第305話 どうしてこうなった?

 ミランダ達との打ち合わせ中にマーサからかなり不穏な手紙が届いたことで、俺は何か起きそうという事で、お義父さんに前もって報告に行くことにした。


 マーサで駄目ならお義父さんでも無理かもしれないが、一応この世界は男性社会だから、王女のマーサよりは元でも公爵だったお義父さんの方が、対処できるかもしれない。


「お義父さんこういう事なんですが、どうしたんでしょうね?」


「あぁそれは多分、島に残りたいと言った連中がいたんじゃないか」


「でもそれは行く前から言っていましたよ。もしかしたら期間の延長はあるかもと」


「いや、期間の延長じゃなく、住むという意味だと思うぞ」


 何言ってるのかな? 住む? あの島は一応俺の島だぞ。これはエスペランスの国王も認めている事だ。だからこそグランがユートピアの国王に成れとまで言ったんだから……。


「あの島に残って何がしたいんでしょうか?」


「それはわしにも分からんな。わしは島に行ったことが無いからな」


 あぁそうだった。お義父さんは島にある物は知っていても実際には行っていないんだったな。これはやはりマーサ達が帰ってこないとどうしようもないか? 取りあえずお義父さんには話は通したから、何かあれば協力してくれるだろう。


 その日の夕方マーサ達は帰って来た。この時間に着くという事は出発直前か、出発後にクルンバで連絡してきたことに成る。


「いったいどうしたんですか? マーサさん」


「それが……」


 マーサの話しを要約すると、お義父さんの言っていたことが大体当たっていた。研究者みたいな人は少ない筈なんだがどうして、島に残りたいと思ったんだろう? まぁそれだけじゃなく護衛について行った騎士もダンジョンが面白すぎて残りたいと言ったんだけどね。


「マーサさん、それでもおかしいですね。研究者みたいな人は殆どいなかったと思うんですが」


「そうなんですが、残りたいと言ったのが貴族の役人だったんですよ。それも何を勘違いしたのか、島は自国の物だと言い出したんです」


 それって相当なバカだな。島を手に入れようとあの島に行く手段がないだろうに。まさか飛行船も自分達の物だと思ってるのか? こういうバカは今までもいたけどこれはあまりにも酷いな。良くこれで視察団に入れたものだ……。


「その役人ってどちらの国ですか?」


「それが二人いて、両方の国に一人づつなんです」


 これは何かおかしいな? その二人繋がっている可能性が高いな。こんなに都合よく別々の国の役人が同じような事言うなんて普通あり得ない。ましてエスペランスならまだ理解できるがグーテルは小国で、そんな事言える立場ではない。


 ん~~なんかきな臭いな。そいつらだけの発案じゃないような気がする……。


「それで、そいつらは今どうしています?」


「あの連中は、縛り上げて騎士に監視させています」


 それで本当に大丈夫かな? 騎士はダンジョンが面白いから残りたいと言ったらしいが、どうもそれだけじゃない気がするな。あまりに全てが揃い過ぎている、全員じゃないにしても騎士にも仲間がいそうでならない。


「騎士は全員がそう言ったのですか?」


「いいえ、約半数ですかね」


「それでその貴族を拘束したのは騎士ですか?」


「いいえ、それも私とロベルトです」


 わぁ~~それは完全に駄目だな。下手すると今頃その貴族たちは解放されているかも? それにその後の行動も読めるな……。多分あそこだ!


「取り敢えず、その拘束されている貴族に会いに行きましょう。もういないかもしれないけど。それとロベルトさんは直ぐにこの事をお義父さんに伝えてきてください。そして騎士と一緒に船のドックに来るように言ってください」


 ロベルトと別れた後マーサと二人で向かった先には、思った通り貴族の役人はもうその場にはいなかった。だが俺にはそいつらが行くのは帆船の建造ドックだという確信があったので、直ぐに向かった。


 そしてその場所で見たものは、これも予想通り、叩きのめされた貴族と騎士達だった。


 貴族たちがいくら頑張っても無理なことは確定してるのに、どうしてこんな無謀なことしたのかね。今船の事に関係してるのはミランダ達だよ。ミランダ達のレベルを知らないからこんな事思いついたんだろうが、本当にバカなんだろうな……。


