第340話 建国宣言
「色々あったけど今日がいよいよ建国宣言当日。これが終われば建国祭でお祝いしてひと段落」
「そうですねやっと落ち着けます」
「それでもこれからの一年はそれなりに忙しいと思うよ。法律の施行や鉱山開発、ミル村の方では牧畜の拡大。異種族の問題も残っているからね」
「異種族の移住問題はかなり厳しいのでは?」
「サラ、その事なんだけど、建国祭が終わったら少し話があるんだ」
建国祭の後にも色々あるが、何と言ってもサラの出産が控えている。これは俺にとって人生最大の行事だ。これに向けての準備が必要だから、建国祭の後にサラと話し合いたいことがある。
「そうなんですか。それは終わってからの方が良いという事ですね」
「そう、とても大事な話だから……」
「分かりました。その時にゆっくり聞かせて下さい」
「あぁ、それで今日の予定なんだけど、先ずは城のバルコニーから国民に建国の宣言をするんだよね」
「えぇそうですよ。各国の国王の前で国民に向かって宣言するのです」
あぁ~~緊張するな。こんな事やった事も無いからな。まして国民全員だと二万人だぞ……。一応原稿は書いたけど、実際その場に立ったら頭が真っ白に成る自信がある。そんな自信はいらないんだが、そうなる可能性が高いと自覚している。
「サラ、もしもの時はサポートお願いね」
「はいはい、分かりました。でも、あなたってどんなに強い魔物でも怖がらないのに、人を一番怖がりますよね」
サラに言われて気づいたけど、確かに俺ってどんな魔物に出会っても怖いと思ったことは無いな。その割に人に対しては慣れるまで警戒心は強いし、関りを減らそうとする。それも今は大分良くなっていると思うけど、初対面の人は未だに緊張する。
それに、今日この日を迎えても心のどこかで、陰のフィクサーに成りたいという願望があるんだろうな。同じトップでも陰という見方によっては二番のように見える立場が俺にはあっていると思えるからね。ただ、陰と陽は相対するものだから対等なんだけどね……。
「外が段々騒がしく成って来たね」
「えぇ、もうかなりの人が集まっていますよ」
俺はその状況を見たくないから窓から離れているが、サラが窓から見える群衆について教えてくれる。いや~~、本当に心臓がドキドキする、自分の鼓動が分かるなんてあり得ないよ。それに息苦しさまで出て来たしそれに伴って手まで震えている。
前世でも本番に弱い所があったからな。会社のプレゼンで何度失敗した事か……。
「そんなに嫌なら黒騎士の姿で出ますか?」
俺のあまりの動揺ぶりを見かねたのか、サラがこんなことまで言い出した。だが流石にそれは駄目だろう。確かに俺が黒騎士だと国民は知っているが、それでは王としての親しみを持ってもらえない。恐怖で支配するんじゃないんだから。
「いや良い、覚悟を決めるから。これから王になることは変えられないし、ここユートピアを発展させて、国民を守らなければいけないんだから」
「そうです。あなたのこれからの行動に、国民の命運が掛かっているんです。その第一歩が今日の建国宣言です。頑張りましょう!」
サラとこんな会話しながら、心を落ち着けたり、覚悟を決めていた時ロベルトが、
「陛下、お時間です。どうぞ国民の前に御姿をお見せください」
「あぁ分かった」
俺はそう言った後、両頬を両手で思いっきり叩いて気合を入れ、バルコニーに向かった。
バルコニーには既に俺より先に各国の王達が並んでおり、俺が最後に登場するという演出がされていた。そして俺がバルコニーの先端中央に立った時、一斉に国民が、
「「ウォ~~~」」とも「「ワァ~~」」とも聞こえるような歓声を上げた
そしてその歓声を止める為に右手を上げて静粛にするように促した。歓声が徐々に収まったので、拡声魔法を使って、
