第184話 テスト飛行

 出来たら乗りたいよね。飛行船が完成したらもう俺の心はそれで埋め尽くされてしまった。


 まだまだ研究しなくてはいけないこともあるのに、もう止まらない。


「サラ! 完成したよ!」


「何がですの?」


「飛行船!」


 エリーさんと今日も身体強化などの訓練をしていたサラに俺は、あまりに嬉しくて子供のように報告しに来た。


「まぁ! とうとう完成したのですね」


「そう、だから今からテスト飛行をするから見ていて欲しいんだ」


「見る? 何おっしゃいますか! 当然わたくしもご一緒しますよ」


 いやいや、それはちょっと危険ですよ。いくら自信があると言っても一度もテストしていない物には乗せられませんよ。


「流石にそれはダメですよ。一度テストしてからにしてください」


「ダメですの~~」


 いやいや、そんな女性の必殺技、上目使いをされてもこればっかりは……。


「お嬢様、それはいけません。ユウマ様なら少々の危険でもご自分でどうにかされるでしょうが、お嬢様もご一緒では足手まといになって、ユウマ様の危険を増やすだけです。ご自重ください」


 流石エリーさん、冷静に考えているし、言葉に説得力がある。


「サラ、テストが済んだらちゃんと一番に乗せるから、今回は我慢して」


「婆やが言う事はもっともですから、しょうがありませんね。我儘を言って申し訳ありません」


 サラも納得してくれたから、早速テストをする為に飛行船を作業場兼格納庫から少し浮かせた状態で引っ張り出した。


 かっこよく屋根が開閉出来たりしたら良かったのだが、そこまでの仕組みは作っていなかったから、地味だが普通に引き出した。


「まぁ、もう少し浮いていますのね」


「そうだね。今は本体の重さと錘を積んでいるからこの高さまでしか浮かないけど、錘が無ければもう少し高いところまで浮くよ」


 スライム素材が軽量なので、初めに作った模型の計算より軽く出来てしまったので、オーキスを充てんしただけで、予想以上に何もしなくても浮いてしまった。


 オーキスを充てんしてる段階で、浮き始めたからこれは拙いと急遽、錘を載せたぐらいだ。


 ここまでくれば浮くことは証明されているから、後は耐久性と操縦性が確認できれば、殆どテストは成功と言って良い。


 最終的にはテスト飛行を何度も繰り返して、素材の劣化がどの程度だとかも確認しないといけないが、今までスライム素材を使った物に著しい劣化は確認されていないから、飛行前の確認さえ怠らなければ事故にはならないだろう。


 安全を考えるなら、事故が起きた時の事も考えて、パラシュートのようなものも作っておくべきかな?


「それでは、テスト飛行を始めます」


 飛行船に乗り込み、錘を一つづつ降ろしていくと上昇を初めて、地上から15m位まで到達して上昇が止まった。


 そこで、重量軽減魔法を使うとそこからまた上昇をはじめ、最終的には高度500m位で上昇が止まった。


 500m? これでは山は越えられない。そりゃそうか! 模型が際限なく上昇していなかったのだから、その比率で作った飛行船も上昇高度はそこまで高くなくて当然。


 山脈を超えるものとなれば、やはりもっと大型にしないと無理だという事だ。今回は4人乗りという事で現状、人と荷物を考えて、400kgの錘は載せたままだから、この錘がなければもう少しは上昇するという事。


 一定の高度を保とうとするなら、搭乗人数の限界で構造を計算して、実際の飛行時の人数によっては錘を積むという方法もありかな?


 それに高度が上がれば、空気も薄くなるし、気温も下がるから、その対策も考えなければいけないな。


 他にもこの世界特有の魔力についても調べないといけない。高度が上がった時の魔力濃度がどうなのか? 変わらないのか、濃くなるのか、薄くなるのか?


