから本当に忙しくなりそうで怖い……。
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