第342話 旅立ち
やることが多過ぎるよ。仕方がない事だけど、あまりにも忙しい。このままだと遠征に出る前に過労で倒れそうだ。まぁそれは冗談だけどね……。ポーションや回復魔法がある世界にそんなものは無縁だ。特にポーションを自分で作れる俺にとってはね。
「あなた大丈夫ですか? 近頃殆んど寝てないんじゃないですか? 昼間は法律作りや、賢者の方々と色々実験をされているようですし、夜は夜で飛行船を作っていますから寝る時間がないでしょう」
「大丈夫だよ。心配かけてごめんね。でも今頑張らないと出発がどんどん遅れるから、しょうがないんだよ」
サラの出産までには戻るというのが最大の目標だから、それまでに別大陸の調査がある程度出来るようにするには飛行船の改良が必要なんだ。だからといって王としての務めも果たさないといけないし、賢者たちに旅立つ前の宿題も出しておきたい。
俺が戻って来た時に直ぐ次の行動に移れるようにしたいから準備は必要なんだ。
忙しい原因の一つ、飛行船の改良は何と言っても飛行速度を上げる事なんだけど、そうなると今ついているプロペラだけでは足りないから、別の推進装置を考えるかプロペラを増やすかなんだけど、模型で実験した結果、新しい推進装置を付ける事にしました。
魔石を利用した風魔法を後方に噴き出す推進装置です。本当は出力を変えられるようにしたかったのですが、この短期間では無理でした。ですから夜のうちに魔石の魔力を補充して、昼間のみこの推進装置で飛行して、夜はプロペラによる飛行にすることにしました。今回の遠征は一人ですから夜の操縦が出来ませんから、その間はゆっくり飛行するようにして、昼夜を問わず飛行する事に……。
自動操縦なんてまだ作れませんから、今回は海の上の飛行のみこの方法で行くことにしました。でも今回の事で、自動操縦の目途は立ちましたから、帰還後には是非作りたいと思っています。魔磁気コンパスと付与魔法で何とか成りそうなんですよね。ただ付与魔法の方がかなり正確にイメージ出来ないと出来なさそうなので、付与魔法を分割すれば出来るんじゃないかという所までは突き止めましたから、帰還後に実験を繰り貸して完成させたいです。
推進装置以外にも速度重視なので、飛行船の形状も改良を加えています。まあ時間もないので大した改良ではないのですが、気球の先端部を今よりもう少し鋭利にして風の抵抗を少なくしました。
飛行船についてはこんな感じですが、昼間やっている法律作りなどはまだ草案の段階なので、帰還までにある程度形が出来れば良いから、それ程根を詰めてやってはいないのですが、賢者との打ち合わせや、賢者との実験が最も忙しい。
賢者はそれぞれやっていることが違うので、俺に質問をしてくることも違うし、その内容について口頭で答えられるものは良いけど、そうじゃないものは一緒に実験をして回答を導き出させているから、時間が掛かっています。
日頃ならこんな事も無いのですが、俺が暫くいなくなると言ってしまったから、この状態に成ってしまった。もう殆ど独り立ちしているんだから、俺に聞く事なんて無い筈なんだけど、こういう時は不安に成るんでしょうね。聞ける時に聞いておこうと……。
まぁその中には俺の課題も入っているから、強くは言えないんですよね。自分達でやれと言い切っても良いんですが、ニックに出している課題はサラにも関係するから、手伝うしかない。一人そう言う人を作れば、他の人の手伝いは出来ませんとは言い辛くなります。
そのニックに出している課題は女性の医師を育てる事です。勿論一からでは無いですよ。もう既に医師国家試験に合格している人です。ではなぜ育てるというのかは、女性特有の病気やお産などに詳しい医師を育てなさいという課題なのです。前世でいう所の産婦人科医を育てろという事ですね。
この世界ではどうしても文化的に女性のそういう部分には男女に関係なく触れたがらないので、女性の医師が誕生した事は大きな影響を及ぼしたんですが、それでも女性特有の病気などにはまだまだ抵抗感があり、女性がそういう病気で医者に掛かりたがらない。だからそういう病気に詳しい女性医師が必要なのです。
