第337話 建国祭前日まで

 各国国王が到着して早二日が過ぎ、いよいよ明日が建国祭。漸く一つの区切りがつけられる。この二日間にも色々とあったが、何とか無事乗り切って明日を待つだけになった。


 色々乗り切ったという表現がぴったりくるぐらい、この二日間も結構大変な事の連発。到着の当日の夕食会からひと騒動あったが、その切っ掛けは今後の事も考えて、米とサトウキビから作る酒を俺が魔法で作って提供したからだ。


 酒に関してはユートピア、ゾイド辺境伯領ではもう供給していたり、供給の準備をしている。そこにフリージア王国を参加させ、世界の酒の製造工場にしようと思っているから夕食会に出したんだが、これが思ったより効果絶大でこれまた質問攻めになってしまった。


「マルド国王、貴国は農産物の宝庫ですよね。それなら沢山の酒が作れますから、是非ユートピアに学びに来ませんか?」


「おう~、それは有り難い話です。是非学ばせて貰いたい」


「貴国では農作物を余らせたり、低価格で輸出されているでしょ。その分を酒に変えれば酒の一大産地になりますよ」


 この言葉も共和国へのけん制だ。今までのように安く買い叩いていると今後一切農作物が輸入できなく成るぞという脅し。自給自足が出来ていないくせに共和国は出来ているふりをして、フリージア王国の農作物を安く買い叩いている。そんな事誰でも分かる事なんだから、嫌なら売らなければ良いと思うだろうが、そうすると外貨が稼げない。100%何でも自給自足できる国なんて殆どない。何かしら不足するものが必ずあるから、輸入する必要があるが、外貨がないと自国のかねが不足してしまう。


「それは良い事を提案してくれる。その案を採用させて貰おう。輸出の際も当然協力してくれるのだろう」


「勿論です。多少の料金は頂きますが」


「それは当然の事。こちらは輸送費が安く済むし、それに人をかなくて済むのだから多少の輸送費など問題ない」


 こんな感じで初日の夕食会は進んだのだが、その翌日も城の見学中にひと騒動あった。まぁこれは絶対あるなとは思っていた事だから、そんなに驚きはしなかったが、レシピの公開、特許登録を迫られてめんどくさかった。


「ユウマ殿このプールというのは我が国でも作れるだろうか?」


「スローン陛下作れますが、作るならラロックが良いですよ。あそこなら温泉がありますから一年中使えます」


「お~~う、そうじゃったな。ラロックに作ればわしが引退しても温泉とプールの両方が楽しめる」


「それにあそこなら、スライム素材も大量に確保できますからね」


 今回俺がプールと温室の建設に使ったのは、スライムガラスではなくスライムプラスチックモドキ。スライムガラスより作る行程が少ないので安価で作れるから利用価値が高い。色んな物に使えるから、大量生産出来ればかなり前に考えていたペットボトルのような容器も作れる。


 これに反応してるのも共和国代表、それはスキルの発現に力を入れていないからです。留学生に送って来たのが殆ど普通科や魔法科、職業スキルの方はおざなり程度だから、未だに旧子弟制度が蔓延はびこっている。


 商売に力を入れている国なのに、作る方には興味がない。仕入れて売るこれが基本的考えだから、製造に力を入れない。


 この後も同じようなことが起きた。それは学校や病院の視察の後に造船所と帆船の視察をした時だ。


「これが帆船という物ですか? 大きいですね」


「海に浮かんでいるのが中型で、今建造してるのが大型です」


「ユウマ殿、この中型よりもう少し小さくしたものは作れますかな?」


「大きさは変えられますよ。巨大にする方じゃなければ」


「それなら10隻ほど注文したいのだが、頼めるか?」


「あぁ川で使うのですね、ドラン陛下。グーテルは川が多いとサラから聞いています。それなら、木工スキル持ちと錬金術スキル持ちを送ってください。ここで作って輸送する方が大変ですから、作り方を伝授しますよ。もしくはグーテルの賢者に行って貰いましょう」


 今までは距離もあったから、グーテルに賢者が戻る事は殆どなかったが、今は飛行船があるから、自国の賢者をもっと活用したらいい。娘もいるんだから、もっと使えば良いのにマーサの話では、どうしてか帰国しろと言ってこないらしい。


