第186話 またかよ!
サラ達との休暇という名の研究とレベル上げが始まって1か月と少しが経った。
飛行船も完成してテスト飛行からの改良計画も出来て、色んな研究も進んで世の中に出せないものまで作り出してしまった頃、頼んではいたけど正直来て欲しくはない人がやって来た。
「よお! ユウマ! 約束通り来たぜ」
「フランクさん、ロイスさん、いらっしゃい!」
王達が帰ったら迎えに来るように頼んでいたから、前回と同様にフランクとロイスが迎えに来た。
「迎えが来たなら、帰る準備をしないといけませんね」
「急がなくてもいいぞ、俺達も2週間の休暇を取って来たからな」
はぁ~~ 何言ってるのかな? この人は……。
「折角ここに来るのにタダで帰るわけないだろう」
「そうですよ。此処に来たならやることをやらないと」
やる事ってなんだよ? ロイスは自転車に乗りたいだけだろう。相当気に入っていたからな。
じゃ、フランクは何が目的? そう思った瞬間!
「ユウマ! 後ろに見えるあれは飛行船だよな。完成したのか!」
またやっちゃったよ! 完成した飛行船をみたらフランクがどうなるかは予想できただろう。それなのに無防備過ぎた……。今回はしょうがないと言えばそうなのだが……。
追加の気球部分を二つ作っているから、格納庫に完成した飛行船が入らないので、外に出していたから、見つかるのは当然だった。
「浮いてるという事は乗れるんだな。乗せてくれるよな! な!」
一旦こうなるとフランクは止まらない。乗せるのは良いけど、もう夕方だから今日は無理と何とかその場は納得させることが出来た、次からはもっと用心しよう。
「ところでユウマ、俺にはもう一つ不思議なものが見えているんだが、あれはどういうことだ?」
不思議な事? そう言われて、フランクの目線を追った先に見えたものは、サラとエリーが剣術の稽古をしている姿だった。
そりゃそうだな。サラはまだ理解できるだろうが、エリーは言っては何だが、グランより年上の婆やと呼ばれるぐらいの人だからな。
「あれはサラ様の婆やさんだよな? その人がなぜ剣術を? それにあの動きはなんだ?」
エリーはレベルが上がっているし、此処でのサラの修行のせいで、その辺にいる冒険者より良い動きをしている。
実戦はさせていないから、強いかどうかは分からないが、素振りだけ見れば相当強いように見える。
「お前、婆やさんに何をした?」
「人聞きの悪い事言はないでよ。俺は何もしていないよ、やったのはサラ」
まぁ確かに深層部でのパワーレベリングをやったから、何もしていないとは言えないけど、俺がやったのはレベリングだけで、剣術や体術、身体強化を教えているのはサラだからね。
俺のパワーレベリングの目的は、寿命を延ばすのが目的であって、強くするのは考えていなかったからね。
「それにしても動きが尋常じゃないけど。レベルはいくつなんだ?」
「エリーさんは確か13だったかな?」
正確に知ってるけど
「お前、どこでレベリングした? まさかとは思うが、俺達がやった場所じゃないだろうな?」
流石に気づくか、この家の周りでのレベリングだと、そう簡単にはレベルの低い人が13までは上がらない。
フランクは5の壁を知っているからね。5の倍数ごとに経験値が多くいるから13という事は、2度その壁を越えていることになる。
「今回は此処で飛行船作りを手伝ったり、軽くレベリングしようと思って来たのに、全て台無しだ。あれを見せられたら、黙っていられない」
「黙っていられないって、どうするの?」
「決まっているだろう。俺達もまたあそこに行ってレベルを上げるんだよ」
あそこに行くのは良いけど、それって俺も行くという事だよね。エリーさんのレベルも上がったから、研究の方を優先してこの1週間は行っていなかったのに、また行くのかよ。
それだと飛行船が作れなくなるじゃないか。それに2週間も休暇を取って来たなんて、俺の邪魔をしに来たのかよ。
2週間も此処にいたら絶対格納庫も見られるから、またいろいろ問い詰められる。自転車が目的のロイスがいるから避けられないのは分かるが、フランク一人の迎えだけなら見つからない可能性もあったのに……。
俺のせいかな? フランクが商人にも拘らず、戦闘狂になっている。さらに賢者候補になってよりいっそうレベルに拘るようになった。
飛行船は見られたけど、錬金術関係の物は俺の家の地下で作っているから、フランク達に見られないのが唯一の救いかな?