こんな日々を二週間程過ごして、とうとう今日が出発の日です。
「あなた本当に大丈夫ですか? 後ニ三日休養してから出発した方が良いんじゃない?」
「大丈夫だよ、精神的に疲れてはいるけど、体の方は大丈夫だから。それに旅に出れば逆に暫くはゆっくり出来るから」
「まぁ~~それじゃ私がいるのが煩わしいみたいじゃないですか?」
「そ! そんな事はないよ。サラと会えないのが本当に寂しいんだから」
「冗談ですよ。そこまで慌てなくても……」
「そんな冗談はやめてよね。精神的に堪えるから」
サラは最近こういう本気か冗談か分からないようなことを平気で言うから、心臓に悪い。
「ユウマ陛下、少しは理解しましたか、嫁を貰うとそういう事にも成れないといけないんですよ」
「フランク、君もそういう所は直した方が良いよ。ほらシャーロットの顔が変わったよ」
フランクの冷やかしというか嫌味のような忠告に、余計な口は利かない方が身のためだとお返しをしてやった。ご愁傷様、帰ってからシャーロットにこってり絞られろ。
その後も入れ替わり立ち代わり、色々声を掛けてきたが、
「心配しなくても必ず予定の期間で帰ってくるから。それに土産話も沢山持ち帰るから、楽しみにしておいてくれ」
「あなた、ユートピアの事は私達がしっかりやって置きますから、安心して行って来て下さい。でも無理は絶対に駄目ですよ」
「あぁ分かっている。サラと生まれてくる子供が待っているんだ無理なんかしないよ」
皆との出発の挨拶も終わったので、新型の飛行船に乗り込みユートピアを旅立った。向かうは未知の大陸、アト大陸。
インカ大陸
アト大陸
ムーア大陸
大陸調査を計画した時から初めに向かうのは、アト大陸と決めていた。何故かと言うと、インカ大陸に向かうには俺達のいる大陸、ムーア大陸を縦断しなくてはいけないからです。勿論、海上を行くという方法もありますが、進路を何度か変更しなくてはいけないので、変更をしなくて良いアト大陸に向かう方が楽なのです。
「アト大陸まで、約20日。旧型の飛行船なら一か月以上掛かるから、これは大分早いな」
いや~~、出発から10日も経てば転移当初のように独り言が増えてくる。特にここ最近は周りに人がいないことが無かったから、これだけ人と会話しなくなると、自然に出るもんだね。
「後10日でアト大陸か……。洒落じゃないからな。なんて一人突込みも情けないな。ましてオヤジギャグみたいで尚更だ」
何だろうこの異常な独り言……。俺って一人には慣れていると思っていたけど、こんなにも精神を病んでるような独り言を言うぐらい寂しがりやなのか?
まぁ嫁も貰ったし、子供もできる。ましてや今は国王にまでなっているから、余計に寂しいのかな? これまで本当に多くの人と関りを持ってきたからな……。人間関係に疲れたと神様に願って、わざわざ魔境に転移して貰ったのに、結局は全て無に成ってしまったが、今思えばこれで良かったと思う。
「人間は決して一人では生きていけないんだから……」
こんな哲学じみた独り言何度も繰り返しながら、更に9日経った時、遥か彼方に陸らしきものが見えて来た。
「あれがアト大陸か? まぁそれしかないんだが」
「ちょっと待て、これはかなり拙いぞ。これだけ離れているのに、魔力濃度計が凄い事に成っている」
ん~~、これは本当に近づいて大丈夫か……?
「推進装置の魔石の魔力が何もしていないのに補充されて行っているぞ!」
確かに徐々に魔力濃度が上がっていたのは確かだが、この辺りからの急な上がり方は異常だ。ん~~~、最強種はドラゴンってドラゴン違いじゃないの? ムーア大陸にドラゴンがいるかは確認出来ていないけど、もしいたとしても最弱種、このアト大陸にいるドラゴンが最強種なのかも……。
いや、まだインカ大陸があるからまだ決めつけるのは早いか?
マジか~~、この魔力濃度だと魔物のレベルが見当もつかない。下手したらレベル100以上がいるかも……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます