第318話 建国宣言に向けて
「此処がユートピアかね? やけに小さいようだけど」
「カルロス様、此処はユートピアですが、元は村です。元領都は別にあります」
「ユウマ殿、そろそろその様呼びは止めるべきですよ。此処は貴殿の領土です。他国の宰相を様呼びしていたら格が下だと思われます。国王呼びに慣れる前にそちらを先に直すのが先決かも知れませんな」
そりゃそうか。俺が国王呼びに慣れなくても公式の場所じゃなければ問題では無いが、流石に俺が他国の国王より下の人に様付けは良くないな。幾ら公式の場所じゃないと言っても……。せめて殿付けぐらいにはしないといけないな。
「ではこれからはカルロス殿、ビクター殿と呼ばせて頂きます」
「その頂きますも……、しょうがないですね。言葉遣いはそう簡単には直らないでしょうが、いつも意識する事は大事なので頑張ってください」
この年に成って言葉遣いで苦労するとは……。俺って前世から考えれば60年以上庶民だったから、急に横柄な言葉遣いは出来ないよね。まして命令口調なんてもっと出来ない。
「先ずは此処の視察からでしょうか? いや、視察からか。やっぱり急には無理。暫くは今まで通りで勘弁して下さい」
「まぁそう焦るな。俺達だってユウマの事を急に陛下なんて呼べないし、敬語なんて使えないと思うぞ」
「そうですよね。そう言って貰えると気分的に楽です」
いっその事、この国ではそういう事を気にしない国にするか? 敬語は使うにしても、尊敬語・謙譲語・丁寧語、なんて使える人だけ使えば良いし、俺だけが少し変えれば良いだけだな。国王としての威厳は必要だろうからね。
「視察も大事ですが、今日は到着したばかりですから、ゆっくり過ごしてもらって、明日から色々見て貰いましょう。夜には米も食べて貰いたいですから」
「そうだな。そうして貰えるなら俺は父さんを呼んできて家族で過ごすよ」
「それではカルロス殿達はわしと一緒に過ごしますか?」
「ミュラー殿がそう言われるならそうさせて貰おう」
これで取りあえず俺とサラは二人だけに成れる。皆には取り繕った言い方をしたが、本当はこの時間が欲しかったんだ。何の為かと言うと、サラの妊娠をどうやって誰に報告するか考えたかった。誰にというのは決まっているけど、そこにエリーを入れるか悩んでいたんだ。サラの両親に一番に伝えるのは決まっているが、エリーはサラにとって第二の母のような人だから、別に報告するより一緒に報告した方が良いんじゃないかと思っている。
「サラ、妊娠の事だけど、今日の夜にでもエリーも交えてお父さん達に報告しようと思うけど、どうかな?」
「それで良いと思いますよ。ただ建国の事もありますから、早めに他の賢者たちには話すべきだと思います」
建国の事を此処の住民に知らせないといけないから、俺の私的な事は早めに済ませて最終的に国民に建国宣言と世継ぎも生まれる事を報告したいから、先ずは一番の協力者である賢者には早めに教えないといけない。
建国ともなれば、先ず法律も作らないといけないし、国として機能させる為の人材も確保しないといけない。今は賢者たちがいるから何とかなるだろうが、彼らの正式な立場は他国の男爵だから何時までも頼れない。研究や発明などのような、賢者としての立場ならいくらでも協力し合えるが、国の運営は別問題だからな。
「そうだね。賢者も俺達の家族のような物だから早めに知らせないとね」
「あなたそれは良いとして、カルロス様達の視察に島も入れるんですか?」
「それもあったね。多分ここまで来ているんだから島にも行きたいと言うと思うよ」
「島はそれで良いとして、最近発見した事はどうするんです? 結局まだ報告していませんよね」
あぁそうだった。報告しようとしたら、ビクターが此処に来たいと言い出したから、まだ言っていないや。
「そうですね。全て報告しないといけませんね。隠し事があると本当に面倒ですから、特に世界の仕組みについては」
「でもそれだと色々と困りませんか?」
「困ると思います。ですからこれからは俺とサラしか知らないことは賢者にしか教えません。その先をどうするかは賢者に任せます。俺が色々報告するのは今回までです。だって俺は国王に成るんですから、他国に俺が直接報告する義務は無くなりますからね」
