第335話 やっぱりか

 エスペランスの国王達が到着したのは良いが、俺には試練がいくつも襲ってきた。


 先ず第一に、フリージア王国の国王夫妻との初めての対面。正直この人達ともあまり会いたくはなかったが、会わない訳にはいかない。見捨てていた村だとしても領土を割譲して貰ったんだから、ちゃんと挨拶はしなくてはいけない。


 それに今後の事もあるから会って直接話す必要がある。交易の事や、共和国の事を話すことで、ユートピアと友好関係を結んでもらえる可能性が高くなる。今グランが挑戦しているサトウキビからの酒作りに成功すれば、フリージア王国の新しい産業になるから農業国が一歩前進でき、今後の可能性がもっと広がる。


 酒に出来る作物は多くあるから、食料として輸出しないで酒作りに回せば、世界中から新酒の注文が来るだろう。


「エスペランス国王並びに王妃様良くおいで下さいました」


「ユートピア国王ユウマ殿、わしと君の中ではないか、そう堅くしくしないでくれ」


「そうですよ。私は初めてお会いしますが、そんな事感じさせないぐらい、あなたの作った物に助けられているんですから」


「ではお言葉に甘えて、スローン陛下、マーガレット王妃、長旅でお疲れでしょう。是非話が城で御寛ぎ下さい」


 今回の案内役が案の定カルロスなので、国王達を連れてきた場所は王都エデンの方だから、此処から城に案内しなくてはいけない。カルロスは城の完成を知らないから当然なんだが……。


「カルロス殿、此処では何ですから、城の方に皆さんを案内してください」


「もう完成したのかね? 流石だね。どんな城が出来たのか見るのが楽しみだ。しかし、移住組の人達はどうする? 一緒に連れて行って良いのか?」


「その辺は大丈夫です。こちらの人間が種族別に居住区へ案内します」


「そこももう用意出来ているのか……。相変わらず呆れるしかないな」


 エスペランス国王達はカルロスと一緒に居たから取りあえず挨拶はしたが、本来こんな所でするもんじゃない。国賓なんだから当然、王宮の入り口か王宮の一室でするべき事。だから先ずは城に案内するところから始めないといけない。


 だが、ここが試練の前の序章。あの城を見た一行がどうなるか、それが怖い。


「あれがユートピア王国の王宮である、私の城です」


「「……」」


 ん~~~~、やっぱりか。この城を見た人のお決まりの行動。口を開いたまま、声を発せずただ立ち尽くす。現状立ち尽くしているのは護衛の騎士や従者達だけ。国王達は馬車の中からなので、窓から顔だけ出した状態で同じ状態に成っているから、見ている俺からしたら、動物が巣箱から顔を出しているみたいで面白い。


 そんな事言っている場合ではないな。城の門を魔力を流し開門して御者に中に進むよう促した。何故なら、国王達が正気を取り戻す前に、玄関まで行かないと、此処で質問攻めが始まるかもしれないからだ。


 特にラロックのお義父さんの屋敷も見たことない人は凄い事になりそうだからね。免疫が少しでもある、カルロスやスローン陛下、グーテルのドラン陛下は少しはましだと思うが……。


「ロベルト、護衛の騎士達や従者の案内は頼んだよ。暫く戻ってこないかもしれないから」


「お任せください。こういう事もあろうかと、その辺の準備はしてあります」


 自分達も経験してるから、そこは準備してるのね。騎士たちの方を見るともう役人の何人かが、騎士達を正気に戻そうと、相撲のねこ騙しのように、顔の目の前で手を叩いている。


 それは良いが、流石に国王達にそれをする訳にはいかないから、どうしたものかな?まぁ馬車は動いているから目線は自然に動くから、回復も早いだろう。無理に正気に戻さずこのまま玄関前で待機していれば、そのうち戻って来るでしょう。


