第308話 天罰

 神聖国に旅立って五日目、ビーツ王国の国境を過ぎて神聖国の国内の沿岸に到着した。


 これまでの旅の間に報復に使う魔大砲の訓練も行ってきた。勿論標的は小さな無人島だったり、海の魔物です。今回帆船に積んでいる魔大砲は二種類、実弾タイプと魔法タイプ。今回の目標が教会のシンボルだから実弾タイプだと教会ごと破壊しかねないし、罪のない人も巻き込みかねないので、魔法タイプを主に使う。それに海の魔物には魔法タイプの方が効果的だから今後の事も考えれば良い実践訓練に成る。


「これからフランクさん達と別れます。ここからは海岸に近づきますから海岸沿いに教会を見つけ次第シンボルを破壊して行きます」


「フランクさん達は大丈夫ですかね。射撃訓練が足りないという事は無いですか?」


「いえ、その辺は大丈夫です。飛行船に魔大砲魔法タイプを取り付けた時から、毎日のようにロイスさんと訓練していましたから」


 今回は高度も低い所から狙うから先ず外さないだろう。


「そんな事言って、自分達が外さないで下さいよ。ルッツさん」


「勘弁してください宗主様。あれだけ鬼のような訓練をさせられて外してたら情けないです。それに元々漁師だった俺達が、あんな大型の魔物を倒せる力を貰ったんです。それにこたえなかったら海の男の名が廃ります」


 今回の帆船には俺とサラ、船員しか乗っていない。飛行船の方にはフランクの飛行船にミランダ達錬金術三人衆と従者、ロイスの飛行船にスーザンとマーサとその従者が乗り、他の賢者や従者はユートピアに残って、それぞれの役割を果たしている。


 帆船に俺とサラの他に船員しか乗っていないのは今後の事を考えての事です。これからは自分達だけで交易に出て行かなければいけないのですから、レベルも上げないといけないし、海の魔物と自分達だけで対峙して貰わないといけないから、その訓練も兼ねている。


 将来的には交易船の他に海軍まで視野に入れているからこの人達には頑張って貰わないといけない。この世界にはまだ海軍とか空軍という概念はないが、そのぐらい先を見て国作りをしていかないと、大陸の中で発言力が持てない。ユートピアというのは本当に小さな国に成るのだから……。


 現状は別大陸の国の出先機関を装っているが、いずれそれもバレる時が来るかもしれないから、その準備だけはしておかないと俺達がいなくなった時、国が潰されかねない。


 俺達が大賢者と賢者という立場をとっているのは何時か本当に国から離れた存在にしたいからです。今は国同士が争っているから、その立場は取れないがいつかは世界の賢者という立場にしたい。何故なら国という組織は不変ではないからです。国王が変わればどうなるか分からない。それは前世でも今世でも同じ。今はエスペランスとグーテルとは良好な関係だから、知識も技術も提供しているが、何時暴君が現れるか分からないから、賢者は組織に属さない方が良い。


 俺の考えるその理想までにはまだまだ先は長いが、その理想に向けて動くことが世界の平和につながる。


「宗主様、一つ目の教会を発見しました。早速シンボルの破壊を開始します」


「それじゃ~始めますか! 神を冒涜する神聖国に天罰を与えましょう」


 格好良い事言ってるけど、別に俺は神の使徒でも何でもない。だけどそういう事にすれば、体裁が整うからね。この世界の住民はどうしても教会を信じ切っているところがあるから、天罰という言葉を使って教会を攻撃しても問題が無ければ本当に教会が間違っていると思ってくれる。


 一神教というのは良い面もあれば悪い面もある。信じ切ってしまえば良いようにされるからだ。宗教と政治は分ける、それが近代国家の基本、政教分離が最も理想だが、この世界の今の文明ではそれが出来ていない。


 過激な考えだが、神聖国なんてない方が本当は良い。出来れば潰してしまいたいぐらいだが、それは俺がやる事では無く、神聖国の人達がやるべきこと、その手助けとして神聖国の宗教が間違っていると住民に分からせる。今回の報復の天罰がそのきっかけに成れば良い。


