第306話 神聖国
魔境から帰って来たら、いきなり騒動が起きてあれよあれよという間に、大きな陰謀が浮上して、現在に至っているが、尋問をしているお義父さんからはまだ報告はない。
それでも事件はあったから一応両国の国王には報告は入れて置いた。こんな状況だから、誰も信用できないから普通なら国王に報告も入れ辛いが、クルンバは個人の魔力を感知するから、他の人に手紙が渡る心配がない。
「サラ、今は何を考えてもどうしようもないから、先ずはやれる事を一つづつ片づけようと思う。先ずは進水式と学校と病院の開校を終わらせて、後は鉱山とグランさんの酒だね」
「そうですね、今はどうしようもないし、ここを何時でも離れられるようにしておいた方が良さそうです」
しかし、本当に困ったな……。神聖国のお陰で余計な仕事が増えたよ。帝国のようにちょっと脅してやるのも良いかな……。
「よし! それじゃ学校と病院の進捗状況を確認しに行きますか!」
学校の方はミランダ達の活躍もあり、スーザンが魔境から戻ったらもう開校できる状態になっているそうだ。生徒も集まっているので入学式は何時でも出来るという事なので、直ぐにやって貰う事にした。
次は病院だが、こちらは現状通常の病院の役割が主だ。医者を育てるという事はやるが、そういう意味での生徒は今現在二人しかいない。元々ここには薬師が少なかったので、その場を離れられないから、ここに来れない。病院が本格的に医者を育てるように成るのは、学校の卒業生が出てからになるか、フリージア王国との同盟が成立後、フリージア王国から薬師を受け入れるように成ってからになる。
「ニックさん病院の方はどんな感じです?」
「今の所生徒は二人だけだし、病人も今はいませんから、もっぱら座学をやっています。ただロベルト代表に頼んで領都や各村から重病患者を連れてこれないか検討して貰っていますから、それまで実習は魔物でやります」
「それでも困りますね。この辺りは異常にゴブリンが少ないですから、実習に適した魔物が少ないですからね」
何処にでもいるゴブリンがこのビーツ王国では他の国に比べて異常に少ない。勿論オークなどもそうだ。これは恐らく山脈が影響しているからだと思う。山脈が魔力スポットからの魔力を遮るから薄くなり、魔物が生息し辛い。
だからここでは近くの森でも小型の魔物しかいないし、それなりの魔物を探すなら山の中腹位まで行かないと見つからない。この国の南部が農業地域でいられたのもそれが理由です。漁業もそれと同じでビーツ王国では大型の魔魚は殆ど現れない。
あ! そうなるとこれは調べてみる価値があるな。それはこの国の平均寿命がどのくらいか調査したら魔力と寿命の関係がより一層正確に証明される。今までは延びる方ばかりだったが、延びない方もこの国なら検証できる。
あまりこの国の人には知りたくない情報かもしれないけどね……。
「まぁ医者を育てるのには苦労しますが、病人や怪我人が少ないというのは良い事なので、今は知識を増やす方を優先してください」
「そうですね。医者が病人や怪我人が増えることを望むなんて本末転倒ですから」
ニックと病院の話をし終えて、次に進水式の打ち合わせと、次の大型船の建造の予定を決めようと造船ドッグに向かっていたら、お義父さんの護衛騎士がやって来て、尋問が終わったから、至急牢まで来て欲しいという伝言を持ってきた。
それは今後の方針に大きく影響する事なので、ドッグ行きは取りやめ急いで牢に向かうことにした。
「おう来たかユウマ君、早かったな」
「移動中でしたし、近くに居ましたから。それにこれからの事を考えればこの事は最優先です。で、どうでした? やはりあの国ですか?」
「完結に言えばユウマ君の思う通り、神聖国じゃ」
これまでも色々と難癖をつけてきた国だったが、とうとう実力行使に出て来たか。それでも直接自分の手を汚さないという姑息さはあの国らしい……。
「裏で手を引いていたのは分かりますし、この貴族たちも宗教と血縁関係で繋がっていたのは予想できるんですが、神聖国の思惑がいまいち分かりません」
