第150話 度量衡
結構な時間が経ったし、俺の腹の虫も鳴いているので、そろそろ昼食だろうと地下から出てみると、そこには疲れ果てた賢者候補たちがいた。
「皆さんどうしたの? 凄く疲れてるみたいだけど」
「あぁちょっと、色々とな……」
フランク達がこうなるのは予測できたけど、グーテル王国の人達がこうなるのは予測できなかった。
フランク達は多分質問攻めにあって、こうなっているんだろうが、あちらは何でだろう?
「ユウマさん、あれはどういうことですの?」
「マーサさん、あれと言われましても何のことだか分かりませんよ」
興奮してるのか、疲れているのか分からないが、マーサがそう言って詰め寄って来たので、俺はあれというのが何なのか聞き返した。
「あれとはあれですよ」
こりゃダメだ。会話にならない。仕方がないのでサラに聞いてみた。
「サラさん、何があったんです? マーサさんが言っているあれって何です?」
「マーサが言っているあれとは手術の事です」
手術? 手術の情報は大使の視察で広まっているはずだが?
「マーサさん、手術がどうかしました? 報告されていると思いますが」
「手術の事は知っていましたが、手術を目の前で見て驚いたこともそうですが、一番驚いたのはあのスリープという魔法です」
あぁ~~ そうかスリープやティムの魔法はまだ知られていなかったな。 この国の王宮魔法士と牧場関係者が知っているぐらいで、世間にはまだだった。
でも説明すれば理解するだろう? ここまで興奮する事でもないはず、それなのに何で?
「スリープという魔法は今まで知られている属性ではないそうじゃないですか。そんなことさらっと説明されて、はいそうですかにはなりませんよ」
そりゃそうか、新しい魔法というだけならそこまで驚かないが、属性というのは魔法の根本から違ってくるからな。ん? でもそれなら何で無属性の時はそうならなかったんだ?
マーサから話を聞くと、無属性の時も当然驚いたが、目の前で見ていないからそれ程でも無かったそうだ。
確かにお父さんも情報としては知っていただろうけど、目の前で見て魅了されたからな。身体強化に。脳筋だから……。
「それぐらいで驚いていてはこれから先身が持ちませんよ。 まだ見学は残っているんでしょ?」
「ま! まだあるんですか?」
「どこを見学されたか分かりませんが、まだ見学は残っているんでしょ?」
どうしようかな? 地下の見学もまだだし、度量衡の事も言わなければいけないんだけど、皆の身がもつかな?
「あの~~ ユウマさん、学校で教えている計算方法が素晴らしい事は聞いていたのですが、どうして役人が魔法を学んでいるんでしょう? まして冒険科にも元役人がいたんですが」
これまた至極まっとうな疑問だよね。役人が魔法? 冒険科? 普通そうなるよね。
「それについて説明は聞かれたんですよね? 納得できないでしょうが、あの人たちは魔法の虜になっているんですよ」
実際、あの人たちが学校に残って魔法を学びたいという理由で、冒険科を新設したんですから、そうとしかいいようがない。
その後も色々と質問というか、愚痴に近い事を言われた。見学前に説明はしておいたのにこれだ、やって置かなかったらとんでもないことになっていたな。
徐々に知識が増えるのは良いが、やっぱりいきなり大量は厳しいよね。こういうのキャパオーバーというのでしょう。
昼食の間、皆を観察していたけど、おいしい昼食なのに表情は疲れ切っているし、会話もほとんどない。
「午後の見学はどうします? 皆さん疲れ切っていますから、明日にしますか?」
「出来ましたらそうして貰えますか?」
マーサからそういう申し出あったので、俺もその方が良いと思い、今日の見学は中止した。
「それじゃ、午後からは自由行動にしましょう。ですがエスペランス王国の賢者候補は私と授業です」
「おい! ユウマ! 俺達も疲れているんだよ。休ませろ!」
「何を甘い事を言ってるんですか。先輩でしょ! 地下に全員集合です」
度量衡について早く決めないと、国際会議に間に合わなくなるので、ここはいつものように鬼畜モードです。
「疲れているでしょうが、重大発表がありますので、頑張ってください。もっと疲れると思いますが……」
「なんですか! そ、その不吉な言い方!」
鬼畜モード経験者のスーザンが俺にそういい返した。気持ちは分かるよ、でもね俺楽しいんですよ。 俺って、もしかしなくてもサディスト? 俺にこんな一面があったなんて、俺自身が驚いている。
「では、都合上止めることも出来ませんので、発表します」
俺は度量衡について説明した。その説明の最中流石は先輩たちです。驚くというより、度量衡の持つ意味について感心していたようでした。
「度量衡については良く分かりましたし、必要なものと言うのも理解できます。ですがそれと私達がどう関係するんです? 別に疲れるという程でもないようですが」
あま~~い、あまいよ、ニック君。 そんなに俺が甘いと思う。 今までなら原器を作るのは俺の仕事だったが、今回は違う。原器を作るのは君たちなのだ。
「え~と、度量衡については理解してもらったと思うんですが、この度量衡には基準が必要なんです。原器というものです。世界中の度量衡の基準ですね。それを今から皆さんに作ってもらいます」
「はぁ~~ そんな大事なものを俺達が作る? そういうのは国とかが作るもんだろう?」
「普通ならそうでしょうが、この国に度量衡の大事さを理解できる人がいると思いますか? 王様やカルロス様、ゾイド様あたりは理解できても、多分作る職人はいい加減ですよ。原器はそんな人が作っていいもんじゃないんですよ」
原器を作るのに1mmの狂いもないという表現はおかしいですが、正確に作らないといけないのは確かなんですよ。基準になるものがほんの少しでも反ったり曲がっていてはいけないし、端は垂直じゃないといけない。
原器の持つ意味を本当に理解していないと作れない物なのです。
「それじゃ、皆さん始めてください。鍛冶を勉強してる人が中心になってお願いしますね。ロイス……」
ロイスは最近というか、俺からミスリルの剣を使わされた時から、鍛冶に興味を持ち、ちょくちょく拠点の鍛冶職人のところに行って修行していた。そんな中、魔刀を貰った事で一層拍車が掛かり、最近は入り浸っていた。
「ユウマさん、お願いがあるんですが、聞いてもらえますか?」
どうしたんだろう? サラが急にそんなこと言うなんて。普段俺に頼み事とか殆どしない人が……。
「どんなお願いですか? 俺に出来る事なら何でも」
「えっと、私も……」
サラの願いは願ってもない話だった。俺が元からやりたかったことだから、二つ返事でOKした。
俺がやりたかったこと、俺の計画! サラと二人だけで森の俺の拠点に行くこと……。
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