第187話 兄のような人
「話は分かったが、それはどうして確認したんだ?」
正確性がスキル発現の最後のカギだという話をしたから、論理的思考が出来るようになっているフランクが当然のように聞いてきた。
「それはサラが錬金術のスキルを発現したからだよ」
「それってもしかしたら、俺も発現するかもと言ってるようなもんだぞ」
そうだろうな。フランクは錬成陣は普通に使えているから、知識と正確性がスキル発現に足りていれば発現するだろう。
「そうだね。フランクさんがどれくらい錬金術の勉強をしてるかにもよるけどね」
「そんな事言われたら、やるに決まっているだろう。錬金術の出来る場所はあの建物だったよな」
よしよし、レベル上げから意識が外れている。飛行船からも外れているから大成功と言って良いだろう。
少しでも意識をずらせれば、レベル上げに行く日数が減る。錬金術と飛行船で1週間は最低大丈夫ではないだろうか?
ロイスは自転車に乗せておけばそう問題ではない。これに飛行船を追加すればフランクより簡単だ。ロイスはどちらかというと、1つの事にのめり込むタイプなので、飽きるという事をあまり知らない。
ロイスも何か属性魔法をやらせてみるかな? オックス捕獲作戦の時も意外性のロイスだったからな。身体強化は一番遅かったのに、ティムの魔法は一番に魔方陣なしで成功させていたからな。
フランク達が俺の家に来て3日目の夜、俺とフランクは多分初めてではないかと思うが二人きりで、外に作っているテラスで酒を飲んでいた。
珍しくフランクから誘ってきたのだ。
「ユウマよ、お前はこれからどうするんだ?」
「どうするって、まだまだやることが一杯あるから、当分はこのままだよ」
「そりゃそうだろうが、その先の話だよ。サラ様との結婚もあるし、結婚式ではいよいよ王族とも会うだろう。そうなった時にお前はどうするのかと思ってな」
確かに俺は名誉職だけど、隣国の名誉伯爵の爵位も持っている。それに婚姻するサラはれっきとした貴族で、公爵の娘だ。
公爵とは王族の血筋、グーテル王国の王族でもこの国との関係上、この国の王族とも親類関係になる。
「そうですね。王族や貴族と関わりたくないから、今まで避けてきました。その考え方は変わっていませんが、サラとの結婚がある以上そうも言っていられません。ですが、サラともその事について話したら、サラは今まで通りで良いと言ってくれました」
「そうか、それでもお前は何か考えているんだろう?」
流石だな、俺の事を良く分かっている。俺が今一番したいことは世界を見て回りたい。それもこの大陸以外も含めて……。
「世界を見て回りたいですね。それがこの先の一つの目標です」
「一つのか……」
何でだろう? 急にフランクから飲みに誘われて、こんな話をしてくるなんて?
「どうしたんです急に?」
「いや、別に何がどうしたという訳ではないんだがな。お前と出会ってからの事を思い返すと、今の現状が物凄く不思議ではあるんだが、当然のようにも思えるんだ。いつかお前に言われたことがあったよな、縁について、それを思い出したら何故か急にお前と話したくなったんだよ」
単純にその時は縁という言葉を使ったけど、本当に言われてみたら俺達の関係って、ただの縁という言葉では片付けられない。
フランクの人生を変えてしまっているから、運命に近いのかもしれない。神様が作り出した運命……。
良く考えたら偶然にしてはおかしい事が多すぎる。シャーロットの病気から始まり、サラとの婚約まで、選択は確かに俺が自分でしているんだが、結果的には誰かに導かれているようにも感じる。 これを運命というならそうなんだろう。
「俺はな、お前が他人のようには思えないんだ。血は繋がっていないが、俺達グラン家とはずっと一緒だろう。父さんを始めとして、息子のキースまでお前と繋がっている」
まぁ確かに錬金術師三人衆とロイスとは違った認識をしているな、グラン一家には……。
フランクのレベルの事で寿命を考えた時に、直ぐにシャーロットの事を考えたからな。家族としてそれは拙いと。
商売人の享受もあるだろうが、絶対に俺を守ろうとしてくれているのも一番はフランクなんだよな。
