第120話 大使視察

 俺が魔境の家で物作りや魔法の研究をしている頃、各国大使のゾイド辺境伯領の視察が始まっていた。


 視察の順路は最悪で、辺境伯領の各地を周った後、領都、ラロックが最後という順路。


 最後と言う事は時間が一番取れると言う事、次が無いのだから。


 まぁ帰る日程は決まっているだろうから、無制限と言う事はないだろうが、それでも期間延長なんていう事も無きにしも非ず。


 今回の視察で大使たちは何が目的なのか? これが読めないんだよね。


 現状新規で研究してる物はあるにはあるけど、発明というより応用や改良に分類される物だから、見られても大きな問題ではない。


 強いてあげるなら、学校や医者の教育システムぐらいかな?


 元々この世界には貴族の学校はあってもそれ以外は無いので、教育システムといえるものが存在しない。


 それがスキルの発現に特化した学校や医者という新しい職業の養成施設が出来たことで、この国は大きく変わろうとしている。


 他国の全てを知っているわけではないので、確実ではないがどこの国も以前のこの国と似たり寄ったりらしい。


 だから今まで争いも無かったのかもしれない。


 極端な言い方をすれば競争社会ではないということ。


 封建社会が確立されていて、尚且つそれが産業分野にまで浸透しているから今までは下剋上が起きなかった。


 それが学校という産業界の封建制度を破壊する存在が生まれたことで、この国は変わって来た。


 この世界にとってスキルはこの世界の構成要素なんだから、スキルに関係することに変化が起きれば色々な事に影響する。


 その変化をこの国に滞在する大使たちは肌で感じているのだろう。


 そして今日視察団がラロックにやって来る。領都の視察ではかなり騒がしかったらしい。


 王都なら理解できるが、この辺境の都市にレンガの城壁が建設されているのだから驚愕もするだろう。


 それに景気の良い辺境伯領の中でも領都とラロックは別格、仕事はあるのに人手がないという、慢性的な人手不足に成っているほど景気が良い。


 人手が足りないから他領から募集もするし、他領から仕事を求めてくる人もいるから、人口がどんどん増えている。


 これは辺境伯領だけのことではない、産業の発展にいち早く動いた領にも起きている。


 ついでに人の往来が増えた事による、ベビーブームの兆候も見え始めている。


 人口が増えれば国力も上がる。勿論、それには産業の発展も必要です。人口だけ増えて産業が発展しなければ、逆に飢餓などが起きて国力が低下する。


「父さんとうとう来ましたね、大丈夫でしょうか?」


「まぁユウマ君も言っていたがなるようになるさ、見られて拙い物はないんだから」


 特許という制度を無視しなければ何をどう見て自国に持ち帰ろうと問題ない。


 教育システムだろうが何だろうがね、世界全体の発展にはいずれは必要な物なんだから。


「グラン、今回もよろしく頼むぞ」


 そう言って来たのはカルロス、なんでいるんだよ、これは想定外。


 ゾイド辺境伯領の視察だから、ビクターがいるのは当然として、カルロスは来る必要ないだろう、役人で十分でしょ。


 ラロックに到着して、旅の疲れを癒すのに温泉銭湯に一行が行ってる間に、グランがビクターから聞いた話だと、以前揉めていたビーツ王国関係と学校の変化と病院と医者の養成など、ラロックが以前より変わってきているので再度視察に来たと言う事らしい。


 カルロスが来るのは極秘にされていたから、一番の理由はユウマに会いに来る事だったと思う。


 スーザンでさえ知らされていなかったから……。


 まぁ俺はどちらにしても逃亡という休暇を取っているので無駄足なのですが。


 視察団は拠点で宿泊するんですが、拠点や宿泊施設に案内してからが騒ぎに成った。


 先ずは拠点の城壁、こちらは規模は小さいと言えど完成している。まして施設すべてがレンガで出来ている。


 次に宿泊施設には豊富な魔道具が配置されていた。


 魔道具は売り出されていますが、まだまだ普及しきっていないのに、ここでは普通に全ての部屋や施設で使われているから驚きますよね。


 魔道具も輸出はされていますが、本当に少量で他国の王族や最高位の貴族位しか持っていない。それも数えるほどしかない。


 そして何よりこの施設が民間の物だということに一番驚いていた。


 学校や病院は形式上国立ですが作ったのはグラン商会。その事を夕食の時に説明された時、この日一番の悲鳴に近いさけびが食堂に響いた。


 その夜、宿泊施設の部屋でエスぺランス王国の両隣の国、ビーツ王国大使ソルトとザリウス帝国大使ピッケルが密談をしていた。


「ソルト殿、どう思った? まだ視察は終わっていないが辺境伯領は異常だ。特にこのラロックはな。私はそう感じたがどうです?」


「ピッケル殿、私もそう感じた。異常です」


「私はその異常をどうしたら良いか解らんのです。帝国には現状を報告するのは当然としても、その先をどうしたら良いのか」


「ピッケル殿、それは私も同じです。砂糖の輸出でエスぺランスと揉めた時もあっさりこちらにとって良い情報をもたらし、売りものでも無かった物を輸入するという変な行動に出るし、情報をただ本国に送っているだけで良いのか?」


「ただピッケル殿、分かったのはその異常の発信源が、ここラロックだと言う事は今日、分かりました」


「そうですね、間違いなくここです。帝国に報告することがまた一つ増えました」


「ピッケル殿、明日は学校と病院の視察でしたな、一体どんなところなんでしょうかね」


 大使二人は混乱していた。普通は色々と隠してくるのがどの国でも当たり前なんだが、この国は隠そうともしない。どうぞ見て下さいなんだ。


 これだと大使はただ見たものを報告するだけ、本当にそれだけで良いのか?


 後は本国の判断に任せるだけでいいのか?


 大使として他に出来る事は無いのか?


 出てくるのは疑問ばかり、答えがないのだ。




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