 この世界の山の標高は最高どのくらいなんだろうか?3000m位までなら、割と簡単な対処で温度的には問題と思うが、6000m級やそれ以上となるとそれなりの対策が無いと無理だろう。


 上昇下降、旋回のテストをしたのちに今回はこれ以上のテストはせず、着陸態勢に入った。


 重量軽減魔法と解いて下降させながら、目標地点に正確に到達するには訓練が必要だろう。将来的には飛行船の操縦にも、免許が必要になるな……。


 15mまで下降したらそこからロープを地上に落として、人の手か巻き上げ機で降下させてもらう。


 今回は巻き上げ機で降下させてもらったが、身体強化できる人が数人いれば人力でも出来るだろう。


 巻き上げ機とタラップは作っておいて良かった。オーキスを充てんしてる時に浮き始めたから、完全に着陸させるのは出来ないことはないが時間も労力も掛かるから、少し浮いてる状態で乗り降りが出来た方が良いと思い、タラップを作った。


 それでも5m位にまでは下げないといけないから、巻き上げ機を作って力の節約をした。


「どうでした? 下から見てる感じおかしなところは無かったですか?」


「あんなに高くまで上がるんですね。上から見える景色が早く見たいです」


「お嬢様、ユウマさんが聞きたいのはそこじゃありませんよ」


 エリーさんが言ってることは正しいが、まぁそういう言葉しか二人から出てこないなら、下から見た感じにおかしなところは無かったという事だろう。


「問題は無かったので、今度は3人で乗りましょうか」


「3人に出乗ったら、降りる時に補助する人がいませんが?」


「そこは大丈夫です、任せてください」


 それから、2時間ほど魔境の森の上空を渦巻き状に旋回しながら遊覧飛行して、最後は直線的に俺の家に帰ってきた。


「それじゃ、此処にいてくださいね」


「え? ユウマさ……」


 サラの返事が終わる前に、俺は身体強化をして、15m下に飛び降りた。俺のレベルで身体強化すれば習熟度も相まって、15mの高さなど何の問題もない。


 普通の人が前世のビルの5階から飛び降りれば確実に大怪我か死ぬが、この世界では身体強化すればレベルが10ぐらいの人でも死にはしない。


 骨折ぐらいはするかもしれないが、これも習熟度次第。


「ユ!ユウマさん! やるならやると言ってからにしてください。ユウマさんが大丈夫なのは分かりますが、やっぱりいきなりだとびっくりします」


「ごめんごめん、これからはちゃんと言ってからやるよ」


 まぁサラは何度も俺の身体強化をしての戦闘も見てるから、5mや10m位から飛び降りたりなんて普通だから、15mでは心配はしない。


 サラはそうでも、エリーさんはそうはいかず、飛行船から降りてきた時は顔面蒼白で心ここにあらずという感じだった。


「婆や、ユウマさんは出来ないことはしませんから、いちいち驚いていては身がもちませんよ。人を驚かせて楽しんでるふしすらありますからね」


 簡易テスト飛行はこれで十分だな。後は本当に世界をこれで回るなら必要な大きさの物を作らなければいけないし、設備も充実させないといけない。


 世界を回るなら、気球部分が最低100mは必要だろう。人や荷物次第ではもっと大きくする必要があるかも?


 そんな飛行船ここじゃ作れないな。それはじっくりかんがえるかな? 今すぐに必要じゃないしな。


 王都にも行ったことが無いのに、国外なんてまだ早い…… ん! ちがーう。


 俺の目的はなんだ? 飛行船が出来たら何をしたいと思った?


 そう! 米が欲しいからだ。輸入されていなのは食べられていないからと予測したじゃないか。ジーンがビーツ王国に行った時にも聞いて貰ったけど、情報は無かった。


 それなら自分で探しに行くしかないと決めたじゃないか。


 しかし、3000m級の山を越えるには大型の飛行船がいる。それを作る場所が無いから今は諦めた。他に方法はないのか? いや! ある!


 一つにするから大きくなる。それなら気球を分割すれば良い。今の大きさの気球を3つ作って結合すれば4人乗りぐらいなら3000m級の山も越えられる。


 題して、風船おじさん計画! 前世で昔読んだ絵本にそんなのがあった気がする。


 風船を沢山つけて気球のようにして空を飛ぶ物語。最後は風船が鳥につつかれて割れて落下すると言う落ちの……。


 こうなったら、先ずは模型を作って試作だ。どんな設計が良いか調べないとな。



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