「くれぐれも、シンボル以外に当てないで下さいよ。慎重に確実に狙ってください」


「はい、お任せください」

「速度そのまま、照準! 船首左方向教会の屋根の上のシンボル!」


「照準合わせ完了! 何時でも撃てます!」


「撃て~!」


「目標に命中! シンボルの破壊に成功! シンボル以外に被害なし!」


 先ずは一つ目だな。これだけでは神聖国も何が起きてるのかはまだ分からないだろうが、これから次々と国中の教会のシンボルが破壊されていけばいやがおうにも何かを感じるだろう。


 **********


「報告です! また教会のシンボルが破壊されました! これで30か所目です」


「くぅ~~、何と忌々しい事を、エスペランスとグーテルの奴らめ、戦争をしかけてくるなら対応も出来るが、シンボルの破壊だけという姑息な手段を取りおって」


「教皇様、このシンボルの破壊と同時に撒かれているチラシの影響で、民の間に不信感が広まっています」


「そんな事、嘘だというて聞かせれば良いではないか」


「それが、天罰が続けられるという事は神はそれを認めているという事とチラシに書かれているので、いくら嘘だと言っても信じないのです」


 こういう時こそ信仰心が高いのが仇になる。シンボルの破壊という普通なら神への冒涜、それをやっても天罰がくだらないからそれが正しい行いだと思ってしまうからです。ましてチラシには今回の神聖国が行った悪行の内容も書いているから、教皇への信頼はどんどん失われていく


 神への信仰は変わらないが、教皇や教会への信頼は無くなっていく、これが信仰心が高い程、顕著に出るからこのシンボル破壊は効果的なのです。


 *********


「海から、狙える教会はこれで最後です。この先は魔境の様ですから」


「それでは此処を最後にして、帰還します」


 フランク達はもう少し掛かるという連絡が来ていたから、ここまで来たついでに魔境の森というかこの大陸の端まで行くのも考えたが、やはりそれは危険なので止めておいた。前回東回りで大陸を回ったが、強力な魔力スポットがあることが分かっているし、弱い魔力スポットも発見してるから、この西回りでもないとは限らないから無理をしない。それに魔力スポットが陸にあるとは限らないというのも理由の一つだ。


「帰還はゆっくりで良いので、帰還の航路はもっと外洋に出て操船訓練と魔物討伐訓練をしながら帰ります」


「「え~~~~」」


「これぐらいで音を上げてどうします。何時かはもっと外洋に出て新しい島や大陸を発見する航海もするんですよ」


 まぁこれは半分嘘だ。新しい島や大陸の発見は飛行船でやるつもりだから、船で見つける航海はしない。だけど見つけた後は船での行き来の方が増えるでしょうから、いずれ必要になることは確かです。だから半分嘘……。


 その後外洋訓練をしながらユートピアに帰還したのは10日目だったが、フランク達はまだ帰還して来ない。


「おかしいですね。飛行船ですから普通に帰ってくればもう着いても良い頃合いなんですが、何かあったのでしょうか?」


「そうですね。行きは船に合わせていましたけど、帰りはその必要が無いですから、もう帰還してもおかしくないですね」


「何かあればクルンバで連絡が来そうですし、二機同時に何かあるとも考えにくいですから、尚更わかりません」


 それから2日後、俺達の心配をよそにフランク達は無事に帰って来た。


「フランクさんえらく遅かったですね。何かありました?」


「いや、何もないぞ」


「それじゃどうしてこんなに遅かったんですか? それに二機同時に帰ってくるのもおかしい」


「それは帰りも一緒に帰ろうと連絡を取り合ったからだ」


 これは何か怪しいな。普通に答えてはいるが、何か答えを初めから用意していたみたいにスラスラ返ってくる。


「本当の事白状してください。何か隠していますよね」


「そ、そんな事は無いぞ」


 ほら、動揺した。これは間違いなく何か隠している証拠だ。


「どうせ、足を延ばして魔境に行っていたんでしょ。隠しても無駄です。従者のレベルが異常に上がってるじゃないですか」


 鑑定を持っている俺にそんな嘘が通用するとでも思っているのか、簡単にバレるのにどうしてこんな事するかな……。


「いや~~そりゃそうだよな。悪い悪い。どうせここまで来たんだからとちょっと悪い癖が出てな。それに俺とロイスとスーザンだけ前回魔境に行ったから、ミランダ達も行きたがったからな」


 確かに最近パワーレベリングする人が限られていたから、気持ちは分かるが嘘はいかんよな。これは何か罰を与えなくては。何が良いかな……。












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