第345話 エンダー

「サラ、お疲れ様。そしてありがとう」


「何がありがとうなのか分かりませんが、どういたしまして。それにしてもその顔は何です? 笑っているのか泣いているのか分からないようなその顔は?」


「仕方がないじゃないか。嬉しい時にも涙は出るもんなんだから」


 今回のお産は物凄く普通で安産だったらしい。経験豊富な産婆さんがそこまで言うのには理由があって、本来この世界ではお産は結構危険なことが多いそうだ。だから今回のお産が簡単過ぎて拍子抜けしたらしい。


 その話を聞いた時、これもレベルと関係あるのかな? という疑問が湧いたが、口には出さなかった。これもこれからの研究材料になるから、ニックと女性医師には後から伝えるつもりだ。この世界の女性のレベルが低すぎるからお産が危険に成っていることが証明されれば、これも大きな発見で、この世界のお産が大きく変わるかもしれない……?


「あなた、この子の名前はどうします? 何か考えていますか?」


 サラにそう聞かれてドキッとした。何故なら子供の名前は幾つも考えてあるのだが、決めきれていないからです。サラに子供が出来たと分かった時から、思いついた名前はメモして来ているから沢山あるんだ。ただ、その中から選ぶ事が出来ていないのです。


「女の子かそれなら……、エンダーはどうだろうか?」


「エンダー? 何だか強うそうな名前ですね」


「そうかな? 強そうに聞こえるならそれはそれで良いんじゃない」


 実はこれ英語のendearingからとっているんだよね。意味は愛される人。この世界の言葉じゃないけど、俺は愛される人になって欲しいという意味と家族から愛されているという意味を込められている。そこにサラが言うようにこの世界では強うそうなイメージがつくなら、更に良いじゃないか。強くて優しい愛される存在になってくれれば最高だ。


「そうですね。これから世界の変化には強さも必要に成りますから」


「それじゃ、この子の名前はエンダー・コンドール・ユートピアだ」


『エンダー、名前のように強く優しい愛される子に成るんだよ』


 子供の名前も決まり、母子ともに健康であることが確認された段階で、国民に子供が生まれたことを発表した。


 それからは国中が建国祭の時のような大騒ぎになり一時大変だったが、国民が喜んでお祝いしてくれたことに感謝した。しかし、その事が不満な人達もいた。それは出掛けていた賢者や義両親達で発表するのが早過ぎると文句を言っているのだ。彼らの言い分は何故自分達が戻るまで発表を遅らせなかったのかです。そう言われてもこちらに、いつ戻るか分らない人達を待つ義務はない。


 俺から言わせてもらえば臨月に入っているサラを置いて出掛けた自分達が悪い。まぁサラも後押しをしているから強くは言えないが、時期が悪すぎたのは確かだ。


 ここまでは彼らの嫌味を愚痴っているようだが、こんな事は大したことじゃないんだ。もっとも大変なことは今起きている。それはエンダーのステータスの内容なんです。まぁ騒いでいるのは俺だけなんですが……。何故なら、


 エンダーのステータス


 名前 エンダー・コンドール・ユートピア  

 種族 人族

 状態 良好

 職業 王女

 レベル 1

 HP 5/5(100/100)

 MP 5/5(100/100) 

 スキル (言語理解EX) (鑑定EX) (インベントリEX)

       

 魔法  (全属性)

     

 固有スキル (スキル創造)

 称号 (創造神の加護)


 これ見たら何が想像出来ます? もうそれしかないでしょ……。転生者……。これはきっと神様が味を占めたんだと思います。俺という存在をこの世界に送り込んだ事で世界が大きく変わって来ている事が嬉しくて、俺の本当の意味での後継者を送り込んできたという事です。


 ましてそれを裏図ける根拠はスキル創造。これって神が面倒だから人間にスキルを作らせようという事だと思うんですよ。判断は魔法と同じように世界のシステムがするでしょうが、作ることを人間にさせれば、神が思いつかないスキルが生まれやすくなる。