「流石はユウマ君だな君の予想通りで間違いない。こいつらは親類だし教会とのつながりが深い。君も予想出来ない神聖国の思惑は複雑怪奇、どう考えたらこんな事を思いつくのか? というものじゃったよ」
その後その複雑怪奇な計画を聞かせて貰ったが、正にその言葉の通りで意味が分からなかった。だってこの貴族たちに此処にある物や島の物を手に入れさせてそれをネタにエスペランスに圧力を掛けるというものだったんです。勿論それには飛行船、帆船、島、ここユートピアが対象です。
それにそんな大それた計画がこの人数で出来ると思ったのも無謀だし、賢者にグーテル王国の王族がいる事すら知らなかったのには呆れました。
今回の行為はこちらが問題にすれば宣戦布告とも取れる行為です。勿論第一はユートピアに対してですが……。外交上ユートピアは他の大陸の国の領地という事に成っていますから当然ユートピアに対する宣戦布告なんですが、裏ではエスペランスとグーテルも絡んだ場所という事にしてもらったから、最悪三つの国に対する宣戦布告に成ります。
しかし、根本が間違っている。俺の持ち物に手を出しても何一つエスペランスとグーテルに圧力何て掛けられないから、根本的に計画自体が成り立たないんだけど、それが成り立つと思う思考が理解不能。
「お義父さん、計画自体は意味不明でどうやっても理解出来ませんが、一つ気に成るのが、もし計画が成功したとしても、こいつらの居場所はもうそれぞれの国には無いですよね? 国を裏切ったんですから。それなのにこの計画に乗ったというのが分かりません?」
これが本当に神聖国からの宣戦布告なら分かるんだが、あの国の戦力でエスペランスとグーテルを落とせるとは思えないから、残るは亡命するしかないけど、そのつもりだったのかな? 領地持ちの貴族じゃないならそれも出来るか……。
「そうだな。グーテルの方の貴族は小さいが領地持ちだから、亡命はし難いが、寄り親に領地を返せば可能だから、実行犯だけは逃亡できる。ただ主犯格のヤーキン侯爵は領地も大きいから逃げようがないから、そこは気に掛かるな」
「それってもしかして内戦ですかね? 神聖国が外から圧力を掛けて内部で内戦を起こせば、神聖国は何もせずに傀儡国を手に入れることが出来る。そう考えたのでは?」
これなら納得できる。今回の事は内部で内戦を起こさせる切っ掛け作りと外部からの支援目的と思えば、この無謀な作戦にも筋道が出来る……。
「ユウマ君の予測が当たっていればグーテルのみならず、エスペランスにも裏切り者がいることに成るな。それもわりと高位の貴族に……」
「これは至急両国王に至急報告しないといけませんね。ここの情報はまだ主犯や神聖国には伝わっていないでしょうから、潰すなら今しかない」
内戦を起こされる前に、その元凶をどうにかしないといけないが、エスペランスの役人は領地もないから寄り親がいないので、誰が主犯か分からない。
「そう言えばエスペランスの役人の主犯格は分かっているのですか?」
「分かっておるぞ。エスペランス南部のロヤン辺境伯じゃ」
え! 南部……? これってどういう事? まさか共和国まで関係してるの?
「ユウマ君が心配してることは無いぞ。ロヤン辺境伯が教会と繋がりが深いだけじゃ」
また、俺の心が読まれた。サラの一族は本当にエスパーじゃないかと思える程人の表情や態度で心を読む能力に長けている……。怖い……。
「そこまで分かっているなら直ぐに対処できますね」
「いやそうでもない。侯爵は武力を持っていないが、辺境伯は違うからな。それに侯爵の方もグーテルの辺境伯と繋がっていないとも言い切れん。だから慎重にやらねば内戦が本当に起こるかもしれん」
この事を国王に知らせても直ぐに解決にはならんという事だな。それの手伝いが出来るとしたらここの情報を絶対に漏らさない事だ。計画が失敗したと知られなければ、内戦までの時間が稼げる。
こうなったら、冗談で済ましていた、神聖国を脅すのも真剣に考える必要が出て来たかも……
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