第304話 処女航海に向けて

 兵士の募集を掛けたら、何とあっという間に30人程集まりました。それもそのうち5人が女性という大変喜ばしい結果です。


 人が集まる前に、兵士の訓練をお願いするのにお義父さんの騎士を借りに行ったら、お義父さんまで乗り気になって指導すると言い出したのには困りましたが、丁寧にお断りしました。だってお義父さんに任せたら絶対悪乗りしそうなので任せられません。それでも何とか教官は確保できたので、訓練内容の大体の要望だけ伝えて後は全て騎士にお任せすることにしました。


 一時しのぎ的な兵士の事はこれで何とかなったけど、これではユートピア全体の治安は守れませんから、引き続き兵士の募集と開墾作業をしてくれる人を募集して貰っています。勿論それだけじゃなく、今後必要になる船乗りも募集しています。今は一隻ですが、今後の事を考えたら船乗りはもっと必要ですからね。


 その肝心な船の方はどうなっているかと言うと、ミランダ達の奮闘のお陰で全て完成、後は処女航海をするだけに成っています。


「ミランダさん、エマさんご苦労様です。良くこの短期間で全て完成させましたね」


「ありがとうございます。まぁ殆ど島で出来上がっていたので、それ程ここでは苦労していません。ただ、学校の事とかがあったからここまで時間が掛かりましたけどね」


 ミランダの言った時間が掛かった理由の学校の事はスーザンの事なのだが嫌味ではなく、ジョークのつもりで皮肉っぽく言ったのだ。これ程手助けしたんだから、必ず成就させろという意味でね。


「その事ならフランクさんとサラが動いていますから、もう直ぐじゃないでしょうか」


「そうですか、それにしてもロイスさんがあれ程奥手だとは思いませんでしたよ。グラン商会では結構活動的でしたからね」


 そうなんだよね。ロイスは本来活動的で自分が好きだったり、思い入れの強い事にはかなり積極的なんです。レンガを初めて紹介した時なんてそうでしたからね。それに何かと愚痴はこぼしますが、最後にはきちんと役目を果たす人ですから、この恋愛に関しての行動は極めておかしいのです。


 周りのみんなが気付く程、ロイスの言動や行動はスーザンへの愛情が溢れているのに、最後の一押しだけが出来ない。交際申し込みでもプロポーズでも早くやれよと周りはずっとやきもきしている。


「二人の事はもう大丈夫でしょうから、俺達は次の段階に行きましょう。処女航海は何時頃行けそうですか?」


「船自体は完成していますが、問題は船員の方ですね。帆船というこれまでにない動力で動きますからその仕組みを知る必要もありますし、風魔法や結界魔法の動力源である魔石への魔力の補充を誰がするかも問題です」


 帆船の動かし方は覚えれば良い事だけど、問題は魔力量だな。船乗りに成りそうな元漁師とかは一般人よりは魔力量は多いが微々たるもの。魔魚によるレベルアップも微々たるものだし、どちらかと言うとHPに数字が振られている。


「そうなると、船員もレベルアップが必要ですかね」


「それも必要になると思いますが、取りあえずなら魔石を大量に積み込むかですね」


 魔石を積み込むのも良いが、やはりそれは危険だ。途中で何があるか分からないんだから、レベルアップはしておいた方が良い。魔力以外にも戦闘力が必要になる時があるかもしれない。


「そう言えばミランダさんは海の魔物の事をどれくらい知っていますか?」


「いえ、殆ど知りませんね」


「結界を作ったエマさんはどうです?」


「一応、結界を作るのに漁師から話は聞きましたが、これまでが沿岸での漁しかしていないので、もっと離れた場所の魔物については知りませんでしたね。ですから私は陸の魔物の攻撃力を想定して結界の強度を決めました」


「その強度はどのくらいを想定しました?」


「ユウマさんと行った魔境の森の魔物のレベルを想定しましたから、ユウマさんの家に設置されている結界の二倍ぐらいですかね」


 あの結界の強度の二倍ならレベルにして10ぐらいまでの魔物は大丈夫だろう。だけど、それで本当に大丈夫かな? 海の魔物については資料が無いから未知なんだよな。島で一匹だけ手に入れたマルリンがレベル5だったから、強力な魔力スポットが無い限り、レベル10ぐらいまで大丈夫なら、行けそうだが……?