 その前に俺は、此処から避難する。此処に居れば城の門の前と同じことに成るのは目に見えているので、俺は先に城に入り、国王達を会議室で待つことにする。


 玄関から会議室までの案内は何とビクターがすることに成っている。何故、ビクターが此処にいるのか? それはフランクが連れて来たからです。家族でラロックの魔境に行っていたから、国王達の歓迎用と建国祭の料理を頼むのにケインと拠店の料理人を連れて来て貰うために、ラロックに寄って貰ったら、そこにビクターが来たらしい。


 ビクターもフランクがいると思って来たわけではなかったようだが、偶然というのは恐ろしい物で、ここであったが百年目ではないが、魔刀の試し切りの為に魔境へ連れて行けという事になり、そのついでにまたユートピアにも行くと言い出したようだ。


 その結果がこれ、でもこれも悪い事ばかりではなく、ビクターに頼んで、城で働く従者達の指導をお願いした。本来ならエリーに頼むのが筋なんだが、彼女はちょっと厳し過ぎるので、辺境伯家の夫人付き従者のロッテに頼んだ。これは俺の完全なミスだったのだが、城にはつき物の従者の採用をしていなかったんです。バカだよね。こんな大きな城を管理する人間を雇っていない何て、本当に呆れました。自分のことながら……。


 それに、国賓が多く来る今回の催しには、それだけでは多分無理だろうと、ビクターが自分の屋敷から応援も寄越してくれたから、非常に助かっている。その代わりの要求はあるとは思うが、それぐらいは許容範囲だ。


 こういう事があったので、フランクはラロックとユートピアを何度も往復して人を連れて来てくれたんだが、そうすると今度はフランク一家いや、グラン一家が放置になるので、急遽ロイスにも行って貰って、何とかシャーロットの機嫌を損ねないですんだ。


 まぁフランクに限らず、この建国祭には、賢者全員が色んな形で協力してくれている。これも俺の落ち度だが、城の調度品から、食器類まで何も揃えていなかったというバカさ加減。城を建てて真っ先に俺が用意したのが、俺とサラが寝るベッド。他は追々でいいやなんて思っていた俺の頭をぶん殴ってやりたい。


 城というのを自分の家だと思えば普通に思いつくものを一切用意していないし、大き過ぎる家を自分一人で管理しよう何て思っていたんだから、どうしようもない。


 これについてはサラとエリーにもこってりと絞られた。それは俺が忘れていた事と相談しなかったことでだ。自分一人で何でもやろうとするから、こういう抜けが出る。国の運営も大事だが、目の前が見えていないとね。


 その結果、建国祭が終わったら、グーテルのミュラー公爵家の伝手で専属の従者を何人か紹介してもらう事に成った。ロベルト達も優秀だが、如何せん男性なので、やはりこういう事は女性の方が気が付くし、役に立つ。


 前世でも一人暮らしだったし、家族を持ったことも無いから、何でも一人でやろうとする事と、視野が狭くなっていると思う。普通の生活ならそれでも良いが、国王ともなればそうはいかない。


 本当に俺は国王なんてやっていけるんだろうか……?


 ビクターの案内で会議室に通された各国の国王は部屋に入るなり俺に質問の嵐をぶつけて来たが、それを何とか制して取りあえず歓迎の言葉を伝えた。


「この度は、我がユートピアの建国祭にお越し下さりありがとうございます。建国祭は3月1日に行いますので、それまではごゆるりとお過ごしください」


 何とか歓迎の挨拶は出来たので、俺は王妃であるサラの紹介と改めて俺の自己紹介をした。ただその間中、俺から目線を一切外さない一組の夫妻がいた。そう共和国の代表夫妻だ。共和国の代表夫妻とフリージア王国の国王夫妻の事は会議室に入る時にビクターが名前を呼んで入室させてくれたので、初対面だがどの人が誰だかは分かっていた。


 共和国代表夫妻の態度で、どうあがいてもこの後一波乱はありそうだと、俺は思ったが、それを顔に出すわけにもいかないので、にこやかに談笑に持ち込んで、ユートピアの事を少し説明した。





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