第346話 始まり
エンダーが生まれてはや六か月。首も座り手足も良く動かすようになった。もう少ししたら、ハイハイをする頃だろう。そんな中、俺はというと家族と離れてラロックの魔境で移住者達のレベル上げや生活支援をしていた。
生活支援と言っても基本的には手に職を付けて貰ったり、インカ大陸に行ってから困らないように、知識や魔法を教えていた。
俺が大陸の調査に出て、五か月、帰還して六か月が経っているから、粗一年で世界情勢も大きく変化した。まぁあまり変わらない国もあるけど、少なくともユートピアの同盟国と共和国ではかなり変わって来ている。
世界の仕組み、レベルと寿命の関係が広まったのが大きな理由だが、それに対して国として動いているのが、同盟国と共和国だけで、神聖国と帝国では特権階級の人のみがその恩恵にあずかろうとしている。
「そろそろユートピアに帰る予定だが、ここはもう任せて大丈夫か?」
「はい、ここまで助けて頂ければ、後は自分達でやれます」
「そうか、それなら後は頼んだぞ。ルッソ」
ルッソはエルフ族と異種族の若手の代表者だ。インカ大陸に移住するなら若い方が良いと思って、異種族の第一陣は若手中心にしてもらった。ルッソは若い割に魔法にも長けていて、少し俺が教えただけで、色んな魔法を覚えた。若いと言っても100歳越えだから俺からしたらおじいちゃんなんだけどね……。
魔境が開拓されて、ラロックもかなり変わったが、勿論ラロック以外の魔境に面している小さな村も大きく変わった。エスペランス国王が国を挙げて、国民のレベル上げに力を入れたので、色んな所でレベル上げの仕事が増え、冒険者も忙しくなり、それに伴って魔物素材も多く納品されるように成り、色んな物の値段が下がった。
素材が安く成ればそれを使う職人たちも多くの物が作れるし、価格も競争で安くなり、国全体の物価が安くなるのは当然の成り行き。そうなるとスキル持ちの習熟度も上がるので、新しい物が作れるように成り、またそれが経済を後押しする。
特にユートピアにいる賢者たちがどんどん世界に新しい物を公開して行くから、それにつられて小さな改良を加えたものなども生まれ、世界が一気に変わって行った。
前世のような大量生産が出来る機械的産業革命までは行っていないが、スキルを持つ人が増え、材料が増えたことで、流れ作業や分業が増えた。一方ダブルスキル持ちもちらほら出て来ているので、ひとりで全てをこなす人もいる。
「どうだい最近は?」
「陛下! みんな元気にしています」
「あ! 王様だ! みんな王様が来てくれたぞ!」
ラロックの孤児たちに帰国する事を伝えに来たら仕事に出ていない子供達が集まって来た。
「みんな元気そうでなによりだ。今日は皆に別れの挨拶に来たんだ。俺も国に帰ることにしたんでね」
「王様帰っちゃうの?」
「しょうがないだろう。赤ちゃんがいるんだぞ」
「そうだね。お父さんと会えないのは、赤ちゃんが可哀そうだね」
親の愛情を受けられずに生きて来た孤児だからこそ、そういう事に敏感なんだろうな。普通の子供ならそういう事を思いつかない。
「ありがとうな。ところでこの間話した、移住の事は皆で話し合ったか?」
「「は~~い! 皆行くって!」」
「無理しなくても良いんだぞ。ここに残りたいものは残って良いんだからな」
俺はラロックの孤児たちも、インカ大陸の移住に連れて行こうと思っている。当然今すぐでは無いが、その意志だけでも聞いておこうと皆で話し合うように言っておいた。
「新しい大陸に行ったら強くなれるんでしょ。それに王様の国の国民にも成れるなら皆行くと言ってるよ」
「そうか、それなら移住するまではここで一杯勉強するんだぞ」
「「は~~い!」」
