第185話 定規と物差し

「ユウマさん、気球をまた作るんですか?」


「そうです。俺の目的のためにはこれでは高く飛べませんから」


「正確に同じものを作るって難しくありません?」


「それは、先日国際会議でも議論された度量衡が役に立つんですよ」


 正確に同じものを作るには、長さや重さを正確に計れば良い事。だけど度量衡の原基が出来る前にこの飛行船は作り始めていたから、俺のチートである鑑定EXだよりだった。


 しかし今は原基があるのだから、それを使って定規やメジャー等を作れば良い。ついでに分度器も作ってしまおう。そうすれば俺じゃなくても骨組みを曲げたりすることが出来る。


 この国では度量衡が本格的に使用される事に成ったが、まだちゃんとした定規やメジャー等は作られていない。秤は今までも使われていたから、錘だけ正確に作れば良かったが定規と物差しは別だ。


 元々度量衡の概念が無かったのだから、定規と物差しなんて思いつくはずもなく、未だに紐を使って長さを計っている。現状その紐が正確に統一されているだけだ。


 メジャーのようにその物に目盛りを付けるなんて未だ出来ていない。そういったところはまだまだなんだよね。意識が変わってきたと言ってもまだ教育が行き渡っていないから、そういう物が必要な職業の人の意識が変わっていない。勿論国もだが。


 それを刺激するには、正確で細かい数値まで分かる定規と物差しが必要。


 多くの人が定規と物差しを同じものだと思っているが、それは間違い。ホームセンター時代にメーカーの人に聞いたことだが、定規とは直線や曲線、角を引くために用いる文房具で、物差しが計るものらしい。


 物差しは別の言い方だとスケールという。スケールはカタカナ英語で色んな使い方がされている。面白い使われ方だとスケールが大きいとかね。


 話がそれたが、一般的に三角定規にも目盛りがあるから殆どの人が定規と呼ぶ。しかし本来は三角定規に目盛りはない。逆に言えば分かるかな? 目盛りが無くても直角三角形の物は定規なんですよ。


 直線も引けるし、角度も決まっているから。勿論、規格があるからですが……。


 この定規が作られると、この世界にもピタゴラスの定理に気づく人が生まれるでしょうか?


 前世の歴史だと、紀元前2世紀にはこれに近い事を考えた人が中国にはいたそうですからね。他にもピラミッドなんて数学的な考えが出来ないと作れませんからね。


 そう考えると如何にこの世界が歪に進化したかよく分かります。計るという概念はあるのに、物差しがない。秤はあるのに錘が統一されていない。


 これらも結局は国のトップに知識が無いからなんですよ。出来上がったものは知っていても、作り方を知らない。


 三角定規は、直角三角形の辺が3:4:5の物と二等辺のものがあれば取りあえず良いかな。分度器は半円を作って目盛りを入れるだけでいいでしょう。

 あ! それにはコンパスも作らなければ。正確な円は描けませんからね。


 物差しも色々なサイズの物を作りましょう。1m、50cm、30cm、10cmこれぐらいあれば良いかな? 目盛りは1mmまで入れればかなり正確な物が作られるようになるでしょう。


 後は大きな物や広さを計るのに必要な巻き尺タイプ。俺は布に目盛りを入れて、表面をスライム素材でコーティングして作った。


 作るのは良いけど、これって間違いなくフランクに見つかれば直ぐにでも売り出そうというだろうな……。


 めんどくさいから作り方を今のうちにまとめておいて、現物とそれを渡して後は丸投げしよう。


 コンパスは鉛筆があるから、鉛筆を片方に固定できるようにすればいいか?


 それにしてもやはりスキルとは凄いものだと思う。だって今まで正確に物を計れるものが無かったのに、木工職人も鍛冶職人、陶器職人も大量にほぼ同じものを作ることが出来ていたんだから。


 スキルの補正でだいたいが正確に補正されているんだろうな?


 薬師のスキルで正確な分量で薬を繰り返し作らせることで、スキルが発現したなんてこともあったから、定規や物差しが出来たら、スキル発現が早くなるかも?