口には出さないが、前世で兄弟のいなかった俺にとっては、フランクはこの世界の最高の友人であり、兄のような人でもある。
実際、俺も兄のように思っているから、遠慮もしないからな。怒られても俺の事を思っての事だと自然に思える。突然いなくなるようなことは絶対にするなとも言われたことがある。
転移して来て最初に縁が出来た人ではあるけど、俺がそうであるようにフランクにとっても同じなんだよね。俺が転移者だと知らないだけで……。
そんなフランクに隠し事があるのは申し訳ないと思うが、巻き込みたく無いという気持ちがあるから全部は話せない。サラは奥さんになるから、俺が最後まで守れるけど、フランクを巻き込めば、グラン一家、悪くすれば拠点のメンバー全員を巻き込む。
サラの家族はどうなんだと言われるだろうが、幸いにもそこまで俺との関係が深くないし、サラは一度死んだようなものだから、しがらみが少ない。エリーはもし逃げるようなことになった時に、サラの心の支えに成ってくれるだろうから俺が守る。
世界がもっと成長したら、全てを話せる時が来るでしょうが、今は無理です。
俺の予測では、あって欲しくないけど一度は大きな争いがある可能性があるから、秘密を知る人は少ない方が良い。
勿論、争いが起きないように動く予定だが、絶対の保証はないからしょうがない。
「そうだね。グラン一家には申し訳ないと思っているよ。俺に関わったばっかりにまるっきり生活が変わってしまったからね」
「迷惑だなんてうちの家族は誰も思っていないぞ。父さんなんて隠居していた時より楽しそうだからな。それに俺だってお前に出会わなかったらと思うと怖いとすら思う。こんな楽しい人生にしてくれて感謝してる」
王様達と会って何かあったのだろうか? 今日のフランクはおかしい。
「ところでユウマよ、明日は天気も良さそうだから、飛行船に乗せろよな」
真剣な話をしてたのに、急にそれかよ。まぁフランクらしいと言えばそうなんだが……。
「乗せるのは良いけど、もう錬金術の方は良いの?」
「あぁ、大丈夫だ。発現したからな」
「え! 噓でしょ? まだ3日だよ」
「お前は俺と何年一緒にいるんだ? 俺がどんな人間か知ってるだろう。お前と出会う前から、錬金術の本を読んでるような人間だぞ。学校があれば試すだろう。それが時々でも3年もあればそれなりに経験値は溜まっている」
それはそうか、グラン家の子供達でも、遊び半分で錬成陣とかも使っていたし、フランク何てガラス成分の分離で相当使っていた。それに、拠点のリーダー的存在だったから、錬金術師とも関りが多かったし、学校の生徒の様子を見に頻繁に来ていたから何でも興味を持つフランクが、ポーションを作らないわけがない。
ダブルスキルの話をした後なら、尚更やっていただろう。
「ということは? ダブルスキル第一号という事だよね」
「そうだな。そう言われるとそうだ」
「何、他人事のように言ってるの。凄い事だよ。おめでとう」
鑑定と錬金術のダブルスキル。フランクに出来たのなら、賢者候補に最後のカギの正確性をやらせたら、他の人も出来る可能性が大きくなった。
「ユウマ……、言うの忘れていたけど、俺は計算スキルも発現してるから、トリプルなのかな?」
ダブルやトリプルは英語だから、この世界にはない言葉だけど、俺が命名したことになっている複数スキル持ちの名称。
「え? 計算スキル? 何時?」
「すまん、大分前に発現していた。商人が持っているスキルだから、ダブルと言えるのかなと思って、報告しなかった」
確かにダブルと言えば犯罪者のスベンのような、治癒魔法と薬師のスキルを持っている人の事だが、この世界の常識では魔法とスキルは別という認識だから、一般的にはこれをダブルとは認識しない。
「計算のスキルは商人だけのスキルじゃないからね。役人だって持っているんだから、立派なダブルだよ」
「それじゃ、やっぱりトリプルという事で良いんだな」
いつもは俺の事後報告を責めてるくせに、とんでもない事後報告をして来たよ。
俺の兄さんは……。
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