第344話 再会と出産

 五か月か、俺にとっては長いようで短かったが、待つ側のサラにしたら長いよな。さて、どんな迎え方をしてくれるのか? 感極まっての涙のお迎えか、抱きついて来てのキスのお迎えか、はたまた一番あり得そうなのが、極普通のお迎え……。


 サラは怒っている時のお迎えは仁王立ちで物凄いのだが、普通の時は本当にそっけないというか、極普通の迎え方をする。「お帰りなさい」の一言だけという事が多いのだ。寂しい事だが……。


「お帰りなさい、あなた。怪我はないようですね」


「あぁただいま。サラも元気そうだね」


 ほらね、普通のお迎え……。まぁ怪我の有無を聞いただけ良しとするか。と思っていたら、急にサラが俺の方に近寄って来て「おかえり」と言いながら、頬にキスをし抱きついてきた。


『うひょー』こんな事があって良いのか!? これは今だけ? 身重のサラだからなのか? まぁどちらにしても最高の気分だ! 帰って来たと改めて実感できる至福の時だった。サラを俺も抱きしめて改めて「ただいま」と言った……。


「サラ、体の方は大丈夫? もうそろそろだよね?」


「えぇ、もうそろそろですよ。お腹の子も早く出たがっているようで、良くお腹をけります」


「一人で大丈夫だったの? お義父さん達は出掛けているみたいだけど?」


「あぁロベルトに聞いたのですね。大丈夫ですよ。エリーは残ると聞きませんでしたが、無理やり行かせました。子供の成人から結婚までは一緒に居たいでしょと言って納得させました」


 いやいや、エリーの今のレベルなら十分そこまでは生きられますよ。逆にこれ以上上げたら、確実にその下の世代のひ孫の誕生から成人ぐらいまで見られます。エリーの事はロベルトに聞いていなかったが、俺の予想は当たっていたようだ。


「それで遠征の方はどうでしたの?」


「それなんだが……」


「どうしたのですか?」


 俺はどう伝えたら良いのか迷ってしまった。正直に話すと怒られそうな気もするし、伝えないと大陸の事が理解出来ない所もあるから、どうするべきか躊躇してしまった。


「どうせまた無茶をしたんでしょ。だから話し辛い。そうですよね?」


 何時ものようにサラに俺の心が読まれた。心というか顔の表情を読んでいるんだろうが、それでも的確に読んでくるんだよね……。参ったな……。ここまで言われたら、隠す方が余計に怒られると思い、正直に話すことを俺は選んだ……、そして……、怒られた。


「あなたに言ってもどうせまた同じことをするでしょうが、せめて心のどこかにこれからは家族の事を思う気持ちを入れて置いて下さい」


「サラ、いくら何でも俺だってそれぐらいは考えたよ。でも国王として移住先も探さないといけないと思ったからそうしただけで……」


「嘘は駄目ですよ。あなたがそれだけの為だけに動いたとは思えません。好奇心があったに違いありません」


 そう言われたら、無かったとは言い切れないが、国王としての義務感もあったのは確かだ。まぁどちらが先かではないんだから、どちらもあれば俺の負けだな……。


「しかし、それだと今すぐの移住は無理そうですね。どうするおつもりですか?」


「それなんだが、ラロックの魔境の森の俺の家付近を開拓して、一時的に解放しようかと思っている」


「それでも12万人ですよ。無理でしょう」


 そうなんだよな……12万人は流石に厳しい。それにいきなり俺の家付近というのもちょっと無理かもしれない。いっその事俺の家付近まで全部開拓するか? それならいずれその人達が移住しても、跡地は他の人が使えるからビクターが喜ぶだろう。領地が増えるし、レベルも上げやすくなるからな。


「12万人全部は無理でも、俺の家までの経路上を開拓すれば最低でも三分の一は住めるから、その人達のレベルが上がった段階で移住させれば、何年かすれば全員の移住が出来るんじゃないかな? 現状住むところはあるんだから」


