第302話 属性魔法

 素材が使えそうな魔物の回収をしながら、一人で魔物を討伐していたら、魔物の数も段々減って来た。魔物の血の匂いが薄くなってきたからだろう。


「これぐらい回収できればいいか、後はあいつらが掃除してくれるだろうし、残っているのは素材として使えそうな物はないし、唯一使える魔石だけは回収したしね」


 さて、これで直ぐに戻るべきだろうか? 我が愛しの妻を本当に犠牲にして良いのか?


 俺は心の中で葛藤していた。直ぐ戻れば俺が追及される。しかし戻らないとサラが質問攻めにあう……。


 こんな事を考えている自分が恥ずかしい。ここは戻る一択だろうがと自分を𠮟咤し、飛行船に戻った。


「ユウマ! お前は奥さん残して何にしてる。サラ様が質問攻めに成るところだったぞ! 何とか俺がそれは止めたから後はちゃんとお前が説明しろ!」


 おぉ~~流石は兄貴肌のフランク、俺の思いを汲んでくれていたとは有り難い。ここはその心意気を無駄にしない為にも、俺が頑張らないとな。


「皆さんお待たせしました。聞きたいことがあれば何でも聞いて下さい」


「聞きたいことは山ほどあるが、わしでは知識が足らんから何をどう聞いて良いか分からんのじゃ」


「それじゃ、俺が代表して聞きますから、その上で分からないことがあればその都度質問してください」


「おう、そうしてくれるかフランク殿。手数を掛けるな」


 ここでもフランクが仕切ってくれるのか、こういう所は凄く成長したよな。昔は自分だけという感じだったが、その方向性が変わったというか、皆のまとめ役に成って来たから、リーダーとしての自覚が出てきている。


「先ずは、ユウマあれはいったいなんだ? 一つは魔法だというのは分かる。だがもう一つは魔法じゃないように見えた。それを説明しろ」


「フランクさんよく観察していますね。大体それで合っています。サラが使っていた物も、俺が使っていた物も魔法銃、魔銃と言います。サラの物は属性魔法が撃てる銃、銃というのはあのような物をそう名付けただけです。そして俺が使って物は簡単に言うと、このような形状をした弾を魔法で撃ちだしている物です」


「それは見ていたら何となく分かるが、それって属性魔法を持っていない者でも撃てるという事だよな?」


 流石は賢者、ちゃんとそこに思考が行くのが偉い。誰でも属性魔法が使えるという事が、この魔銃の最大の特徴だからね。


「その通りですが、少しこの魔銃は魔法陣を改造してまして、威力の部分だけはイメージしないといけないんです」


「ん? それは改造しなければ一定の威力なら連続して撃てるという事だな」


「そこは羊皮紙のタイプと同じですね。ただ皆さんもご存じでしょうが羊皮紙には耐久性に限界があるので、長くは使えません。それを補ったのがこの魔銃です」


「ちょっと待って、途中で口を挟んで悪いけど、ユウマ君それって私でも属性魔法が使るという事なの?」


 そこに注目するのは良いが、やはり賢者ではないお義母さんでは一番肝心なところには気づかないか?


「母上、そこではないんです。この魔銃は使えるだけではなく属性魔法の練習に使えるんです。魔法はイメージというのは母上もご存じですよね。そのイメージの威力の部分をちゃんとイメージしないとこの魔銃は上手く撃てないんです。だからこれでイメージの練習をし続ければ、最終的に魔力量さえあれば魔銃なしでも同じ魔法が撃てるように成ります。それも属性に限りがありません。全属性使えるように成る人もいるかも知れないという事です」


 サラ、それを言ったら……。


「私も属性魔法が撃てるように成るの?」


「俺が属性魔法……」


 全員が似たような事をブツブツと言っている。こうなると次に来るのは、そう!