「で、君は言葉を理解してるよねエンダー?」


 生まれたばかりの赤ちゃんにこんな事を言っても返事のしようもないのは分かっているんですが、訊ねずにはいられなかった。


「君のステータスは俺が隠蔽しといたから人から見られることは無いから安心して」


 俺にしては珍しくエンダーが生まれて直ぐに鑑定でステータスを確認したんです。その結果直ぐに隠ぺいしてステータスを普通の赤ちゃんのようにしました。何故鑑定したのか? それは普通に親心から子供の健康状態を知る為だったんです。勿論その時にサラもしましたよ。母子ともに健康と言われてもやはりね、能力を持っているんですから使うでしょ。


「君は転生者だね? あっていたら瞬きを二回して」


 一回だと自然にしたのと見分けがつかないから意識してやった事が分かるように回数を増やしてもらった。


 暫く考えたのか、間が空いたがエンダーは瞬きを二回した。


「まぁステータスを見ればそれしかないんだけどね。ここまで言えば何となく分かると思うけど、俺は転移者、若返っているから転生者でもあるかな? それでもう一つ聞きたいんだけど君は元日本人?」


 今度は間髪入れず瞬きを二回返して来た。


「そうかそれは良かった話が通じやすいだろうからね。それでまず初めに君に言っておかなければいけない事があるんだが、この世界に転生者や転移者は俺と君だけだからね。母親のサラはこの世界の人間だからそれは覚えておいてね」


 瞬き二回。


「それとこれが一番大事な事。君は転生者でも俺とサラの間に生まれたれっきとした子供だという事。これだけは忘れないで。君の前世がどういった物だったかは俺には分からないけど、この世界に生まれた以上俺達は家族だからね」


 瞬き二回。「オギャー、オギャー」


 どうした、お腹がすいたのか? エンダーが泣き出したので話は取りあえずここまでにしてエンダーをサラの所に連れて行った。


 サラもエンダーも同じ部屋にいるんだが、エンダーは侍女たちが世話をしやすいようにサラとは離れた位置のベビーベッドに寝かされている。ベビーベッドも俺の考案だよ。当然フランクが食いついたけど、ユートピアには商業ギルドもないし、まだ法律も出来ていないから、ラロックのグラン商会名義で特許を登録して貰った。


 まぁそれはさておき、サラと同じ部屋にいるのにエンダーと転生者の話が出来たと思うでしょ。それは当然遮音結界を張っていたからです。だからエンダーが泣き出してから、結界を解いてサラの所に連れて行ったんです。


 エンダーが急に泣き出したのは何か理由があるのかな? 赤ちゃんだから感情をコントロールできなかったのかもしれない。良くある話だからね異世界あるあるだし……。


 後にエンダーが話せるようになって聞いた話では、エンダーの前世の親は毒親で虐待されていたそうだ。だから俺から家族だと言われた事で前世の思いが爆発して感情をコントールできずに泣いてしまったらしい。


 虐待と言えば子供だと思うでしょうが、エンダーの場合は成人しても続いていたそうだ。中学を卒業したら直ぐに就職させられて、給料の殆どを親が持って行き、親はその金で遊び惚けていたそうです。特にギャンブルで……。親も一応働いてはいたので、世間からはそんな事をしている親だとは見えなかったみたいで、露見しなかった。


 そしてついに我慢の限界というか、精神が持たなくなって自ら……。




「あなた、エンダーは寝ちゃったわ。母乳も殆ど飲んでいないのに、泣き疲れたのかしら? あなたの顔がそんなに怖かったのかしらね。ずっとエンダーをのぞき込んでいたから」


「そ、そんな事ある訳ないじゃないか! 失礼だな……」


「ごめんなさい、冗談よ」


 まぁ転生したばかりに色々聞かれたら感情もそうだけど、精神的に疲れるよな。これは俺が悪かったな。これから時間は幾らでもあるんだから、ゆっくり話し合っていけば良い……。








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