「それじゃこうしましょう。船員候補を連れて処女航海のついでにレベル上げをしたら良いと思います」


「それって、もしかしてあの島の近くにあると予測してる魔力スポットを探すという事ですか?」


「良く分かりましたね。そうすれば海の魔物についても調べられるし、レベル上げも出来て、船の操船も覚えられるし、結界の強度も確認できる。一石何鳥にもなりますよ」


「ユウマさん、それっていきなり魔境の森の奥に低レベルの人を連れて行くのと同じですよ。私達も行かされましたが……」


 確かにそんなことも有ったな。レベルが1とか2の時にレベル5とかの魔物が出るところに連れて行った覚えがある。どうせミランダ達も今回行った魔境の森クラスには連れて行かないといけないんだから、その小手調べに海の魔物は丁度良いだろう。


 海の魔物だから本来は魔銃が良いのだが、船員達には見せられないから、羊皮紙の魔法陣魔法でも何とかなるだろう。でもな~~今後の事を考えたら据え置きタイプの魔銃、魔大砲を作るのもありなんだよな……。


 魔大砲なら実弾タイプだよな。魔法タイプなら大砲クラスは必要ないもんな。


「さっきから聞いたことない言葉が何度か出て来ていますがそれはいったい何ですか?」


 やべ! またやっちまったか。まぁどうせ賢者たちには魔法武器も魔銃も作ることにしてるからバレても良いか。


「えっとそれはですね……」


「成る程、そういう事ですか。またユウマさんはとんでもない物を作ったんですね。それに加えて属性魔法の練習にもなると……、本当に呆れますが、それでこそユウマさんとも言えますが」


「属性魔法の事なんてローズに言ったら泣いて喜びますよ。あの子はサラ様が風魔法が使えるように成ったと聞いて、凄く興味を持っていましたから。勿論私もですが……」


「とんでもない物とは思いますが、これも魔方陣の研究の成果ですからそう虐めないでくださいよ。ミランダさんだって、美魔女化粧品作ったじゃないですか」


 美魔女化粧品だって本当に凄いものだよ。一時的とはいえ肌が若返るんだから……。


「それで今現状船員は何人位いるんですか?」


「船員として専属という人は今候補として10人ぐらいですね」


 船員として専属? 奇妙な言い方だな……?


「それはどういう意味ですか?」


「あぁそれは現在は漁師をしていますが、漁師を辞めてこの帆船の船員に成りたいと言ってる人です。それとは別に3人程、船大工と兼業したいという人がいます」


 船大工と兼業? 何がしたいんだ?


「その兼業したいと言ってる人は何故なんでしょう? 船大工ならこれからも仕事はありますよ。この先大型船も作る予定ですから」


「それは船の事を勉強したいからだそうです。船に実際に乗れば改良のヒントも得られるし、大型船に使える事も学べると言っています」


 確かに帆船なんて初めての船だから乗ったこともないだろうから、勉強にはなるだろうね。今回は俺の前世の検索能力で設計をしたから、何がどう作用するのかも分からない状態で作っているから、未知の船という認識なんだろう。それを知りたいというのは物作りをする者のさがなのかな?


「それは良い事ですね。航海中に何かあっても修理も出来るでしょうから是非乗って貰いましょう。それではその専属の10人ですが、島に行っている国の役人たちが帰ったら処女航海に出ると伝えておいてください」


 あぁその前に進水式をしなくちゃいけないな。これは何時しよう? 役人が戻って来てからか、それとも……?


「あれ? 次の事を考えていたら偶然にもクルンバが来ましたね」


 物凄いタイミングで来たな。こんな偶然あるのかよ……。


「これはマーサさんがかなり激怒してますね。詳しい事は書いていませんが、予定を切り上げて直ぐ帰って来るそうです」


 マーサからの手紙には帰る理由が書かれていたが、一言、いう事を聞かないとだけあった。王族相手にいう事を聞かないってどんだけだよ。そういう事もあるかもとわざわざ王族に行った貰ったのに、それが機能しないなんて普通あり得ないだろう。王政の国ばかりだぞ……。


 これは帰って来てからひと悶着ありそうだな……。勘弁してくれよ。










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