第182話 秘密会議
屋敷の問題は片付いたが、他にも問題はあった。これは俺達も予想していなかったこと。今回、二人の国王が此処に来た本当の理由は、今後の国際情勢を話し合う事で、その会議に此処に今存在する賢者候補と見習いを含めて協議する為だった。
国王たちも俺はいないだろうと予測していたみたいで、それなら国際会議にも出席したスーザン達や魔法の講習をしたフランクも含めて、全ての出発点であるこのラロックで会議をしようという事になったみたいだ。
賢者候補と見習いには何も隠さず報告して良いと言ってある。報告する内容は本人に任せてあるから、どこまで報告しているかは分からない。
俺としてはサラに教えている内容以外なら知られても問題ない。知られたからと言ってどうにかできるはずもないからね。
此処で学んだことを一言一句、文字にしてもたぶん誰も理解できない。出来たとしても一部だけだろう。
「昨日の料理も美味かったな」
「スローン王は二度目でしょうが私は初めてでしたから、あまりの美味しさに衝撃を受けましたよ」
「それにしても、何とか早いうちに味噌と醤油は販売して欲しいものです」
味噌と醤油は製造に入っているが、熟成まで醤油は完了まで最低半年は必要、味噌は甘口か辛口かで熟成期間が違うから、甘口で良いなら2か月もあれば出荷できる。
俺の場合は魔法でやるから、熟成期間があってないようなもの、最近はウイスキー同様に熟成期間が2年とか3年の物も作っている。誰にも上げないけどね……。
俺は九州生まれだったから、甘い醤油が好きなので、麹を2倍使った甘い醤油も作っている。
本当は米でも作りたいから早く入手したい。日本酒も作れるからな……。
味噌と醤油を解禁したからか、最近益々日本食に欠かせない米が無性に食べたい。
ソースはスパイスが現状ビーツ王国かフリージア王国からしか輸入できないので高価だから、この国では俺しか安く作れない。魔境の奥地だと魔力の影響なのか自生してるからね。
森の俺の家で、スライム素材で温室を作って栽培する方法もあるけど、結局は大量には栽培できない。
「ソースの原料のスパイスがもっと安く手に入れば、良いのですが」
「カルロス殿そうですね、現状では貴族くらいしかあの料理も食べられませんからね」
「今回の会議ではその事も協議しないとな。ドラン国王」
ビーツ王国との交易所が出来れば、関税が安くなるし、物流も馬車の性能が良くなっているから、経費が安くなって今よりはかなり流通するようになる。
秘密会議が始まった。
「まず初めにスローン国王から今回の会議について挨拶をしていただきます」
「良く集まってくれた。賢者候補と見習いの諸君」
「今回このような会議を設けたのは、ここ数年でこの国は大きく変わった。それは諸君らが一番分かっていると思うが、その影響で、我が国とグーテル王国は国際的に非常に危険な立場になってしまった」
文明がこの国だけ極端に進んだようになっているから、嫉妬や妬みが生まれるのは当然。グーテル王国もこの国の兄弟国として同じように見られている。
「そこでそれを解消するために今回留学生を迎えたのだが、早くも退学者を出してしまったことで、国同士の緊張が増しているのだ」
「スローン陛下、その事はユウマも懸念していました」
フランクが俺の事を名前で呼んだのは事前に決めてあった事。もういい加減、国も俺の名前は把握しているだろうから、普通に名前は出して良い事にした。
サラが婚約者だし、スーザンだって国に報告すのに名前ぐらいはしてるだろうからね。グーテル王国の王女である、マーサだって父親にそこまでは秘密にしていないでしょう。
「あの御仁が? いや、ユウマ殿が?」
「はい、ユウマがこの町に来てから此処は物凄く変わりました。それが今では一つの国では収まらないくらいに影響力があります。そうなれば当然国同士の軋轢が生まれるのは必須だと言っていました」
