第339話 丸投げ

「ユウマ殿、これがカルロスが言っていた事の理由なんですな」


「そうです。スローン陛下。国民のレベルが上がれば色んなことに恩恵があります。ですから、それをどうやって実行するかが皆さんの手腕に掛かっています」


「スローン殿、カルロス殿は何を始めようとしているのですか?」


 カルロスの施策は国民のレベル上げを国が協力して上げるという物。具体的には先ず子供の頃からスライムを利用した初期のレベル上げを行う。子供の頃からやれば成人までには最低でもレベルは3~5ぐらいには成る。レベルが上がれば少し魔物のランクを上げてホーンラビットにすれば、レベルも上がりやすくなるし、食料の調達にも成って子供の成長に良い。こうやって子供の頃からレベルを上げて行けば、国民全体の平均レベルが上がり、国民の魔力量、スキルが上昇するので、国が発展する。


 それに成人してる人達には国が援助して、冒険者の護衛を付けてパワーレベリングすることも出来るようにする。まぁ限度はある、レベルを5に上げるまでという制約。それ以上にレベルを上げたいなら自腹で護衛を依頼するしかない。



 基本的にはこれだけだが、これのもたらすものは相当大きい。言ってみればこれも公共事業だから、金が回るので経済が活性化する。冒険者が金を使えば、食堂、鍛冶屋、宿屋……多くの業者が儲かる。その業者もレベルが上がれば作業が早くなるし、新しい物が作れるようになるし、スキルの習熟度も上がる。


 他にもラロックやゾイドではもう行われているが小学校のようなもので基礎学力があがるので、発明も増えるだろう。


 最終的に寿命が延びるので人口も増え税収も増えるから、国自体も栄える。人口が飽和しない限り。


 その飽和もダンジョンという物があるから多少は遅らせることが出来る。食料や色んな物がダンジョンから排出されるし、それに挑んで死ぬ者もいるだろうから、人口の増加が遅れる。勿論、魔境でも同じだ。


 スローンがドランに話した内容はこんな感じだね。


「その施策は世界の仕組みを知っていれば、当然やるべきことですな。今のままだと発展はないし、もし魔力スポットが復活すれば国が滅びかねない」


「わしも世界の仕組みを知らなければカルロスのやろうとしている事の意味が分からんかったが、これは是非やらねばと今は思っていますな」


 二人の王が話しているのを感心したように聞いている人と恐怖を感じながら聞いている人がいた。感心して自国もそれに便乗せねばと感じていたのはフリージア王国の国王、それに対して恐怖を感じていたのが共和国代表。この二人がこの後取った行動は、当然ながらフリージア王国は自国も同じことをやりたいので、協力して欲しいと要請した。だが共和国はどうして良いのか分からず、ただ思考を巡らせているだけ、それも結論の出ない思考。今の共和国の体制や思考ではこの考えが理解出来ないから、代表がどう言おうと実行出来ないのが分かるので、思考が堂々巡りする。その結果……。


「ユウマ陛下、我が国はどうすれば……」


 当然こうなるよね。自分では解決出来ないとなれば、誰かに頼るしかない。それが俺という訳だ。『だが、断る』


「それは自国で考える事です。今までエスペランス王国は色々発信してきましたし、学校や病院を作って協力して来たでしょ。それを貴国はどう受け止めました? 自業自得です」


 好意で留学生まで受け入れたのに、送ってくる学生は碌な奴がいなかった。大使は危機感を持って国に報告していたのに、国はそれを真面に受け入れるどころか、商売や自国の権力争いに利用しただけ。


「そこを曲げてお願いしたい。今までの非礼はお詫びするので……」


「では一つ質問します。貴国に足りないものは何だと思います?」


「我が国に足りないもの……?」


 分からんだろうな。分かるようなら今こんなことに成っていない。


「貴国に足りないものそれは、プライドを捨てる勇気と、何でも損得勘定で動くのを止める事です」


 商人が国を作ったという変なプライドが共和国にはある。そのプライドが他国を見下す要因になってしまっている。もう一つの損得勘定で動くというのは商売人なら普通の事だろうが、国となれば話が変わる。時には損をしてでも国同士の付き合いはしなくてはいけない。


