第303話 兵士

「魔銃の話はこれぐらいで良いですね。では今度は俺から、魔法武器の使い心地はどうでした?」


「魔銃なんてものが出てきたから忘れてたけど、あれだってそう簡単に世の中に出して良い物じゃないぞ」


「そうじゃな、間違いなく最低でもレベルを10は底上げするから、公開すれば大騒ぎになるぞ」


 そうだよな。サイラス達が使っている普通の魔鋼に付与した物でもかなりの物だから、ミスリルなんて混ぜてる物は今は出せないな。でも、この人達は口ではこう言っているが、目は欲しいと訴えかけてきている。


「そんな事言われていますが、欲しいんでしょ?」


「私は欲しいわね。これ物凄く気にいったから」


 お義母さんは特にそうみたいだね。さっきから青龍刀を大事に抱えているもんね。まるで子供のように……。この人は本当に正直だ、男共と違って表裏がない。


「魔銃を作るのに、これをあげないというのもおかしな話ですから、差し上げます。ですが、これも国の人達が帰った後という事で良いですか? 他の賢者の皆さんも欲しいでしょうから」


「そうだな。そこは平等にしよう」


 いやいや、平等って、フランク達は言えないでしょうが。魔刀を何時から持ってるのよ……。


「だいたい武器の件はこれで終わりで良いですね。もし細かい事を聞きたい時はまた個別で聞いて下さい。それでこの後はどうします? 俺としてはレベルもそれなりに皆さん上がりましたから、ユートピアに帰ろうと思いますがどうですか?


「もう少しこれを使ってみたい気持ちはあるけど、このまま続けたら帰るのが遅くなりそうだからこの辺りで止めておきましょう」


 確かに戦闘狂で魔物を引きつける運の持ち主がいると、この先何が起きるか分からないから、程々で止めた方がいいよね。お義母さんは自分の事を本当の意味では分かっていないんだろうけど、言ってることは間違っていない。


「それじゃ帰りましょう!」


 それから二日、俺達はユートピアに帰って来たが、その帰りの道中でもひと騒動合った。勿論、お義母さんの若返りの事なんだけど、これが予想以上で俺もびっくりするぐらいの若返りだったので、騒動に成った。その騒動は特に女性陣からなんですが、魔境に戻れという意見まででて、大変だった。


 これも今は国の関係者に見られたくないことなので、どうするか非常に迷ったけど、化粧のお陰という事で誤魔化すことにした。


 女性のレベルによる若返りはレベル上げの翌日というのが今回の事で改めて証明されたけど、これも秘匿するのがこれからは難しくなるな~~。まだ今の所救いなのがお義母さんが社交界から引退してる事と、ラロックに住んでいる事かな……。


「お義母さん、申し訳ないですけど国の関係者が帰るまでは、宿舎からあまり出ないでください」


「そうね。今はそうするわ。今騒ぎに成るのは拙いものね」


「はい、いずれバレるでしょうが、今は避けてください。まだまだユートピアでやることがあるので、そこに時間を取られたくありません」


 戻ったら、本当にやることが目白押しだ。学校、病院の開校、酒作り、鉱山の整備、そして何より、俺が一番楽しみにしてるのが、中型帆船の処女航海。それには防水塗料の完成と塗布、結界魔法の大型化と改良、最後に風の魔道具の完成設置が条件だけど。恐らく、その辺はもう終盤に来ているだろうから、最後の追い込みをすれば直に行ける筈。


「スーザンさん戻ったら、ロイスさんと一緒に学校の開校の方お願いしますね。生徒の方は粗方決まっているでしょうから」


「そこは任せて下さい。これでもラロックの責任者でしたからノウハウはしっかり吸収しています。後はここ独自のやり方をするだけです」


 ちゃんと分っているようで安心した。ここ独自のやり方が必要なのはここには貴族の生徒がいないのと、元々職業スキル持ちが少ないし、生産物が偏っていたから、自給自足が出来るように教育して行かないといけない。