「ユウマさん、この人達が急に来て船を寄越せなんて言うから、ちょっと懲らしめましたけど良いですよね」


「そこは大丈夫ですよ、マーサさんも了解してるし、直にお義父さんも来ますから」


 貴族はさっき聞いたから分かっていたが、この騎士の配分から見ても完全に何かで繋がっているな。エスペランスとグーテルの騎士が半々いるからね。


 これは二つの国というより、何処か第三国が絡んでいるんじゃないだろうか? そうなればここの秘密はもうバレていることに成るけど、何処から漏れた? こいつらは貴族でも本当に下っ端だから、視察に来る時に初めてここの事を知る立場だ。それなのにこんなに用意周到に騎士まで潜り込ませることが出来るのは高位貴族しかいない。


 そうなると一番に怪しいのはグーテルの高位貴族。エスペランスの高位貴族は結婚式にも来ていたし、忠誠心も高いから国王には逆らわない。それに引き換えグーテルは小国でエスペランスとの繋がりで国を維持してる国だから、中には隣の神聖国と繋がりが深い貴族もいる。これは以前グーテルの事をサラに聞いた時に教えて貰ったものだ。


「はあ、はあ、どうしたんだい、急に呼び出すなんてユウマ君!」


「それが……、このありさまでして」


「大体の話は聞いたけど、まさかここまでするとは……」


「これだけ用意周到にやって来たという事は、こいつらが首謀者じゃないと思うんですよね。こいつらより高位の貴族が絡んでいることは確かですが、それ以上に第三国が関係してそうです」


 確証がある訳じゃないから神聖国の名前は出さなかったけど、お義父さんも感づいているようだ。


「マーサ様、この役人の寄り親は確かヤーキン侯爵でしたか」


「そうです。飛行船の中でもその話をしているのを耳にしました」


 こいつらは本当にバカなんだろうか? 親玉の名前を不用意に出すなんて愚の骨頂だ。それが出来たのはマーサやロベルトを舐め切っていたせいでもあるだろうが、まさか一国の王女がその辺の冒険者より強いとは誰も思わんけどね。


「あ! ロベルトさん申し訳ないけど、もう一度伝言頼めますか? 直ぐにフランクさんに逃げてるというか報告に向かっている騎士がいる筈だから追って捕まえるように言ってください」


「はい、直ぐに行って来ます。伝言したら私もその追跡に同行します。騎士の顔は全員覚えていますから」


 ロベルトが出て行った後、


「それにしてもこの人達はこの船を奪ってどうしようと思ったんでしょうね? 操船には人数もいるし、まだ進水式も済んでいないのに」


「目的は分かりませんが、私達を人質にして船員を呼び出し、船を動かすつもりだったみたいですよ」


 知らないだろうから無理も無いが、この船の進水には特殊な魔法を使わないと出来ないようにしてあるから、船員がいても進水すら出来ない。まぁ仕組みを知っていれば簡単なんです、魔力を魔方陣に流すだけですから……。


 このドッグは後に修理にも使えるように作ってあるから地面を掘っているんです。まぁ前世では良くあった、乾ドックと言うやつですね。ですから進水にはドック内に注水する必要があるので、閉じている門をあけなくてはいけませんが人間の力では普通出来ないぐらいの水圧が掛かっていますから、門は一度引き上げて横にずらす方式にしています。その引き上げに重量軽減魔法が必要なんです。


 魔法陣と飛行船の仕組みを知っていれば出来るかもしれませんが、多分魔力が足らないでしょう。


「これは困った事に成りましたね。王族と極一部の関係者しか知らない情報が洩れるとは、この先何が起きるか分かりませんね」


「まさか高位貴族が国を裏切るとは……。これも宗教のせいだろうか」


 神聖国の事を言ってるんだろうが、神様はいるから宗教のせいとも言えるけど、神を勝手に代弁してるのが悪いだけで、宗教そのものが悪い訳じゃない。


 こういう言い方は良くないかもしれないが、人は信じるものがあると盲目になる人はいる。


 倒れている貴族や騎士を縛り上げてから、俺が土魔法で簡易的に作った牢に入れて待っていたら、フランク達も逃亡していた騎士を捕縛して戻って来た。


 ここから先は尋問になるけど、そこは慣れていそうなお義父さんに任せて俺はその場を離れた……。



















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