「皆の者今日は集まってくれて嬉しく思う。もう既に話は聞いているであろうが、今日この日をもって、ここユートピアが正式な国と成る。それに伴って、
「今日今をもってユートピア王国の建国を宣言する!」
「皆の者ここからは祭りじゃ! 建国を皆で祝って大いに飲んで食べて、楽しんでくれ! 我からも多少だが料理も酒も用意したから味わってくれ」
ここまで言った後、群衆に手を振りバルコニーを後にし城の中に戻った。
「ふぅ~~、何とか終わった~~、サラ、あれで大丈夫だったかな?」
「大丈夫でしたよ。やる前はあれだけ緊張していたのに、本番は落ちついていました」
「そう、それは良かった。不甲斐ない王の姿を見せなかっただけでも、俺にとっては大成功だと思う」
これで漸く一区切りだ。建国宣言が出来れば後は少しづつ国を整備していくだけ。正直に言えばこれからの方が大変なんだが、気持ち的にすっきりしたというか、安堵しているのも確か。
この後の行事はもうないが、どうするかな? 王に成ったから、皆の所に行って一緒に騒ぐわけにもいかないし、どうしたものか……。
「サラ、これからどうしよう? 王に成ると自由に王都にも行けなくなるから、ちょっと寂しいね」
「行っても良いんじゃないですか。あなたはそんな王に成りたい訳ではないでしょ。それにあなたは強いんですから護衛何て必要ないし、この国の国民にあなたの事が嫌いな人は居ませんよ」
「そうだよね。威厳は必要だろうけど、国民と触れ合ってはいけないなんて、俺の性分に合わない」
前世から庶民の俺が王に成ったからと、いきなり今までと行動を変えるなんて出来ない。実際に城の中に専用工房まで作っているんだから、他の王とは違って当たり前。俺は王であって、大賢者でもあるんだから……。
「それじゃ、ちょっと皆に会ってくる」
「はい、いってらっしゃい!」
俺は城や来賓の事をサラやロベルトに任せて、一人建国祭を楽しんでいる国民たちの輪に入って、一緒に酒や料理を楽しんだ。初めのうちは俺が急に現れたことで、皆恐縮していたが、少し経てば気さくに皆対応してくれて、大いに皆で盛り上がった。
初対面の人は苦手と言っていたのにこれはおかしいと思うだろうが、俺って初対面というよりお偉いさんが苦手なんだと思う。前世でもクライアントの重役に会うのが無茶苦茶いやっだたから、部下に押し付けたこともあったぐらいだ。部下に取ってはチャンスをくれたと思っていただろうが、俺の本心は俺がただ嫌だっただけなんだよね。
一つのグループで騒いだら、次のグループへ移動し、出来るだけ多くの国民と触れ合うようにしていたら、いつの間にか中心に俺がいて、皆が俺を囲むように輪になりあちらこちらで俺の名を呼びながら乾杯がされていた。
「「ユウマ陛下に乾杯!」」
「「ユートピアに乾~~~杯!」」
「「お世継ぎに乾杯!」」
まだ早いが、俺とサラの子にまで乾杯をしてくれるは本当に嬉しい事だ。
国民が俺達に乾杯をしてくれるなら俺もやらないといけないと思って、建国宣言同様に拡声魔法を使って、
「ユートピアの国民に乾杯!」
とお返しの乾杯をしたら、
「……」
一瞬の沈黙の後、
「「ウォ~~~」」「「ワァ~~」」「「ユウマ陛下バンザーイ!」」「「陛下愛してる~~」」「「お嫁さんにして~~」」
ちょっと危ない言葉もあったが、色んな言葉で俺に返してくれた。
これだけ国民に期待誰ているんだ。不甲斐ない王にだけは成れない。どんな事をしても、この国民を幸せにしなくてはいけないと心に誓った……。
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歓声、喚声、バルコニーに登場した時の群衆の反応はどちらが合っていますか?
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