第181話 二人の王
俺達が森の家で世の中に出せない物を作っている時、ラロックに二人の王がやって来た。
今回初めて来る、グーテル王国の国王、ドラン・グーテル。ちなみにエスペランス王国の国王はスローン・エスペランス。ついでに関りが深い、宰相のカルロスはカルロス・フラントと言います。
「ようこそおいで下さいました。出来る限りのおもてなしをさせていただきますので、ごゆるりと静養されてください」
「この度も世話になるぞグランよ。此処の温泉は体を休めるのにこの上なく極上なのでな」
「グラン、こちらの方がグーテル王国の国王、ドラン様じゃ。失礼のないようにな」
カルロスがドラン国王を紹介したその時。
「ドラン国王、ご無沙汰しております。この度はスローン王と共に是非我が家に御逗留されて静養していただけると幸いです」
「ルドルフよ、堅苦しいの。引退したんだから、従弟同士気楽に行こうではないか」
「しかし、国王はまだ現役ですのでそうはいきません」
従弟同士で子供の頃は名前で呼び合っていたぐらいの関係だが、お互いに国王と公爵という立場になってからは、名前で呼ぶことはなくなっていた。
今回は国王が二人いたからドラン国王と呼んだが、普段なら王か陛下と呼んでいる。
「グランよ、この度はこの拠点での滞在ではないのか?」
「はい、今回はミュラー様のお屋敷の方が此処よりゆっくりと御寛ぎ出来ると思いそうさせて頂きました」
屋敷を見せるのをどうしようかと相談した時に、どうせバレるから初めに見せてしまった方が良いだろうと、グランとお義父さんから提案されたのこうなった。
「ルドルフよ、もうこちらに屋敷があるのか?」
「はい、娘婿が頑張って作ってくれました」
「娘婿という事は、あの御仁か? それは楽しみじゃのう。どんな屋敷なのか?」
これも誰が作ったか先手を打って教えることにした。後から根ほり聞かれるより、聞かれることが少なくなるだろうという目論見だ。
俺はあの御仁と言われるぐらいに、異質だと思われているから、それを最大限利用する。俺が国との距離を取りたがっているのは周知の事だから、無理強いを出来なくする意味もある。
「では、両陛下ご案内いたします」
馬車で、二人の国王とカルロス、護衛が数人と御つきの従者が数人お義父さんの案内で屋敷に向かった。
「ちょ、ちょっと待つのだ! あそこがルドルフ殿の屋敷か?」
「る、ルドルフ! あそこは砦だろう?」
「あぁ~ またか……」
初めの言葉がスローン国王、次がドラン国王、最後がカルロス。三者三様である。
「はい、あそこがわたくしの屋敷です。魔境の森に面していますので、守りは強固に出来ています」
守りは強固とか言っているが、開拓が進んでいるし、最近は学校の冒険科の生徒や冒険者、お義父さん、お義父さんの所の騎士が頻繁に魔物討伐をしてるので、殆ど危険はない。
どちらかというと、魔物の方が危険だと寄り付かない程だ……。
屋敷の囲いが見えただけでこの驚きようだったが、門が開いて敷地が見えたら、今度は誰も言葉にすることがないくらい驚いていた。
門が開けば、一面よく手入れされた庭が広がり、屋敷の入り口の前には噴水があり、屋敷自体も規模は王宮には届かないが、見た目の豪華さは上回っていた。
当然だよね。王宮は木造だけど、この屋敷は土魔法とレンガで出来ているし、表面もモルタルもどきで塗られているから、前世のバッキンガム宮殿の縮小版に見える。
これが合ってるかは分からないが、昭和の時代の二階建ての木造の学校に近いのが、この世界の王宮の建物らしい。
「こんなことだと思いました。あの御仁が建てたのなら……」
カルロスは悟っていたかのようにそう呟いた。カルロスは病院なども知っているので、木造の建物ではない事にはそう驚かなかったが、見た目が病院とは違って豪華だったから見て直ぐには言葉に出来なかった。
「「ルドルフ、ルドルフ殿、わしも、わたしもこの屋敷が欲しいぞ」」
二人の国王が同時に同じ言葉を発した。
「その事は後程ゆっくりと御伺い致しますので、先ずは屋敷の中へ」