 結局はこの話も自国で作れますよと言う話に成ったから、共和国の代表は自国の方針の間違いに漸く気づき始めていた。


 これだけ、作ろうと思えば作れるものが多くあるのに、自国では殆ど生産できない事に気付けば、これからどうするべきか考えるだろうし、行動に移すと思うが、如何せん共和国は代表の力がそれ程強くない。


 建国祭が終わって、帰国した時にこの代表はどうするんだろう? 今回来たことを後悔してるかな? 小国の王なんて手玉に取れると思って来ていたに違いないが、その思惑が最初の城の公開で一気に崩壊、その後も次から次へと自国が不利になる話ばかりで、今なんかちょっとした放心状態のようになっている。


 フランクに聞いた話だと共和国の大使は中々優秀な人だと聞いていたんだが、代表のこの状態を見ると大使の意見は無視されたか、取り上げなかったんだろうな。


 ここまで追い込んだから、本当は最後に自国通貨を披露してとどめを刺したかったんだが、金鉱脈の件はまだ公開できないから、今回は諦めた。


 商売で成り立っている国では経済戦争を仕掛けられたら、一溜りもないと自覚してくれたら、今回の建国祭参加を承諾した意味はある。


 そして、建国祭を明日に控えた今、フランク達賢者は各国の国王や代表に囲まれ、商談や交渉に追われている。


「ユウマ陛下、俺はどうすれば良いんだ?」


「どうしたんです?」


「エスペランス王国、グーテル王国の国王は当然として、カルロス様やビクター様にまで飛行船を発注されたんだが、とてもじゃないが一人では無理だ」


「ロイスさんと従者がいるじゃないですか」


「それはそうだが、それでも四人だ。それに国王が使う飛行船だぞ。俺達が今使っているような物じゃ拙いだろう」


「それを考えるのはフランクでしょ。自分が蒔いた種なんですから最後まで責任取って下さい」


 フランクが商魂をだして、ビクターに飛行船を売ろうとしたから、招いた自体なんだから、自分で何とかするしかない。俺も少しぐらいなら手伝っても良いが、俺も大型船を作らないといけないからそれ程時間は取れない。俺も自分で蒔いた種だからね。フリージア王国の物流の手伝いをすると言ってしまっているから……。


 フランクの相談をあっさりと受け流して、他の賢者を見るとグーテルの賢者たちはマーサの後ろに隠れて、自国の国王から逃げている。多分ドラン陛下から帰国を要請されているんだろうが、それをマーサに丸投げして、自分達の都合の良い様な形に持って行こうとしている。


 もともとグーテルの賢者はいずれ国に帰るのが前提で、エスペランスというか俺の元に来ていたが、現状彼らは戻る気が一切ない。研究の面白さを知っていまった彼らの居場所は俺の傍なのだ。だから、完全帰国だけは避けたいから、マーサに交渉させている。


 そんな中、女性ばかりに囲まれているのが、ミランダと何故かエリー。これは恐らく美魔女化粧品とエリーの容姿についてだろう。それを見て『大変だな』と心の中で思っていたら、エマとローズがやって来た。


「ユウマ陛下、どうすれば良いんですか?」


 今度もフランクと同じように聞かれた。


「どうしたんです?」


「どうしたじゃないですよ。レベルと寿命について話して良いんですか?」


 あぁ確かにエリーの若返りはレベルが上がった事が原因だ。そしてそれはレベルが上がれば寿命が延びるという事に起因している。そうなるとそれを話して良いか分からないという事だ。


 確かにこれは拙いね。カルロス達には話しているし、実感していることもあるだろうが、カルロスもまだこの世界の仕組みについて全て話していないようだから、俺達が勝手に公表するのは避けた方が良い。


「それはまだ駄目ですね。それじゃ取りあえず、美魔女化粧品のお陰で押し通すのはどうでしょう?」


「そんなの無理に決まっているじゃないですか。女の目は誤魔化せません。エリーさんは完全に若返っていますから」


 多分この世界の寿命が延びる時って、中間年齢と言ったら良いのかな? 100歳まで寿命が延びたら、30~60歳ぐらいの間の年齢の進みが遅くなる。150歳まで延びたら30~100歳ぐらいの年齢の進みが遅くなる。こんな感じじゃないかと思うから、エリーは60歳から45か50歳ぐらいまでの肉体的に戻っている。


 これは困った。どうするべきか……?










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