「お父様、私も此処に賢者見習いとして来てからユウマさんと共に生活してきましたが、彼から学ぶことは次元が違います。ですから他国が此処に興味を持ち嫉妬するのは当然だと思います」
「それで彼はどうすれば良いと言っていたのかね」
「そうですね懸念したのなら、その対策も言ったのではないのか?」
スローン国王とカルロスは以前のビーツ王国との問題を解決したのが俺だと思ったのだろう。
「どの国とは言っていませんでしたが、同盟を組めば良いと言っていました」
「同盟とな。同盟を組むならどこの国だろうか?」
「我が国とエスペランス王国は兄弟国だから除くとして、交易所も出来るからビーツ王国ですかね?」
「ドラン陛下、ビーツ王国だけではなく私はフリージア王国も入れるべきだと思います」
カルロスはやはり優秀な宰相のようだ。魔道具の事を除けば……。
戦争を想定している訳ではないが、フリージア王国が同盟国だと共和国はこの国に手を出し辛い。共和国はこの国とフリージア王国に挟まれているから。
神聖国は医療分野で力を持っているだけで、軍事面は弱い。そうなると残るは帝国だけになるから、ビーツ王国が同盟国なら最低でも三国を相手にしなくてはいけない。
今回俺は具体的なことはあまりアドバイスしていない。こういうことは自分たちで考えるべきだし、賢者候補も見習いもそういう思考力はもう見についている。
「お父様、わたくしも宰相様のいう事が正解だと思います」
「確かにな。お転婆娘のマーサがこんなことが言えるように成るとは……」
「酷いですわ、わたくしも一国の姫として此処で学んでいるのですよ」
賢者候補も見習いもここでの学びで、論理的に物事を考えたり、視野を広く出来るようになっている。
「ビーツ王国、フリージア王国には医者も派遣するから、同盟の話はしやすいだろう。それにこの二か国の留学生は問題も起こしていないからな」
「それはユウマも言っていました。問題を起こさないという事はその国の上層部が、真剣に国の事を考えているからだと」
真剣なのは何処の国も同じだろうが、その事に対する臨み方というか、謙虚さが分かるという事。
「そうだな。教えてもらうのに謙虚さがないのは頂けないな」
「スローン陛下、そういう国には技術も生産品も渡さなければ良いのです」
「スーザンよ、そう熱くなる出ない。お前の悪い癖だぞ」
スーザンは本当にこういう事には気が短いというか極端だ。
「国際的には同盟を模索するというのが良いようだな。それは良いとして今回の会議ではもう一つ聞きたいことがあるのだ」
スローン王が聞きたいことは、報告で上がってくる内容が理解できないからだ。
「恥を忍んで言うが、今まで国はいつも後手に回っているし、主導が国ではなくラロックになっている事をどうにかしたいのだ」
「そうです。いくら学校や病院が国営だとしても、中心が此処であることには代わりがないから、対応が遅れるのです」
これは俺も病院機能を王都に移すという計画をしているから、カルロスの言っていることは当然だと思う。
「それもユウマが言っていましたね。そろそろすべての運営を国主導にするべきだと。学校の教師も育っていますし、病院も医師が誕生しましたから、病院機能は王都に移転して、学校も職業科は各領地で教育できるようにした方が良いと」
「それでは此処はどうするのかね?」
「此処は全て研究施設にして、留学生などは王都の施設で受け入れるようにした方が良いと言っていました」
現状だとどうしてもラロック、ゾイド辺境伯領、グラン商会が中心になっているから、王都中心に変えようということ。
特許制度も出来たし、医療分野も医者が誕生したことで、教会の力も削いだ。それにこの世界の基本的な弟子制度もこの国では崩壊し、新しい弟子制度が生まれているから、この先は国が中心になって進めても何も問題がない。
小学校まで試験運用が始まったから、この国の教育システムも形が出来た。
全ての面でこの国は基礎が出来たのだ……。
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