俺自身は情報を止めないが、賢者や国が調整をする。そういう仕組みを作れば俺はそう困らない。
「それじゃ先ずはお義父さん達に報告に行きますか。それを済ませないと落ち着きません」
「それだとカルロス様達もいますよ。良いんですか?」
「構いませんどうせ建国宣言をする時にはバレますから。ただ出来るだけ今は知られないようには努力はしますよ」
此処にはお父さん達の屋敷はないので、此処の代表のロベルト達が俺の為に用意してくれた一軒家を使ってもらっている。俺とサラは簡易的なトーフハウスでも問題ないので、そちらで寝泊まりしている。
「お義父さん、少しお時間もらえますか? 出来ればお義母さんとエリーさんも一緒に。カルロス殿達には申し訳ないのですが、少し家族会議をしたいので……」
「別に構わんよ。わしらは此処でゆっくりさせてもらっているから」
「どうしたんだい急に家族会議だなんて、それにエリーまで呼んで」
家族会議という事にしたから、カルロス達がいる部屋とは別の部屋に、エリーを含む両親と俺達が揃ったところで、俺からサラの妊娠というめでたい報告をする。
「実は今日皆さんに大変喜ばしい報告をします! それは……」
「サラが妊娠したのね!」
「ちょっと待ってくださいお義母さん。俺はまだ何も言っていませんよ」
「言わなくてもそれぐらい分かるはよね、エリー」
「はい、そうですとも奥様」
なんだなんだ、この疎外感は……。女性だから気づかないとおかしいの? 確かにこの状況で俺からの重大報告ともなれば、敏感な人ならサラの妊娠と結び付けられるのかも知れないが、これは早過ぎるだろう。
「ユウマ君、そ、それは本当かね? 本当ならこれ程嬉しいことは無いんだが」
「お義父さん、間違いないです」
「こんなに早くこの報告が聞けるなんて、最高だよ! 君はとても優秀なんだね」
は? 何が優秀なの? 俺の〇〇の活きが良いという事か? この世界ではそういう表現をするの……?
「奥様、私達の努力が実を結んだようですね」
「そうね、きっとそうだわ。溜まりに溜まっていたんでしょう」
な! 何という事を言うんだこの二人は……。こちらはそのお陰で……自家……だったんだぞ。貴族のご婦人というのはこういう事を平気で口にするのか? 偶々この二人が特別なのか? まぁ貴族は後継者を望む傾向にあるだろうからこれが普通なのかもしれないが……。
聞いているこちらの方が恥ずかしいわ! それに引き換えサラは平然としているから、これが貴族の普通なんだなと改めて実感する。
「これは二重でめでたいな。ユウマ君の国王就任と後継者の事を同時に祝える」
「お義父さん、その事で確認したいんですが、エスペランスやグーテルでは女性が後継者に成れるんですか?」
「あまり多くは無いがいない事も無いぞ、貴族ならな。王族にはいないかな?」
「それって王族は一夫多妻で貴族は違うからですか?」
「いや、貴族も法律上は一夫多妻を認められているが、あまりいないんだよそういう人が。それに王族でも貴族でも女性が後継者に成れないという法律はない。ただ慣習的に男性が後を継いでいるだけだ」
この慣習というのはこの世界が、基本、男尊女卑だからだろうな。そこまで酷い男尊女卑ではないが、職業面とかそういう所では特に酷いよな。錬金術師の世界は特に酷かったな。意外なのは似たような仕事なのに薬師の世界にはその男尊女卑があまり見受けられなかった。
そうだ! 医者に成っていたり、希望する薬師には女性が少なかったな。これは問題だぞ。これからの世の中女医のニーズは増える一方じゃないだろうか? サラの手術も男の俺がやったけど、お産というのはまた特別なんだから女医がいた方が良いよな。
これはニックに言って早めに女医の育成に力を入れて貰わないといけないな。助産婦も一緒に……。
その前にまだ国作りの人材をどうするかも考えなくてはいけないのに、やることが多すぎる。法律、貨幣、……。
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