第341話 重要な話

 建国宣言から建国祭は最終的に大盛り上がりに成り、結局、翌日の朝がた近くまで騒ぎまくり、城の外の建国祭会場には男女問わず酔っぱらいの屍がゴロゴロしていた。


 始めはそんなに酒は用意していなかったんだが、俺が酔っぱらい気持ちが大きくなったせいで、インベントリに大量に保管していた酒まで振舞ったようで、このような状態に成っている。それでも一応理性は残っていたのか、振舞った酒は蒸留する前のビールやワインだったから騒ぎにはならなかったが、もし10年とか20年物のウイスキーやブランデーを出していたら大変なことに成っていただろう。


「ちょっとやり過ぎたかな、でも一生に一度の事なんだから良いよね」


「そうは言いますけど、私は朝この光景というか惨状をみて慌てたんですよ。何があったの? 食べ物にでもあたったの? って慌ててあなたを探しに行ったぐらいにね」


「ごめんごめん、あまりに楽しかったからついね」


 こんな楽しく飲んだ酒は前世も含めても殆どない。多くは愚痴をこぼす一人酒だったし、会社の宴会は上司にへつらうか、逆に上司の愚痴を聞いたり、説教されていたからな。こんな喜びを皆で分かち合う宴会はやった記憶がない。


「これからはやるなとは言いませんがもう少し自重して下さいね。もう一人の体じゃないんですから」


 そうだな。王であり、サラの夫で、もう直ぐ父親に成るんだから健康には注意しないとな。まぁこの世界の今の医療なら前世より健康でいられるけどね。それでも不老不死じゃないんだから、寿命を縮める行為ではあるよな。


「そうだね。もう少し自重するよ。サラに心配を掛けるような事はもうしないよ」


「本当に約束ですよ」


「あぁ、約束する」


 心配を掛けないか……。あれはどうなのかな? 建国祭が終わったら話すと言っていたことは……。でもやらなければいけない事だから、心配しても言わなきゃな。


 お昼ごろには屍ようになっていた国民も徐々に起き出し、二日酔いにも拘わらず皆自分の村や町に帰り始めた。それを見て一安心したところで、俺も次の行動に移った。


「サラ、建国祭が終わったら話があると言っていたでしょ。それを話したいんだけど良いかな?」


「そう言っていました。何か大事な話しのようでしてね」


「凄く大事な話。これからの俺達やユートピアにとってのね」


「ユートピアは分かりますが、どうして私達に大事な話なんですか? まさか離婚はないでしょうし」


「ないない! 離婚なんてないよ! そんな話じゃない。あぁでも少しは近いか……」


「近い?」


「まぁ兎に角話を聞いて、そうしたら意味が分かるから。実はね……」


 俺がサラに話した内容は、物凄く簡単に言えば別大陸の調査に行くという事。それも一人でね。今回はフランク達も連れて行かないし、勿論身重みおものサラも連れて行かない。期間は約半年、これならサラの出産にもギリギリ間に合う筈。


 何故この時期に調査に向かうのかは当然、異種族の移住があるからだ。一年後には、12万人もの移住が控えているのに、何もしないではいられない。魔境に集落を作ると言っても結局はエスペランスの一部のような物だから、出来れば別に設けたい。他にも別大陸の事を知っておけば、今後色々困ることが起きた時にも対処が可能になりそうだからというのもある。


 それにこの時期ならサラも動けないし、国の方も法律の準備やそういう事で俺が直接関わらなくても、今はやっていける。法律の草案何てそう簡単には出来ないからね。


 まして、今ならフランク達やお義父さん達もいてくれるから、ここを任せられる。正直自由に動けるのが今しかないと言っても良い。一か月とかなら他の国の王でも国をあける事はあるだろうが、流石に半年というのは無理だ。だから俺も国王としての仕事が本格化する前の今ならギリギリ出来ると思ってこれを計画した。


「大まかにはこんな感じかな。これをサラに承諾して貰いたいんだ」


「言いたいことは分かりましたし、必要な事だとも思います。それに私も一国の王妃ですから、王であるあなたがやることは応援したいですが、本当に一人で大丈夫なんですか?」


