第307話 報復

 尋問の結果をエスペランスとグーテルの国王に報告したが、俺の怒りは収まらない。人のものに手を出したのも許せないが、宗教を利用したのが一番許せない。俺は神様に会っているから尚更だよ。


 俺にとっては恩人だからね。両親を間違えて死なせてしまったにしても、それは神様のせいじゃなく死神の落ち度。それでも申し訳ないと両親に転生を申し出たが、その結果が俺の転移に繋がったんだから、俺にとって神様と両親に感謝はすれど、恨む気持ちなど毛頭ないので、その神様を冒涜するような神聖国は許せない。


 どうしてこうも異世界では宗教関係はクズが多いのかね。否、そうでもないな。前世の歴史でも宗教は色んな意味で世界を翻弄して来たし、近代宗教何て詐欺のようなものが多かった。


 異世界という表現もおかしいな。俺の知ってる異世界はこの世界だけで、他はラノベや漫画などの話だ。それでもそういう設定が多かったのは現実の歴史が反映してたからかもしれないな。宗教への不信感、特に日本というのはそういう国だったからな。宗教が文化に成っているような国だから、よく無宗教の国とか思ってる人が多かった。


 この世界の宗教に憤慨ふんがいしながら、宗教そのものについて考えをめぐらせている時、いきなりサラが問いかけてきた。


「あなた、何を考えてるの? 何かやろうとしてることは分かるから白状しなさい」


「い、いや、べ、別に何も考えていないよ」


「そんなに動揺しておいて何も考えてないが通じるとでも? 白状しないなら今晩から寝室は別にしましょう」


 おい、18禁を盾にとっての脅迫か! それは流石に酷いんじゃないか。若い俺にとってそれは拷問に等しい。あれだけ以前は強要してたくせにそれはあんまりだよな。


「それはあんまりだよ。ご両親もエリーも待ち望んでいる事なんだからそれを盾にするのは……」


「それが嫌なら素直に考えていることを言えば良いのです。簡単な事じゃないですか。私を信用していないんですか? ユウマさんの愛はそんな物なんですね」


 おいおい今度は俺の愛情まで持ち出すのかよ。世の中の男性というのは皆こうなんだろうか? 嫁の尻に敷かれるとはこういう事なの……?


「ただ、宗教について考えていただけだよ」


「本当にそれだけですか? それならユウマさんは臆病ですね」


 俺が臆病? 確かに俺は小心者だけど、それと宗教の話がどう結びつく? まさか俺に報復をしろと言ってるの? 戦闘狂に成ったサラだからなのか、それとも貴族として育ってきたからなのか、これがもし当たっていたらサラへの認識を改める必要がある。まぁ貴族ならやられたらやり返せと思うのが普通なのかもしれないが、俺にはその矜持のようなものは無いからな。


 ただ怒っているのは確かだから、サラが言ってることを考えなかった訳ではない……。


「サラはどうするべきだと思ってるの?」


「勿論、警告を含めた報復です」


 やはりそうなのね。しかし、簡単に警告を含めた報復と言われてもどうすれば良いのか分からない。それに俺もしくはユートピアがやったと分かるようにやらないと意味が無いから更に難しい。


「お~~、あるじゃないか全てを兼ねる報復方法が!」


「いきなりどうしたんですか?」


「思いついたんだよ! 一石何鳥にもなる報復方法を……」


 思い付いた方法を俺はサラに聞かせた。


 その方法とは、帆船と飛行船による神聖国の教会破壊、破壊と言っても教会の建物を破壊する訳じゃない。教会の屋根の上についている教会のシンボルを破壊するだけ。

 一か所じゃないけどね。神聖国にある教会全てのシンボルを破壊する。どうせ飛行船と帆船の事はもうバレていると思うから、この二つでやればユートピアがやったと思う筈。


 それに帆船を使うという事は神聖国まで航海をしなくてはいけないから、処女航海と訓練も兼ねられるし、沿岸といえ魔物の調査も出来る。そしてなんといっても取り付けを悩んでいた、魔大砲の設置に踏み切れる。


 こうやってユートピアというか俺の軍事力を見せつける事でむやみにこれからは手出し出来なくなる。しかしこれやると、俺自身で俺を追い込むことにもなるんだよな。宗主という立場からもう完全に抜けられなくなる……。


