第338話 レベルと寿命

 ここに来て丸投げ作戦が行き詰ってしまった。ユートピアに国王が来れば色んなことを言い出すのが分かっていたから、最終的には全て賢者に丸投げするつもりだったが、肝心なことを忘れていた。


 世界の仕組みについては簡単に公表できない。カルロス達にでさえ、覚悟を求めたぐらいだからね。後戻りは出来ないと……。


「エマ、少し待っていて」


 俺はエマとローズに少し待つように言って、カルロスとビクターの所へ。


「カルロス殿少し良いか?」


「どうされました、ユウマ陛下?」


 俺は世界の仕組み、レベルと寿命について公表して良いかを確認に来たと告げた。当然理由も聞かれたので、女性陣に囲まれているミランダとエリーの状態を見せて、状況を説明した。


「それは困りましたね。同盟国だけならまだ良いですが、共和国の夫人もいるのは拙いですね。それに私もまだ全てを国王陛下に伝えていませんから」


 やはりそうだったか。二人の様子から中途半端にしか伝えていないのが感じられていたからな。それに俺が公表を躊躇してるのもカルロスと同じで、共和国の夫人がいるからだ。この場合も共和国代表と同じように、蚊帳の外に置くようにしても良いんだが、世界の仕組みは世界共通の問題だし、秘匿して良い物でもない。まぁ公表する時期は変えても良いと思うけどね。


「共和国には教えても良いんじゃないかと俺は思っているんですが、どうでしょう? 時期は変えても何時かは公表しないといけない内容だと思うんです」


「それはそうなんですが、共和国がそれを信用し共感するかです」


「信用はするでしょ。実際にエリーという例がいるんですから、ただ共感するかは分かりませんが……」


 共感と言っているが、実質は協力するかと同義なんだよな。今までの共和国の行動はどちらかと言えば、反発しているからね。


「この際ですからレベルと寿命についてだけでも公表した方が良いんじゃないでしょうか? かなり混乱はあるでしょうが」


「ユウマ陛下、それなら全ての方が良いと思います」


 確かに魔力スポットの話をしないと、寿命が延びる程のレベル上げは出来ないし、共和国は場所がら魔境に接していないから、この話を聞けば自国がどれだけ不利なのか分からないと思う。


「そうですね。この際俺の方から全てを此処にいる皆さんに話した方が良いかもですね。神聖国や帝国と違って、共和国は反発はしていても実力行使には出て来ていませんから、理解する事は出来るでしょう。後がどうなるかは分かりませんが・」


「意見が割れれば、共和国自体が分裂するかもしれません。そういう国ですから」


 損得で動いているような国だから、損をすると思えば良い方に動く可能性は高いが、人の考え方はそれぞれだから、損得の判断が割れる可能性はある。これが王制なら王の一声で決まるけど、共和国ではそうはいかないのが問題。代表は選挙で選ばれるからね。


 共和国も元は王制だったらしいけど、商人が力を付けたことで商人と庶民がクーデターを起こして、国を変え今の体制に成ったと聞いている。そしてその中心が商人だったから商人が国を動かすようになり、初めは少なかった商人議員も数が増え今の人数に固定され、その中から代表を決めてる。問題なのがこの商人議員が世襲制であるから考え方が古く新しい物に反発する傾向がある。


