第149話 谷底に落としてみるか?

 昨日の会議で賢者になるという事がどういうものか、うっすらとは分かって貰えたと思うから、今日は施設の見学をしながらそれを濃くして行って貰う。


 それでだ、今日は昨日夜遅くまで考えたことを実行しよう思う。それは今日の見学の全てをペアだけでやって貰おうと思っている。 ライオンが我が子を谷底に落として、試練を与えるように、俺は一切手出しをしないで、自分たちだけで全てをやって貰う。


 今まで俺が居なくなる時には事前に色んな準備をしてから、居なくなっていたから、その通りにやるだけだったから、自分で考えて行動することが殆どなかったので、これからは自立して貰うことにしたのだ。強制的に……。


「今日の見学には私は参加しませんし、何も言いませんから、ペアで全て決めて行動してください。それと申し訳ありませんが、今日もゴランさんはフランクさんのグループに入ってください」


「いきなりだなユウマ、まぁ考えがあっての事だろう? それならそれを俺たちはやるのみだ」


 お~~ フランクが成長してるよ。この前一人で王都に行ったことが、自信になってるのかな?


 それぞれのグループに分かれて、どういう順番で見学するかとかの話し合いが始まった。


 俺はそれを少し離れたところから、最近開発した身体強化の応用、聴覚の強化で聞いている。この他にも視力の強化、遠くを見る、暗みでも見えるようにする強化も修得している。


 実はこの時に、もう一つ開発してるんだけど、これは絶対に人には教えない。教えられるわけがない、もし教えたら俺は変態だと思われる。


 何でこういう事は出来ちゃうのかな? 物理に反してるだろう?


 魔法の世界だよ、そうだけどもさ、物理法則が基本なんだよ。それなのに、何でこういう事だけは物理に関係なく出来るのよ。


 ここまで言えば見当がついているでしょ。そう透視の強化魔法。


 強化って無属性の魔法だから、これにも魔法はイメージというのが当てはまる。そうすると、何でかこの透視も出来てしまう。中には世界が認めない魔法もあるけど、そういうのって多くが物理に反してるものに多いんだよ。


 透視の魔法も物理に反してるから、世界が認めないかと思いきや、しっかり出来てしまった。


 それも最上級の魔法が……。


 イメージと魔力の量を調節すると、服の透視から壁の透視まで自由自在。これはダメでしょ。女性に知られれば、変態まっしぐらだし、男性なら……、確実に怖い事になる。


 目の強化を教えたら、いつか誰かが作るよな? いや、耳の強化でも同じか、耳が出来るなら、目もと考えるよね。


 どうする? 強化魔法の応用なんだけど、これは封印するべきかな?


 何で世界は拒否しないんだよ? 物理に反してるだろうが。まさか神様の悪戯?


 結論は直ぐに出せそうにないので、当分は俺だけの特権という事で、公開しません。


 特権? いやいや違うからね。特権=チートという意味ですからね。 決して自分だけ楽しもうとは思っていませんよ。 誰に言い訳してるのか、心の中で良心と会話していたようだ。


 長い良心との会話が終わった俺は、皆の話の内容に特別いう事もなかったので、皆に断りをいれて、地下の研究室に向かった。



 谷底に落とす以上心を鬼にして、助言などは一切しないつもりなので、地下の入り口に鍵を掛けて、時間が来るまで接触を全て絶った。


 時間といつも言っているが、この世界の時間は教会の鐘の音や太陽の位置などで、習慣的に身についている感覚で判断してる。


 教会には日時計と水時計があるそうだ。これが驚いたことに、作られた物じゃなく、ダンジョンから出たものらしい。


 その使い道を調べたのかと思ったら、それも違って、当時世界最高の鑑定スキルを持っていた人が鑑定しただけだった。


 鑑定内容で二つの物が時間を計るものだと分かって、そこから少し調べて、使い方を確立したそうだ。


 言ってみればこれで時間の概念が生まれたという事みたい。時間もそうだがまだこの世界には統一された度量衡が存在しない。


 これも何とかしないとな。だからと言って全く無いという訳じゃないんだよ。ただ統一されていないということ。 国別だったり、領地ごとに違ったりしてる。


 賢者計画には必ず必要なものなんだよね。どんなものを作るにも度量衡は絶対に必要、それも統一された物が……。


 蒸留水は作っているから、これを基準に重さを決めるかな? それと同時にメートル法も造って度量衡を…… あ! ダメか! 貨幣を作る時の基準だけはあるんだったな。


 これだけは世界共通なんだよね。 そうすると先ずはこの基準を把握してからだな。


 グランに頼んでこの国の貨幣全てを用意して貰おう。出来れば周辺国のも欲しいけど全部は無理だよな?


 貨幣があれば、後は俺の鑑定EXで成分から配合まで全て分る。これが無くても度量衡は造れるけど、共通の物があるんだったら参考にはするべき。


 わぁどうしよう? 一人になるとこういう事考えてしまうんだよね。 本当に俺って自分で自分の首絞めているよね。 自分でやることを増やしまくっているんだから、自業自得。


 魔道具の研究を一時中断してもこれが優先だな。何で今まで思いつかなかったんだろう?


 全く無かったら気づいただろうが、一応基準はあったからな、長さに関しては。


 重さに関してはかなりいい加減だったけど、別段困ることがなかった。


 それに何と言っても俺の鑑定EXは前世の度量衡で表示されるからな。それとこの世界の基準が違っても、その誤差を考慮すればそう不便ではなかった。


 度量衡は地球基準で作ろう。大体1cmの長さを決めて、1cm×1cm×1cmの蒸留水を1gと決めよう。


 大体と言ってるけどそれも正確に出来る。鑑定で見れば1cmに調整できるから。


 メートル原器を作ればなんとかなりそうだから、鑑定EXの解析で原器に都合のいい金属を検索して、それで作ろう。 キログラム原器もあった方が良いのかな?


 賢者候補を谷底に落とすだけだったのに、俺も自分で自分を谷底に落としてるよ。


 一人で作るのも良いけど、ここは皆で作って、度量衡について一度に理解させるか?


 その方がこれからの事を考えると一番良いように思う。


 この度量衡は国際会議までに作り上げたいな。出来たらこれに時計の60進法も確立させたい。


 それには教会にある、水時計や日時計を研究する必要があるな。見せてはくれないだろうから、鐘の音を参考に自分で取りあえず水時計を作ってみるか。


 どんどん余計な仕事が増えて、俺の計画が一向に進められない……。

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