第343話 帰還

「やっと帰り着くな。本当に物凄い旅だったから、これが言えるこの独り言は俺にとって生きている証だ。死んでいたらこの独り言も言えないからな」


 俺がユートピアを旅立ってから、今日で丁度五か月に成るが、今回の旅は中々にハードだった。旅を始めて最初の目的地であるアト大陸に近づいた時点でその兆候はあったのだが、実際に大陸に上陸してからは、その兆候は正しく、猛烈に俺を襲ってきた。


 具体的に言えば、先ず、魔力濃度に比例するように、魔物のレベルが高く最低レベルがなんと20、これスライムのレベルだからね。俺達の大陸ムーア大陸では魔境でも3程度だったのだから、この異常さが良く分かるだろう。


 このレベルに気付いた時、俺はこの旅をどうするか真剣に考えたよ。このまま進むべきかどうかをね。まぁ結果としては進んだんだけど、その判断は正解でもあり間違いでもあった。


 先ず正解の面は俺のレベルが無茶苦茶上がったという事。そして間違いだった事は、ここに人は住めないし、現状住んでいない。このような曖昧な答えになった理由としては、魔物がどんなにレベルが高くても、俺の持つ魔法で討伐は出来るという事がある。だが討伐は出来るし、レベルも上がるんだが、頻度というか魔物が多過ぎて休む暇がない。俺は飛行船があるから地上の魔物に対してはアドバンテージがあるが、もし飛行船がなければ、俺だって魔力切れで死んでいたと思う。


 そして最大の間違いは、ドラゴンの存在だった。それも一目遠くから見ただけで、絶対に適わないと思える相手だったからです。


「いや~~あれは次元が違った。まさに神の眷属じゃないかと思えたね。俗に言う神獣と言えるぐらいに、高貴で気高さを纏っているような存在だった」


 そういう存在で、好戦的でもないから襲ってきたりしないのだが、逆に俺も近づけなかった。まぁその結果アト大陸から離れる切っ掛けにもなったんだけどね。多分アト大陸はこの星の魔力の根源とも言えるんではないかな? だからもしムーア大陸から魔力スポットが無くなっても魔力は消えないと思う。それぐらいの魔力をアト大陸は放出している。


 切っ掛けを貰えば、当然次の目的地、インカ大陸に向かうしかなかったのだが、そこまでにも色々あったんです。先ず、アト大陸とインカ大陸の間には島が結構存在し、それも大小合わせれば、100を優に超えていた。


 そしてその位置が面白く、元はアト大陸とインカ大陸は陸続きで一つの大陸であったのではと想像できる配置だったのです。そしてアト大陸から離れれば離れる程魔力濃度も下がり、魔物のレベルも下がって行った。


 そうなると期待するのがムーア大陸のように人が住める大陸なんじゃないかという事。まぁその期待はほぼ当たっていたのだが、現状ではそれ程多くの人は住めない。何故なら、大陸全体が魔境だからです。


 現状のムーア大陸の人では根本的にレベルが足りないから、住めるのはベテラン冒険者並みのレベル10~15ぐらいある人が最低ライン。言い換えればこのレベル10~15ぐらいの人がインカ大陸ではレベル1と変わらないという事。


 その結果異種族で移住できるのはこのレベルが達している人だけになる。多分多くはエルフになるんじゃないかと思う。寿命が長い分レベルもそれなりに高い人が多いからね。少し足りないぐらいなら、パワーレベリングしてやれば良いだけだ。


 ただそうなるとエルフはもっと寿命が延びることに成る。高魔力帯に高レベルとくれば寿命が1000年なんていう人も出てくるかも知れない。


 こうなると予測できるから、逆にエルフの移住を躊躇する部分でもあるんだよ。矛盾しているけどね……。


 ちなみに今回の遠征で俺のステータスはとんでもない事になっている。


 現在の俺のステータス

 名前 ユウマ・コンドール・ユートピア  

 種族 人族

 状態 良好

 職業 大賢者 国王

 レベル 118

 HP 7000/7000

 MP 10540/10540  

 スキル 言語理解EX 鑑定EX インベントリEX

    気配遮断 気配感知 魔力感知 熱耐性 付与術 木工 陶器 錬成術 

    剣術 格闘術 

        

 魔法  風魔法 水魔法 闇魔法、火魔法 土魔法 光魔法 氷魔法 無魔法

     