俺がインカ大陸に作る国は異種族混合の国を作りたいと思っている。当然そうなるとユートピアもそうするつもりだが、やはり新しく作る国の方が一からなので作りやすい。今までも異種族はそれぞれの国に住んでいたが、国を作っていたのは人種だけだ。それを俺は王は人種でもその下で働く議員や役人を全部の種族に平等にチャンスを与えて、一緒に国の運営をしたいと思っている。
今はいないが、異種族の賢者も誕生したら良いと思っているので、これからはそこにも力を入れたい。
「それじゃ皆また来るからそれまで元気でな。今度来る時は娘も連れてくるからその時は一緒に遊んでやってくれ」
「は~~い!」
俺はこう言ったが、それをエンダーが喜ぶかは別だ。だって彼女は成人した精神を持っている転生者だからね。それでも出来るだけ年の近い子達との交流は持つべきだと思うから、俺はそうする。
孤児院の子供達と別れた後もラロックでやることを色々済ませてから、俺はユートピアに戻った。
「ただいまサラ」
「お帰りなさい。ラロックの方は片付いたの?」
「あぁ大体はね。後は彼らに任せても大丈夫なところまではやって来たよ」
「そう、それなら当分はここに居られるのね」
「そのつもりだよ。万が一出掛けることがあっても今度はエンダーも連れて三人で行くから心配しないで」
「ところでそのエンダーは何処にいるの? 見当たらないようだけど」
「エンダーならエリーが散歩に連れって行っているわ」
エリー……、大丈夫か? 流石にエリーでも赤ちゃんにスパルタはしないよな。サラの面倒を見てきたぐらいだから、過激な事をするのは成人した人だけだと思いたい……。
そんな事を思っていると、丁度散歩からエリーとエンダーが帰って来た。が、エンダーが俺を見たとたん、俺の方に来たがるようにエリーの腕の中で暴れ出した。
「どうしたエンダー? そんなにパパに会いたかったのか?」
そう言いながら、エンダーをエリーから受け取るとエンダーは俺に瞬きを物凄い数返して来た。ん? この数は異常だな。ハイやYESなら瞬きは二回と決めているし、嫌やNOなら瞬き三回にしているから、この連続した瞬きは意味が分からん。
これは何かを訴えたいのか……?
「よ~~し、それじゃ今からパパと遊ぼうか?」
小声で、
「何か言いたいんだな。後で少し連れ出してやるからそこでな」
今は結界も張れないので、取りあえずエンダーにはそう伝えて、遊ぶことにした。幾らエンダーが転生者でも俺の娘であることに変わりはないから、可愛い娘と関わるのは嬉しい。
俺がエンダーと遊んでいると、
「あなた、エンダーを少しの間お願い。私は産後の体を慣らすのに少し運動してくるから」
「あぁ分かったよ。でもあまり無理はしないようにね」
サラがエリーと一緒にそう言って部屋を出て行ったので、これはチャンスだと思い、早速、遮音結界を張ってエンダーに話しかけた。
「エンダー、どうした? エリーに何かされたのか?」
瞬き二回
おいおい、エリーはまだ赤ちゃんのエンダーに何をした? 淑女教育はまだ出来ないだろうから、何がある? これは聞き出すのが難しいぞ。エンダーが話せない状態だから、こちらの質問が重要になる……。
「あ! そうだ少し待っていろ」
俺は急いでインベントリから紙と鉛筆を出して、その紙に日本語の五十音を書いた。これなら今のエンダーでも指をさすぐらいは出来るから、筆談に近い事が出来る。
「これを使って言いたいことを伝えて見てくれ」
俺のやりたいことを理解したエンダーはゆっくり寝そべったまま伝えたいことの文字を指さして行った。
「あ・の・ひ・と・は・ば・か・な・の」
エンダーがいきなり最初に指した言葉はこれだった……。これは何かあった事は確かだな。そう思いながらその後もエンダーが指す文字を一文字づつ追いかけて、文章にして行った。
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