「……」


 簡単には理解出来ないよな俺が言っている意味は……。


「フランク! ちょっとこっちに来て!」


 突然俺から呼ばれたフランクは何だという顔をして俺の所にやって来た。


「代表殿、こちらは賢者フランクです。元と言ったら失礼だが賢者になる前は商人です。今は賢者であり、エスペランス王国の男爵です」


「元とは失礼ですね。今でも店を経営してるから、商人ですよ」


「商人が賢者で男爵……?」


「このフランクは……」


 俺はフランクという人物がどのようにして賢者になり、男爵まで上り詰めたのか、そして今も学び続けていることを共和国の代表に話して聞かせた。


「お分かりになりますか? 同じ商売人として、自分とフランクの違いが?」


「年が下だろうと、多くを知っている者から学び、それを惜しみなく人に伝える……」


 フランクも商売人だから初めは当然利益の為に動いていただろうが、それでも俺を守ろうと動いたのも事実。領主や国に嘘をついてもね。プライドなんてないし、損得だけでも動いていない。


「フランク、ここに来て貰った理由は、数人共和国から賢者見習いを引き受けて貰えませんか?」


「あぁ~~~~、突然何を言い出すんですか?」


「突然と言えばそうですけど、これからはもっと増えると思います。恐らくフリージア王国、ビーツ王国からも」


「それって以前言っていた大学の事か? ――ですか?」


 ちゃんと覚えていたようだ。賢者には自分の研究と学生の教育をやって貰うという、前世の大学の教授をやって貰うと以前話したことがある。


「そうです。自分の研究の手伝いをさせたり、教育をする学校の事です。グーテルの見習いを賢者に出来たんですから出来ますよ」


「マジか~~~、まぁいずれ賢者クラスの知識を持った人が増えないといけないのは分かるから、やらないとは言えないが……。面倒だな……」


 分るよその気持ち。面倒だけどそれを乗り越えた先に丸投げというご褒美も待っているから今は頑張った方が良い。俺が今それを色んな事で味わい始めているから。


「弟子を育てれば、教育の方は弟子に任せれば良いんですよ」


「あぁ、そういう事か。俺達が今やらされているように……」


 バレたか。正にその通り俺は賢者を育てたから、いま楽が出来る。でもそれは、学校設立当時教師をやっていたメンバーも同じ事。今では皆教師を辞めている。


「あの~~~、今のお話からすると、共和国からも賢者見習いを出せという事でしょうか?」


「そうです。今ラロックの学校に来ているような人ではない人を送って下さいと言っています」


「それは何処にでしょうか?」


「フランクどこが良いと思います?」


「またそうやって人に振る……。そうですね……、ラロックで良いでしょう。ラロックの学校の職業科はもう直ぐ閉鎖されますからそこを使います」


「え! 職業科は閉鎖されるんですか?」


「えぇ、もうエスペランスもグーテルもスキル持ちが多いですし、現在卒業生が多くの工房を持っていますから、そちらで講義をするようになります。古い弟子制度ではない小さな学校が増えるという事です」


 何時までもあると思っていたんだろうが、生徒が増えないんだからやる意味がない。まして辺境まで行かなくても身近にスキルの発現を教えてくれる人がいるんだから、その方がお金も掛からない。設立当時は領主が払っていたから無料だったけど、今は授業料も少しだけど取っているからね。


「ということで、後はフランクと話してください」


「分かりました」


 これで丸投げ成功! これからは殆どの事を賢者に丸投げする。だって俺は国王に成るんですから、そんな事に構っている暇はない。それに建国宣言が終わって、少し落ち着いたらやることがあるからね。


 こちらの方が今の俺には最優先事項! 






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