 同じ商人でもグランやフランク達とは全く考え方が違う……。


「割れて貰いましょう。共和国は保守的過ぎる」


「覚悟を決めますか。この話がどこまで広まるかは分かりませんが、何時かは公表する事です。やりましょうユウマ陛下」


 カルロスの了解も取れたし、俺の覚悟も決まった。世界が混乱する可能性はあるが、避けては通れない道だ……。


「エマお待たせ。これから世界の仕組みとそれに関連してレベルと寿命について公表するから、皆を集めてくれる。各国の国王や代表はカルロスが集めてくれる筈だから」


「分かりました。いずれ知る事ですもんね」


 エマやローズから始まり、カルロスの手助けもあり、各国の国王から城にいる関係者も含めて全ての人が一度も使った事がない謁見の間に集められた。


「カルロス殿申し訳ないが、この場を仕切って貰えますか? その方が話が早いので」


「そうですね。その方が良いでしょう。この話に国は関係ありませんからね」


 謁見の間に集まった人達に向けて、カルロスが集まって貰った趣旨を伝えると、静寂が一気にざわざわし出した。


 国王や代表がいる場所だから城の関係者などは無言だったのだが、突然、世界の仕組みなどと言われれば黙ってはいられない。


「高い所から申し訳ないが、皆さんに話すにはこの位置の方が良いので我慢してください」


 俺は数段高い玉座の位置から話しているから、幾ら各国の国王夫妻は椅子に座って貰っているとはいえ、失礼になるから先ずは謝罪から話し始めた。


「先ほど女性陣が賢者ミランダに色々聞かれていたようなので、この際だからその事について全てお話ししようと決めました。ここにいる賢者達と数人は今から話す事を全て知っていますし、実感しています。ですから空想でも虚偽でもありません。ですから心して聞いて下さい」


 それから俺は世界の仕組みについて話して行った。魔力スポットの存在、その影響で魔境が存在する事、今は弱まっているスポットが復活すれば魔境が広がる可能性がある事、ダンジョンが何の為に存在しているのかなど大きな世界の仕組みについて話し、その後に魔法やスキルについて、レベルと寿命について説明した。


「お分かり頂けましたか?」


「「……」」


 あまりの事に衝撃が強過ぎたのか、誰一人言葉を発しない。しかし、そんな中いち早く我に返って俺に質問をぶつけて来た人がいた。


「ユウマ陛下、それがエリーの若返りの理由なんですね」


「その通りです。マーガレット王妃」


「待て待て、それじゃミュラー殿や夫人もそうか?」


「そうです。ドラン陛下」


 お義父さんやお義母さんはエリーより若いから、そんなに目立って変化していないので分かり辛いが、ドラン陛下は身内だからその小さな変化に気付いたんだろう。


 そこまで話したら、謁見の間が物凄く騒がしくなった。誰もが近くにいる人とどうやってレベルを上げるだとか、どのくらいあげたら若返るんだろうとか、勝手に色々想像して話始め、収拾がつかなくなった。


 こうなっては無理やり話を止めるよりしばらく放置してから、もう一度話した方が良いと思い、俺は暫く玉座に座って落ち着くまで待つことにしたが、そこにサラもやって来て隣に座り、俺にニッコリ微笑んで、


「これから大変に成りますね」


 いやいや、そんな事にはしないよ。サラが思っているのはレベル上げに俺が駆り出されると思っているんだろうが、俺にそんなつもりは毛頭ない。当然後の事は賢者に丸投げです。その為に飛行船も増やすんですから。


 まぁ飛行船を使ってレベル上げを出来るのは国王やその家族と一部の人だけ、その他の人は自道にあげるしかないと思うが、それをどうするかが国王の手腕に掛かっている。特に魔境に面していない共和国は指導力を試される。


 逆に魔境ともろに面している辺境伯のビクターもこれから忙しくなるだろう。国中にこの話が広まればラロックを目指す人が多く成るだろうし、その対策をしなくてはいけない。


「パ~~ン!」


 俺は魔法で手を叩く音を増幅して、謁見の間に響かせ、カオスと化している広間を落ちつかせた。


「皆さん、良く聞いて下さい。レベルで寿命に変化が出るのは最低でも10以上です。レベルには5の壁というのが存在していて、5や10になる前にはかなりの魔物を倒さないといけません。ましてレベルは上がれば上がるほど上がり難くなります。それを効率よくやるには工夫が必要ですし、魔境に入るのが絶対条件だと思ってください」


「それでは魔境を持たない我が国は……」


 ここまで話せば共和国やビーツ王国が不利なのは誰が聞いても明らか。ここにはビーツ王国は居ないから、その不安に駆られているのは、今は共和国だけだ。



 ここからが本当の意味で大変になる。共和国の代表がどう出てくるか分からないから……。

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