第336話 脅迫
談笑に持ち込んだのは良いが、やはり最終的には城の話になり、どうやったら作れるのかという話になってしまい、結局説明することに成ってしまった。
「難しい事は何もありません。ただ土魔法士を育て、左官スキル、木工スキル、持ちを増やし、育てれば良いのです。スローン陛下はご存じだと思いますが、以前教えた屋敷の建て方と同じです。ただこの城はその形が違うだけです」
「それはそうなんだろうが、流石にこの城は無理だろう」
「そんなことはありませんよ。魔法はイメージ力と魔力量、スキルも習熟度と魔力量で出来る事は増えて行くし、スピードも上がります」
「それでカルロスがあのような事を言っていたのか?」
スローンが言っているのは多分カルロスが、レベル上げについて進言した事だろう。カルロス自身が体験したことで、レベル上げの必要性を感じたから、国主導で国民全体のレベルを上げる施策、その具体的な方法を、カルロスが国王であるスローンに提案したんだと思う。
「それは気になりますね。カルロス宰相はどんな話をされたんですか?」
ここでそれを聞いてきたのは、フリージア王国国王のルーカス陛下だった。
「わしは余計なことを言ってしまったようだ。ルーカス殿その事は
スローンが余計な事と言ったのは、この会議室に同盟国以外の国がいることを忘れていたからだ。国を発展させるにはレベル上げは絶対に必要な事だとカルロスが進言した筈だから、わざわざそれを同盟国じゃない国に教えてやる必要は無い。
この感じだと、カルロスはまだ世界の仕組みついてはまだ話していないんではないかと思う。そこまで話していれば、スローンもこんな不注意な発言はしなかった筈。
「何やら、私どもには聞かれたくない話のようですな。何故そのようなことをされるのかお教え願いたい」
「あぁ、それはまだ発表はされていないが、ユートピアが建国した後にエスペランス、グーテル、ビーツ、フリージアの五か国で同盟を組むからですよ」
「同盟!」
「そうです。軍事、経済、両面での同盟です」
共和国にとってこれは寝耳に水だろう。具体的に敵対している訳ではないが、この同盟が成立すれば、自国と面している上下の国から挟まれることに成る。ましてそれにビーツ王国とユートピアも参加すれば、かなり拙いことに成るのは必至。
只でさえ今回通って来たから分かっているだろうが、ユートピアとフリージアはトンネルで繋がっているから、交易は出来る状態に成っている。ユートピアと出来るという事は当然ビーツ王国とも出来る。今までフリージアは共和国を通過しないと何処とも交易が出来ない状態だったが、それが無くなるから共和国は強気に出る事がもう出来なくなる。
「軍事はまだ理解出来ますが、経済とは具体的にどうされるのですか?」
「それは私が代わりにお答えしましょう。まだフリージア王国やビーツ王国の了解は取っていませんが、ひとつの方法として、我がユートピアが物流のお手伝いをしようと思っています。飛行船と帆船による大量輸送や短時間輸送、他にも人の移動も手助け出来ればと思っています」
俺がそう言った瞬間、共和国代表は一気に顔色が悪くなった。それは当然の反応、そうなる様に俺がわざと言ったのだから……。これは一種の脅し、今までのようにフリージア王国やエスペランス王国の輸出品に高い関税を掛けるなら、お前の国は二度と通らないぞという脅迫。
実際、その高い税金のせいで、フリージア王国は輸出が出来ないか、殆ど儲からない価格で輸出するしかなかった。それはエスペランスも同じで、魔道具をフリージア王国に輸出しようと思っても、共和国が高い税金を掛けるので、フリージア王国に届く時には値段が倍ぐらいになってしまい、殆ど売れない。
逆に言うと共和国はこれまでその税金で潤っていた面が大きいので、それが無くなるのは恐怖でしかない。それに今回の異種族大移動で、エスペランスは当分の間、食料を大量輸入する必要があるがその儲けもなくなってしまう。