フランクのレベルか……。 これも考え物なんだよな……。
フランクのレベルが上がるという事は寿命が延びるという事。まだレベルが20程度だから、それ程すごく延びるわけではないけど、このまま上げ続ければ確実に奥さんのシャーロットとの差が広がってしまう。
魔力量と寿命の話は近いうちに最低でもグラン一家には話さないといけないだろうな。それをしないなら、フランク達のレベル上げをさせないようにしないといけない。
そうするとさせない理由も必要になるから、どのみち話す事に成り、止められなくなる。
今までは病気で亡くなる人が多かったから、高レベルの人の寿命が長い事に気が付かなかったが、医療が進んだ世の中になれば、それに気づく人が出てくるだろう。
そうなった時に王族や貴族はどうする? これもこの先の課題なんだよな。
それでも不老不死ではないのだから、やりようはある。俺がやったように、パワーレベリング的な事を冒険者が商売にすれば、一般人もレベルを上げやすくなるから、寿命も延びる。
あくまで予測だが、レベルが10~30ぐらいで、寿命が延びるのは10~30年ぐらいだろう。勿論、これには個人差が出て、レベルが10でも30年延びる人もいれば、レベルが30でも10年しか延びない人もいる。
人が皆同じ生き方をするわけではないから、個人差が出て当たり前。食事や運動,仕事の他にも多くの違いがあるのだから。
レベル30なんて普通の人には無理。ダンジョンに潜っているような冒険者にいるぐらいだ。ましてそこまでレベルが上がる前に殆どの人が引退するか、死んでいる。
そんな危険を冒すより、ちょっと頑張ってレベル10ぐらいにして健康に気を付けた方が長生きする。
短期間にレベルを上げる必要はない。50~60年生きる間に10にすれば良いのだから、これから教育システムが確立して、小学校から少しづつレベル上げをしていけば、多くの人がレベル10には達するから、冒険者を長くやってレベル30にした人と変わらない寿命になる。
これなら前世とそれほど変わらない、人の寿命だ。世界のシステムとしてもおかしくない。言ってみれば、この世界ではレベルを上げるのが決まり事と言ってもいいかもしれない。
「魔物のいる世界だからの決まり事」
「ん? 何か言ったか?」
レベルと寿命について考えていて、無意識に結論的なことを言葉にしてしまった。
呟くような言い方だったから、フランクに聞こえていなくて良かった。
「そう言えばフランクさんに報告することがあるんだけど、聞く?」
「あぁ~~ やっぱりそうなるか。お前を一人にすると必ずだ。今回はサラさんも一緒だったから、事後報告でも許してやるから言ってみろ」
フランクのレベル上げに向いている意識を少しでも反らそうという苦肉の策であるが、定規と物差しについて報告した。
化粧品とポーションについてはもう少し研究をしてから、話すかどうかサラと相談して決める。勿論、スキル付与については話さない。
「その定規と物差しは度量衡が浸透するのに非常に役立つな。これなら事後報告でも問題ないから、良くやったと褒めてやるよ」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、報告はもう一つあるんだよ」
そう前置きして、定規や物差しを作る過程で発見した、スキル発現の要因、正確性について報告した。その内容にはスキル発現までの期間が短縮できるという事も含めて。
「ちょっと待て、それはもしかしなくても学校に関係してくるよな。それにそれは間違いなく世界を変えるほどの事だよな」
「世界を変えると言えるかは分からないけど、影響があるとはいえるかな」
少なくともフランク達が挑んでいる、ダブルスキルについては確実に影響が出る。正確性は最後のカギだと判明しているのだから、賢者候補がこれを実践すれば、短期間でスキルを発現するだろう。サラのように……。
「結局これだよ。折角王様達にスキル発現の要因とかを説明したのに、また報告する必要が出てきてしまった。当然学校のシステムも変えることになるだろうしな」
すまんね……。心の中で謝って置いた。
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