 最近気にしていなかったが、薬師スキルの発現の早さに変化はないのだろうか?錘が統一されたから、その影響が出ていてもおかしくない。


 この世界のスキルに度量衡や定規、物差し、秤などが大きく影響する可能性が出てきた。


 錬金術師に成りたい人がポーションを作るのに、水や薬草を正確に計って作るとどうなるんだろう? 正直今までは目分量だった。薬草はこのぐらいの水にはこのぐらいという感じ、葉の数で何枚とか……。


 ポーションには初級、中級、上級の3種類しかない。だけどこれから水の量、薬草の量を正確に計って作るとどうなるの?


 良く考えると、今までの効果って幅があるんだよな。初級でも作った人が違えば効果も変わる。これは研究する必要が出てきたな。


 スキル未発現の人が現状の初級ポーションを作るのに、使っている薬草の量を正確に計れば成功率を上げられるかも?


 多分、少なくても多くても失敗してるんではないだろうか? 逆にスキル持ちは薬草や水の量で効果に差が出ている。


 スキルが発現するまでは正確性が必要だが、発現後は正確でなくても成功するが、効果に微妙な差が出る?


 これはサラにやらせるべきだろう。錬金術のスキルを取りたがっているのだから。


「サラ、この秤を使ってこの分量の薬草を毎回正確に計って、水の量もこのビーカーのこのしるしの所まで正確に入れて錬成してみてください」


「ユウマさんそれには意味があるんですね。ユウマさんがわざわざ言うという事は」


「はい、それが成功すれば、また世界が変わります」


「エリーさんにも一つお願いして良いですか?」


 エリーにお願いしたのは料理を作る時に調味料や材料を計って貰う事。物凄く面倒だが、これでもし、エリーに料理スキルが発現したらスキル発現の料理スキルの発現要素が解る。


 料理のレシピを公開しても、多分スキルを持っていない人が作るとそれほど美味しくは出来ないと思う。現状の料理レシピは材料と作り方だけです。調味料や材料の量までは正確に書いていない。


 だって4人分の料理だとして、ジャガイモ4個と書いてもジャガイモの大きさは分からない。ジャガイモの大きさはこぶし大と書いてもこぶしの大きさなんて人それぞれです。


 しかしそれを正確に重さで何グラムと書けたらどうでしょう? 


 スキル持ちならこれが材料と作り方さえ分かれば自然に美味しく作れる。適量が補正されるのだ。4人分のレシピが10人分になっても作れるし、逆に2人分になっても作れる。


 例えば4人分のレシピに塩一つまみと書かれていたとする。人数が増えるなら難しくはないが、減ったらどうだろう? 塩をどのくらい入れる?


 前世でも料理人は調味料なんかを計ったりしない。長年の修行の成果で適量が分かる。勿論、微調整はするが。


 これが素人に作らせるためのレシピ本だったらどうだろう? グラム単位や計量カップで計らせて作らせる。


 これをすることで、素人でもプロのような料理が作れる。これと同じことをこの世界でやれば、この世界ではスキルと言う形で身に付く可能性がある。


 これかなり可能性が高い発見かも? 計算スキル持ちって多分正確な計算を続けていたから発現すると思うんだよね。早いだけで間違えてもOKなら誰でも発現する。


 正確にある程度のスピードで出来るようになって発現するんではないだろうか?


 そうすると他のスキルでも同じで正確性というのは重要なカギではないかな?


 なぜ? 薬師のスキルの時にそれを考えなかった。本当に情けない……。


 エリーは時間が掛かるだろうが、サラはもしかすると直ぐにでもスキルが発現するかも? 知識としてはもうかなりもっているし、知能の数値も高いし魔力量も多い。


 練習も沢山しているから、最後のカギとなる正確性が達成されれば発現するのでは?


 はい大正解! 俺が作り方の指導をしてから、たった2日でスキルが発現しました。


 正確性は全てにおいて時間を短縮するんではないだろうか? 


 正確な知識、正確な材料選択、正確な材料処理、正確な分量での調合、錬成、全てを正確にすればスキル発現までの時間が短縮される。個人差である数値次第で差は出るだろうが。


 職業科は下手すると期間を半年とかに出来るんじゃないかな?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る