 サラが心配してるのは俺が一人で行くことなんだな。でもこれは変えられない。何故なら、一人じゃないと出来ない事が多いからだ。俺が転移者だとバレるようなことが色々ある可能性が高い。


 未知の世界では何があるか分からないから、魔法にしても此処では使っていない魔法を使う事もあるだろうし、鑑定EXを使えばどうしてそんな事が分かると疑われるかもしれない。インベントリで魔物の解体も自由に出来ないと、調査が進まない。


 兎に角一人なら何でも出来るという事です。


「サラが一番良く知っているじゃない。俺が強い事は。それに他の人を連れて行ったら、その人達を守らなければいけなくなるかもしれない。そうなる事の方が負担なんだよ」


「足手まといという事ですね」


「厳しい言い方をすればそういう事になるね」


 これまで俺がずっと一人だったら、もう俺のレベルは100を超えているかも知れない。レベルに100以上があればだけど? それもあって今回は一人でどうしても行きたい。自分のレベル上げも今回の遠征の目的の一つでもあるからね。


 自分のレベルを区切りの良い所まで上げて置けば、その後は他の人、特にサラのレベル上げに力を入れられる。一緒に長生きしたいじゃん!


「分かりました。あなたの好きなようにしてください。私がしっかりこの国をあなたが帰るまで支えます」


「ごめんね。寂しい思いをさせるけどこういう事は今回だけだから」


「本当に約束ですよ。次は一緒ですからね」


「あぁ約束する」


「言い忘れていたけど、この事は他国の人には内緒だよ。この国の人にも極一部だけしか知らせないから」


「分かりました。それなら誰が知っているかだけは教えて下さいね。話を合せられないと困ります」


 そりゃそうだ。だけど城の人間と、ロベルト達は当然として、賢者やお義父さん達には知らせるから、サラの身近な人は全部知っているからそういう事はほぼ無いと思う。強いて言うなら、カルロスやビクター辺りがちょくちょく来そうだからバレる可能性はあるね。まぁこの二人やエスペランス国王とグーテル国王には知られても問題ないと思うから、知らせないだけに留めておく。


 サラの了解も取れたから、それからは事前に話しておく人達に会いに行き説明して回った。当然のように行く先々で色々言われたが、最終的には了解してくれたので、俺は遠征の準備に入った。


 俺が遠征の準備に入って2日後、各国の国王と代表は帰国して行った。殆どの国王は上機嫌で今後の事につて話した後帰って行ったが、唯一共和国の代表だけは意気消沈して帰って行った。


 その気持ちは良く分かる。国に帰ってからが物凄く大変だからね。フランクに押し付けた、賢者候補も選定しなくてはいけないが、それ自体がまた権力争いになりかねないから憂鬱だろう。それに、世界の仕組みについて説明もしなくてはいけないがそれを果たして共和国の人が信じるかという事もある。


 まぁ一番は俺がフリージア王国の事で相当脅したからだと思うけどね……。


 国王達が帰った後、本格的に遠征の準備をしながらも、万が一に対応できるように色々とそちらの備えも並行してやっていった。


 万が一というのは主に神聖国と帝国のことだ。地理的に直接攻撃などはしてこないだろうが、暗部の人間は派遣して来そうだから、先ず入国を制限することにした。


 ミル村とフリージア王国の国境に、以前作った峡谷のような溝を復活させて、橋を建設してそこに検問所を設けた。ビーツ王国側には壁があるので、そこにも検問所を設けて、他国からの入国を厳しく制限した。制限というより入国を禁止したんだけどね。同盟国と共和国の極一部の人以外は一切入国をさせないと……。


「陛下、本当に行くのですね」


「あぁこれだけはやって置きたい事だからな。どんなことが起きても大丈夫なようにはしてあるし、俺がいない間はサラが国を仕切ってくれるし、賢者たちも協力してくれる。最悪はエスペランス国王やグーテル王国に助けを求めれば必ず助けてくれる。だから心配せず、帰りを待っていてくれ。帰ったら本格的に動けるようにお前たちが出来る事だけはやって置いてくれよ。それがお前たちの仕事だ。頼んだよ」


「分かりました。必ずや命じられたことを達成して、お帰りをお待ちします」



 この分だと出発は少し遅れそうだな? ロベルトにはこう言ったがまだまだ色々やることがある。




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