「中々面白い案じゃないですか。色んなことが一度に出来て、神聖国には精神的ダメージもあるからいいですね」


「それだけじゃなく、もう一つ空からチラシを撒こうかと思っています。チラシの内容は神に使える者が人のものを盗もうとしたと神聖国の民に教えるのです。宗教とは信じる気持ちから成り立っているものです。その信頼を無くせなくても疑わせるだけでもかなりの効果はあると思います」


 神が悪行を認めるならそれはもう神じゃない邪神だ。許すと認めるは違うからね。悔い改めるのを許すのが神、悪行をする神聖国は邪神信仰だと広めてやる。


「それは効果がありそうですね。神聖国の民が知れば信仰心が揺らぎますから、国としての根幹が揺らぎます」


「この報復はエスペランスとグーテルにも良い効果をもたらすと思いますよ。ユートピアと両国の信頼関係が国際的に広まりますから、今進めているビーツ王国とフリージア王国との同盟話も進めやすくなるし、帝国や共和国への警告にもなります」


「それじゃ、早速この計画を進めましょう。私はこの事を父に話して来ます」


「俺はこの件を賢者全員に話して協力してくれるよう頼んできます」


 そこからは怒涛のような日々が続き、一気に報復の準備が整った。勿論エスペランスとグーテルの国王の了解も取り付けてある。俺達が動くと同時に両国も獅子身中の虫の排除をやるそうだ。


「それじゃ、いよいよ帆船の進水式を始めます。皆さん準備は良いですね。マーサ様門の開門をお願いします!」


 マーサが魔法陣に魔力を流し、門の重さを軽減させてから、グーテルのロベルトさんと同じくグーテルの鍛冶師ノリスさんが門を巻き上げ機で巻き上げて行った。すると門の下部から少しづつ海水がドッグ内に入って来て徐々に海水が溜まり、帆船が浮き上がって行く。その時見学に来ていた人達から一斉に、


「「お~~」」


 という歓声がドッグ中に広がった。


「船員の皆さんは浸水が無いか確認をお願いします。少しでもあれば直ぐに報告と処置をお願いします!」


「あなた凄いですね。こんな大きな船が浮くなんて乗ってる私でも未だに信じられません」


「何を言ってるんですか今更、飛行船に何度も乗ってるのにそれはおかしいでしょ」


「そうは言いますけど、飛行船は全く未知の物でしたから、そういう気持ちに成らなかっただけで、今回は違います。知識としてあった物が巨大化してるから気持ち的に違うんです」


 そういうもんかな? そこは前世の記憶持ちとそうでない人の違いなのかもしれないな。飛行船の時は驚き過ぎて思考が止まってしまったけど、今回は驚いているけど思考は止まっていないという事なのかもしれない。


「宗主様、進水箇所無し! 航行に支障なしです!」


「それでは、これより入り江を出て沿岸で試験航行を行います」


 この船は帆船ですが、魔動エンジンのようなものも積んでいます。風魔法の応用ですから出力は出せませんが、護岸から離れる時や入り江内を出るまでの補助的な物には十分使えます。ですが時には急な方向転換の時のスラスター的役割もします。


 三日ほど接岸、離岸を含めた航行訓練を行った後、いよいよ報復の為の航海に出る。その前に飛行船組との最終打ち合わせをしておく。


「今回は帆船も飛行船も隠す必要はないので、堂々と行動してください。存在を知らせて恐怖を与えるのが目的の一つですからそこは遠慮する必要はありません」


「ユウマよ本当に良かったのか? あの魔銃のデカい奴公表して?」


「良いんですよ。今までは中途半端に色々やって来たから、舐められているんです。学校や病院、特許で公開してる物は極僅かで、本当はもっと凄い物を持っているんだという力の差を見せつけないと、これからも何かしらやって来ると思うので、その出鼻を挫く意味でも、徹底的に脅します」


「分かったそういう事なら徹底的にやろう。俺達はやりたいことが沢山あるんだから、その邪魔だけはされたくないからな」


「国王陛下からもエルフなどの移住が終われば神聖国とは国交を断絶しても構わんとまでお許しが出ていますから遠慮はいりませんよ」


「それじゃ明日出発で決まりだな。神聖国までは一緒に行動して、そこから別行動でそれぞれの目標を達成する。それで良いな」


「はい、飛行船組はフランさんにお任せしますので宜しくお願いします」


「何かあればクルンバで連絡するから、心配するな」



 翌日俺達は神聖国への報復に旅立った……。

















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