「ユウマ、これはもっと作れるのか? 作れるなら俺達にも作ってくれ!」


 こう来るのが当然の反応。ただな……、これこそ軍事利用されやすいものなんだよ。だから、最も簡単には公開出来ない物。


「フランクさん、いえ、皆さんも良く考えて下さい。この魔銃が世の中に広まったら何が起きるか?」


 俺からこう聞かれて、暫く皆真剣に考えているようで沈黙が続いたが、一番意外な人が初めに口を開いた。


「ユウマさん、それは戦争に使われるという事ですよね」


「はい、エリーさんその通りです。ある程度の魔力量は必要ですが、それさえクリアすれば、誰でも使えるので、属性魔法士が大量にいるのと同じになってしまいます」


「それどころか一人ひとりがあのレベルの魔物を瞬殺できる能力もち何だから、そんなの戦争にもならん、虐殺だ」


 お義父さんのいう事も分かる。一方的に攻撃出来るんだから戦うというより殺戮ショー、正に虐殺に成ってしまう。


「すまんユウマ、これは軽率だったな。お前たちがこの魔銃を隠していた事には意味があると先ず考えるべきだった。確かにこれを戦争に使われたら大変な事になるな」


「分かって下さってありがとう御座います。ただ、この魔銃が属性魔法の効率的な練習に成るのも事実なんです。羊皮紙の魔法陣でも出来ますが、長く練習するには耐久度が足りませんから」


「いや~~、これは今回搭乗人数の制限がなくても従者達を連れてこなくて良かったよ。こんなのいきなり見せられていたら、パニックになっていただろうな」


 フランクのこの言葉はそら見ろちゃんと心構えをさせておいて良かっただろうと言いたげで、少しムっとしたが、言い返せないのも事実……。やらかしてる自覚はあるからな。


「それにしても、その魔銃の魔法陣はどうなっているんです?」


 これまた流石は賢者スーザン、そこに気づきますか。


「スーザンさん良く気が付きましたね。この魔銃の魔法陣は今までと違って金属に魔方陣を彫って、そこに特殊な液を流して作っています。この技術こそが今回の発明の胆ですね」


「そりゃそうですね。羊皮紙の魔法陣とは違うと言ってるのですから、そこに秘密があって当然です」


 ただ、それだけじゃないんだよな。彫金スキルというこの世にまだ存在しないスキルの事はまだ言っていないし、発現条件も大体分かっているとは言いづらいよな。この事はサラにも言っていないからな……。


「あなた、これで全部じゃないみたいですね。私が知っているのはここまでですが、どうもあなたの顔にはまだ隠し事があると出ています」


 ど、どうして? サラはエスパーか? 俺ってそんなに顔に出やすいの?


「ほほう~~、まだ隠し事が……。この際だユウマ全てはいて楽に成れ」


 刑事の取り調べみたいなこと言うなよフランク。俺だって全て話して楽には成りたいが、こういう事って結構勇気がいるんだぞ。特に新しいスキル何て世界の理が変わる事なんだから。まぁ一度左官スキルでもう経験してるからそんなに驚かないかもしれないが、今回はダブルスキルからの派生スキルだから、また少し違うからな。


「サラには隠し事は出来ませんね。賢者以外には絶対にこれはまだ秘匿して欲しいんですが、この金属に魔法陣を彫るには……、彫金スキルというものが必要になります。そしてこのスキルの発現条件は、鍛冶と木工のスキルかそれに匹敵する知識と技術が無いと発現しません」


 最後の匹敵する知識と技術の部分は俺の推測だが、多分当たっていると思う。今までのスキルや属性魔法の発現条件からして、ダブルスキルが無いと絶対にないという事は無い筈。


「成る程な、確かに魔方陣は正確に書けないと魔法が発動しないからな。それを彫るという作業でやらなければいけないんだ、それには技術がいるのが当然だな」


「それに特殊な液というのも錬金術と関係していそうです」


 今度はロイス君かい、賢者に成って益々そういう事に気づくように成ったね。


「その通りです。その特殊な液体にも秘密があり、錬金術も必要になります」


「で、最終的にお前の答えは?」


 やはり諦めていないか……。そりゃ欲しいよね。俺だってこんなもの見せられて欲しくないとは言えないからな。どうしようか作るのは良いんだけど、ここにいる人だけに作ると他の賢者が僻むよな……。


「それでは作りますが、ユートピアに戻って、国の関係者が帰ってからという事で良いでしょうか?」


「それは……。わしらも彼らと一緒に帰る予定なんだが……」


 そうかお義父さん達はそうだったな。あれ? それじゃグランはどうするんだ? 酒の事があるから、国の関係者より長くいることに成りそうだけど? あぁだから専属でサイラスを連れて来てるのか。あの人は一緒に帰る気が初めから無いんだな。


 それならお義父さん達もグランと一緒に帰れば良い。お義父さんも護衛は連れて来ているから。


 今思い出したけど、飛行船で旅立つ前のあの騎士たちの顔、俺達も行きたいという気持ちがありありと顔に出ていたな……。








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