外観だけでこのありさまだ、これが屋敷の中を見ればどうなるか? これは前もって予測で来ていたので、事前に質問や要望は全てを見せてからすると決めていた。
俺が森の家で良くやっていた方法。いちいち質問に答えていたら先に進まないので、全部終わってからまとめて質問させるようにしたのと同じ。
案の定、屋敷の中に入ってからも、家具や風呂、魔道具などに驚いて中々案内が終わらなかった。
「これはどういうことだ? ルドルフ! お前だけズルいぞ!」
「そうだ! わしの国に住んでいるのに、わしより良い家に住むなど許しがたい」
「あの風呂はもしや温泉ではないでしょうな?」
そのもしやである。初めは魔道具だったのだが、暇を見つけて温泉を引いてきている。勿論、騎士や従者の共同浴場もね。
「それにダンスホールの照明は何です? ガラスで出来ているようですが、これも魔道具ですよね。それに家具もこれ魔境の木材でしょう。そして最後が井戸についているあの装置、確か特許が登録されてまだ日が浅いはず」
カルロスの嫌味というか、嫉妬というか色んな気持ちが込められた言葉がさく裂した。
「それもそうだが、この屋敷の明るさ、どれだけのガラス窓があるのだ。ルドルフお前の手紙にはこんな事何も書かれていなかったぞ」
書けるわけないじゃんね。この世界の最先端の屋敷だよ。世界中に此処だけしか無い建物。俺の家を除いてだけど……。
「グランがこの屋敷で逗留しろと言った意味が分かったぞ」
別にグランが言ったわけではないのだが、スローン王にとってはグランが決めたようになっている。
その後も質問なのか何なのか分からない言葉を投げかけられ続けたが、結果的に予想通りの注文がされた。
「是非、王宮も建てて欲しいのだが、あの御仁に頼めるか?」
「ルドルフよ、娘婿に頼んではくれまいか」
「わたくしは是非あのシャンデリアという魔道具が欲しいのですが、何処に注文すればよいのでしょうか?」
一通り要望を聞いた後に、事前に決めていた答えをお義父さんが両国王とカルロスに説明した。
国として土魔法士を雇って此処に送って貰って、建築に関する魔法を習得して貰う事。左官職人もスキル持ちを探して国で雇う。レンガが普及してきたので、スキル持ちもそれなりに現れている。
どうしても早く作りたいなら、国境の交易所に派遣されている、土魔法士の所に研修に行かせるのも一つの手段だと教えた。
特許の法律が改正されたから、新種の属性魔法の登録も近いうちにするから、それで研修しても良いだろうと伝えた。 イメージは難しいから登録された内容だけでは時間が掛かるだろうが……。
シャンデリアの魔道具はガラス職人に外観だけ注文すれば、俺が魔道具にして送ると約束した。勿論これも、魔方陣は登録されるから、自分で職人に頼んで作ることも出来ると教えた。
「ルドルフ殿、ここまで用意周到に準備されていたという事は、あの御仁の考えですよね」
「娘婿は多分こうなるだろうと言って、どう対処するか決めていました」
「そう言えば、その張本人は何処にいるのです?」
当然その質問は来るだろうと思っていたので、これも答えを準備している。
「彼は今私の娘と魔境の自分の家に帰っています。やることがあると言って」
「なに、サラも一緒にか? サラの元気な姿を見たかったのだがな」
「どうしてもあの御仁は私達と会いたくないのだな」
「そのようです。ですが貴族や王族が嫌いというより、現役の貴族の当主や王を避けているように思いますよ、陛下」
まぁ実際、貴族の学生とは会っているし、グーテル王国の王女とも会ってるからね。
「その件ですが、本人から伝言があります。サラとの結婚もありますから、今後も自由を保障していただけるのなら結婚式でお会いしましょうと言っていました」
年貢の納め時だよね。好きになった人が王族なんだからしょうがない。誰かに強制されたわけでもないんだから……。
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