 固有スキル 創造魔法

 称号  創造神の加護



 もうねここまで上がると誰からも見られる恐れが無いから、ステータスの偽装は止めました。レベルが100以上もある事が分かったし、100を超えると少しですがステータスにボーナスがつくことも分かった。


 だが、このステータスは非常に拙い。何故なら、サラとの寿命差がまた広がってしまったからだ。ということで、サラの産後に再度遠征に行くことが自動的に決まってしまったのです。ましてサラの場合は俺と違って経験値の入り方が普通だから、俺並みのレベルにしようとすれば俺の100倍は魔物を倒さないといけないから、遠征の期間を長くするか、そこに住むしかない。


 そこで俺は今回の遠征で大事な決断をした。国王になったばかりだが、俺達家族は早いうちに王族で無くなる方が良いと決めたのだ。そして本当に親密な関係がある人達だけで、別大陸に集落を作って隠居生活をするとね……。


 言ってみれば寿命が延び過ぎた賢者の村を作り皆で自給自足の生活をするという事。そしてまた世界に賢者が生まれれば勧誘して集落に招き血が濃くならないようにする。それでも駄目そうなら、この星を出て行く事も視野に入れている。


 まぁそうするまでにはまだ何十年かは掛かるし、それまでは国王でいるつもりだ。


「あれ? 飛行船が一機も無いな。皆出掛けているのかな?」


 今回の遠征にクルンバやアクイラは連れて行っていないので、途中で連絡する事も、帰還を知らせる事も出来なかったので、人知れず帰還することに成った。


 出迎えが無いのは寂しいが、それもこの状況では仕方がないので諦めていたら、遠くから何か叫びながら、山を掛け上がってくる者がいた。


「はぁ、はぁ、へ、陛下お帰りなさいませ、ご無事の帰還恐悦至極です」


「おう! ロベルト、今戻ったぞ。変わりないか?」


「はい、概ね問題なく生活出来ております」


「そうか。それなら良い。ではサラも元気なんだな」


「はい、王妃様はお元気に国民や私共を導いて下さっています」


 俺が留守の間に何もなかったのならそれで良い。ましてサラが元気なら。


「しかし、ロベルトはなんで俺が帰ってくるのが分かった?」


「それはもうそろそろご帰還するかもしれないと思った日から、兵士に毎日城の塔から双眼鏡で監視させておりました」


 それでこんなに早くここに来れたのか。本当に律義な男だ。見張りをさせられた兵士は可哀そうだがな……。


「ところでロベルト、飛行船が一機も無いようだが皆は出掛けているのか?」


「はい、賢者の皆様はそれぞれ出掛けておられます。フランク様はラロックの魔境にご家族で行かれています。ミランダ様方はパラダイス島に皆さんで行かれています」


「それでも一機余る筈だが、残りの一機は?」


 俺の乗って行った飛行船は新規に作った物だから従来の飛行船は三機あるからもう一機足りない。


「それは……、王妃様の御父上様が奥様とエスペランス国王夫妻、グーテル国王夫妻、他にも何人かと魔境に行かれています」


 はぁ~~~、早速寿命を延ばすためにレベル上げをしに来たか。まぁ国王ならそうして当たり前か。俺もそれは予測してたからな。レベルと寿命の話をすれば誰でもそうしたいと思うのが当然で、国王ならその特権もある。そうなると他の人というのも想像がつく、カルロス夫妻、ビクター夫妻、エリーだろうな。


 サラの事を頼んで行ったのに、これでは頼んだ意味がない。もしかしたらエリーは残っているかも知れないが、サラなら行かせている可能性が高い。


「陛下、それで遠征の方はどうでした?」


「あぁその件については皆が揃った時に話すから少し待っていてくれ。丁度良いタイミングでエスペランス国王達も来てるなら、一緒に話すから、お義父さん達に連絡を取って、皆でユートピアに帰るように伝えてくれ」


「はい、畏まりました」


 異種族の移住の件もあるから、国王達にも聞いて貰った方が良いだろうと思い、ロベルトに連絡を入れるよう命令して、俺はサラの待つ城に戻ることにした。


 久しぶりにサラに会えると思うと足取りも軽く、わざわざ迎えに来てくれたロベルトを置き去りにして、一気に山を下ってしまった。














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