「それじゃ、帰りましょ」


 ユートピアに戻った俺達は各自、自分のやることを始め、着々と成果を出して行った。


「ロベルトさん、ユートピア改造の進捗はどうですか?」


「宗主様、物凄い勢いで変わって行っています。それは喜ばしいのですが、ただその影響で困った事も出て来まして、その事を宗主様に相談したいのです」


 まぁそういう事は起きるよね。大きな変革があれば必ず問題は出るものだから、その都度それを解決していかなければ、進んで行かない。


「問題とは、人の多さでしょ」


「はい、その通りです。人口の増加が急激すぎて、住居などが追い付いていません」


 元々小さな村だったんだから、当然起きる問題だ。これは今まで領都に人が集まっていたのと同じで、ここがこれから発展すると思った人が多いからです。特にどこの国でも同じだが、農家の次男、三男や若い女性は希望を胸に栄える場所に移動したがる。


「住居の方は何とかできますが、仕事がまだそんなにないですからそこをどうするかですね」


 ここの建築物は殆ど俺の魔法で今は作っているから、そういう部分の仕事が無い。それにここは小さな村だったから、商店もないし、職人もいないからそういう面の仕事も無い。どうするかな? 少しは仕事も作れるけどそれでは根本的な解決は出来ない。あれ? そう言えば鉱山の方はどうなっているんだろう? 鉱山なら仕事は沢山ある筈なんだが……。


「ロベルトさん、鉱山はどうなっています?」


「それなんですが、それも困っている事のひとつなんです」


「何故? 鉱山なら仕事はいくらでもあるから、若い男性はそちらに回せば良いでしょ」


「それが、そうもいかないのです。ここには金鉱山があるので、むやみやたらに人を送れないから困っています」


 あぁそういう事か。何といっても金だから、管理しないと盗まれ放題に成るな。その管理が出来ないから、全ての鉱山に人が送れない。エスペランスでも鉱山の主な労働力は犯罪者で国が管理してるもんな。特に金鉱山は……。


 俺も安易に考えていたな。鉱山を作れば労働力はどうにでもなると思っていたからな。前世でも近代になるまでは鉱山の労働力は犯罪者だったことを忘れていた。この世界の文明ならそれが当たり前なのに、俺がそれを考慮してなかったのは大失敗だな。


 鉱山の鉱夫は犯罪者でなくても良いけど、管理する人は必要だ。それをどうするか? それだけじゃないな、ここを国としてやって行くならそういう仕組みを作らないといけないが、ここのそれを担っていた連中がクズだったから、その全てを排除してしまって完全にその仕組みが機能していない。


「ロベルトさん、ここに集まって来ている若い男性をここの兵士に出来ませんかね?」


「兵士にですか?」


「そうです。現状はまだ良いですが、この先ここの治安もどうなるか分かりません。ですからそうなる前に治安を維持する仕組みを作らないといけないんです」


 こう言っては何だが、今なら俺に対する崇拝心で忠誠心も相当高いだろうから、兵士にするには丁度いい。それなら鉱山でも問題ないと思うだろうが、人という者はそんなに単純じゃない。役職があるのとないのとでは忠誠心の維持が変わってくる。ここを守るんだという使命感を持たせるのにも都合が良い。


 しかしそうなると誰が教育するかという問題が出てくる。ん~~そうだ! お義父さんの護衛でついて来ている騎士に頼もう。ついでにミル村側の森で魔物狩りをすればレベルも上がるだろう。


「ロベルトさん、今ここに来ている若者、男女問わずならどのくらいいますか?」


「そうですね……、定職を持たず、日雇いで生活してる者なら50人程度でしょうか」


「その人達はどうやって生活してるんですか?」


「今は開墾の仕事があるのでそれで何とか食いつないでいますね」


 それは好都合だ。開墾はいずれ無くなる仕事だから誘えば乗って来るかもしれないな。これからユートピア全体に募集を掛けるより都合が良い。騎士達もいつまでここにいるか分からないんだから、今いる人から募集した方が良い。


「ロベルトさん、その開墾は遅れても良いですから、その人達に声を掛けてみてください」


「しかし、男女問わずで良いんですか?」


「勿論、ユートピアに男女差別はありません。女性にしか出来ないことも有りますから、機会は均等に与えますよ」


 この世界でも男女に肉体的差は確かに存在しますが、それを埋める事の出来る魔法もあれば、レベルもあるので、それ程前世のような差は存在しないのです。


 その最たるものが、賢者の女性陣やサラにお義母さん、最後にエリーという高齢な女性でも今のレベルなら、その辺の冒険者なら圧倒出来ます。


 それがこの世界の仕組みなのです……。

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る