「分割するという事ですね。まぁそれなら何とかなるでしょう。でもそれならその事を異種族の皆さんに伝えないといけませんね」


「それはそうなんだが、これを伝えると人種の中にもそこに住みたいという人が出て来そうで、簡単では無いような気がしている」


「まぁそうなるでしょうね。それなら異種族を三分の二、人種を三分の一にして抽選にすれば良いんじゃないですか?」


「それで良いか。どちらにしてもレベルと寿命の話は世界中に広まるからね。そうしたら殆どの人がレベル上げに興味を持つだろうから、そこをこれからの拠点にすれば良いな」


 最終的にはそこもエスペランス国王に譲渡すれば後は丸投げに出来るから、そこまで手伝えば良いだろう。俺達も最終的には移住すると決めているからな。これはまだ内緒だけど……。


 サラとの再会と遠征の報告も何とか済んだけど、実はこの後が更に大変だった。


「あなた、出掛けている皆さんが戻るまではゆっくり出来るでしょうから体を休めて下さいね」


「そうだね、ゆっくりさせてもらうよ。皆が帰って来たらやることが一杯あるから」


 そう言って、サラとソファーでイチャラブをしようとしたら、急にサラがお腹を押さえて苦しみだした。


始まったかも?」


「サラ! 何が始まったの? まさか!」


「そのまさかです! う~~」


 こういう時はどうすれば良いんだっけ? えっと……、陣痛は……、周期があるから直ぐに出産になる事ない。それなら……、あ! そうだ! 先ずはニックに連絡だ!


「お~~い、誰かいないか? 直ぐに医者のニックを呼んで来てくれ! サラが産気づいた~~~」


 こんな偶然あって良いのか俺が帰って来て直ぐに? 俺が無事帰って来たことが引き金になったのか? まぁ今はそんな事はどうでも良い。兎に角お産の準備をしなくては……。


「お~~い、誰かいないか?」


 大きな声で何度も叫んだが、中々誰も来てくれない。城の関係者が俺の帰還で気を利かせたのか、俺達を二人っきりにしてやろうと近くに居なかった。それでも何とか異変に気付いた侍女が、ロベルトに伝え一斉に多くの人がやって来てくれた。


「陛下どうされました?」


「サラが産気づいた! 直ぐにニックを呼んで来てくれ!」


「畏まりました。ただ今すぐに」


 それからはもう俺の出番はない。この世界の女性は身近でお産を何度も経験しているから、テキパキとお産の準備を始めて行った。


 それから暫くすると、ニックが御産婆さんと女性の医師を連れてやって来てくれ、俺は部屋から追い出された。俺も医者の資格は無いけど一応医者と言える立場だから、そこに残ろうとしたが、邪魔だとニックと供に部屋を出されてしまった。


 まぁ前世でもお産は産婆か助産師の仕事、余程危険な状態にならないと医者は関知しない。帝王切開の時は別だが……。


 サラが分娩用に用意されていた部屋に入って、もう彼是かれこれ三時間は経っているが、まだ生まれないようだ。前世の記憶では丸一日掛かるお産もあるという事を聞いたことがある。これを思い出した時に初産は時期が遅れることが多いという事も思い出した。実際には早まるのと半々らしいが……。


 それからまた二時間経過したが、一向に生まれてこない。俺はただサラと子供の無事を祈って、分娩室の部屋の前を右に行ったり左に行ったりを繰り返している。


「ユウマ陛下、少し落ち着いて下さい。何かあれば伝えるように言ってありますから、大丈夫です。普通の分娩だから何も言ってこないんですよ」


 ニックはそう言うが俺は気が気じゃない。俺だってお産がどういう物か前世のドラマとかで見たことあるから知っているが、当事者になるとそんな事関係が無くなる。


 一人の命が生まれてくる。それも我が子だ。それを落ちついて待っている事なんて出来ない。


 これは後で聞いた話だが、初産のお産は陣痛が始まって10~15時間ぐらいが平均だそうだ。だから俺が初めの5時間ぐらいで右往左往していたのは無駄な行為に等しい……。


 陣痛が始まってから何時間経ったか分らないが、夜があけ、城の中に活気が出るころ、一つの命が誕生した。


「オギャー、オギャー……」


 その声が聞こえた後、分娩室のドアが勢いよく開き、


「陛下! おめでとうございます! 可愛い女の子ですよ!」


 俺の………………!


 その場で俺は「お~~~」という雄たけびと同時にこの世界にあるかどうかわからないが、ガッツポーズをしていた……。













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