共和国は商売人の国と言っても良いくらい、貴族の代わりを大きな商会が担っているが、自給自足出来るほどの国ではないので、殆どの商会は仲介で儲けているから、エスペランス、フリージアの両国からの儲けが無くなれば死活問題である。
「そ、それは凄い計画ですね。しかしそれ程の大量輸送が出来るのですか、飛行船や帆船は?」
「えぇ出来ますよ。そうですね馬車で言うと一度に二十台分ぐらいは輸送出来ます」
これは大型の飛行船や帆船が出来たらの話だが、現状でも出来ない話ではない。うちの国はマジックバッグが獲れる、ダンジョンもあれば、俺が製造する事も出来るからね。
これには共和国のみならずエスペランスやグーテルの国王も驚いていた。あれ? おかしいな? カルロスからマジックバッグの話は聞いている筈だからこの反応はおかしい。もしかしてマジックバッグを商売に利用するという考えが無かったのか? 基本マジックバッグは国家が持ち、軍事用に利用することしか考えていなかったのかもしれない。
**********
俺達が会議室でこんな会話をしている頃、異種族を案内した役人や兵士たちは物凄く感謝されていた。
獣人の集落では
「俺達がこんな所に住んで良いのか?」
「勿論です! こちらの住居は陛下自らが皆さんの為に御作りになったものですから」
ドワーフの集落では
「おいおい、ここは良い所だな。ここからなら王都にも近いし、鉱山にも近い。俺達の事を良く調べていないとこんな所に住居を用意何て出来ねぇぞ」
「陛下は皆さんの事を良く勉強して、一番いい所を選んだようですよ」
「流石は酒造りに詳しい陛下だな。こりゃ俺達も国の為に頑張らないといけねぇや。物作りに酒造りが仕事に出来るなんて本当に感謝するぜ」
エルフの集落では
「この森を自由に使って良いの?」
「はい、陛下が許可されていますので宜しいですよ」
「それにこの住居も気に入ったわ。土で出来ているようだけど、他の種族の住居より木が多めに使われているから住みやすそう」
「そう言って頂いたと陛下にお伝えしておきます。土を使って建てたから気にしておられましたので」
「そんな事きにしないわよ。移住できるだけでもありがたいのに、こんな家まで用意して貰って、感謝しかないわ。陛下にはくれぐれも御礼を言っておいて下さいね」
**********
「取り敢えず、今のところはこれぐらいで、後は夕食までお寛ぎください」
俺の締めの言葉で、この談笑と呼ぶにはちょっと厳しい内容だった会話も終わりを告げた。
やっと終わったよ。幾らエスペランスやグーテルの国王達と会った事があるとはいえ、やっぱりこういう事に慣れていないから、凄く緊張する。政治の世界というのは庶民には難しい事を実感するね。
駆け引きをしながらも自国の利益を考えないといけないし、だからと言ってこちらばかり有利になってもいけない。本当に難しいよ。現状共和国だけが不利になる状況を作ってしまっているから、この先どこかで向こうにも良い提案をしないといけない。
だけどこれが一番難しい。共和国の体制や考え方が独特だから今回来ている代表だけに利益を与えるものであってはならないし、そうかと言って全部の商人に利益が出るようにすることもそう簡単には出来ない。
「あなた、そんなに考えなくても良いですよ。成るようになりますから。あなたは自分の思うようにすればいいんです。それでどうしようもなく成れば皆が助けてくれます。あなたは今までそれぐらいの事して来ているんですから自信を持っていいんですよ」
そうか、俺は世界に貢献してきているんだから、自信を持てばいいのか。実際俺の言葉で共和国の代表は何も言えなくなったもんな。それに俺には助けてくれる仲間がいる。いざとなればどうにでもなるのも確かだ。
サラの言葉はウジウジトと色々考え過ぎていた俺の思考を自由にやるという自信に変えてくれた。
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