第148話 計画に移れない

「それじゃ、質問を受け付けます。質問のある方はどうぞ」


「はい! それじゃわたしから質問していいですか?」


「どうぞ、マーサさん」


「聞きたいことは沢山あるんですが、その中でも一番知りたいのが、どうして此処はこのように発展したんですか?」


 流石は王女だね、個別の疑問より発展の原点が知りたいと思ったんだね。確かにそれが研究や改良の思考の原点でもあるから、マーサの質問は物凄く的を得ている。


「ユウマこの質問に答えるにはお前との出会いを話さないといけないけどいいのか?」


 あ! そうか俺とフランクの出会いをそのまま普通に話してしまうと、俺の架空の身分、旅の薬師の弟子という設定が嘘だとバレてしまう!


 ここは腹を括るか、今回までは問題ないだろう。俺が直接関わるのは今回を最後にするつもりだから、まぁいいでしょう。


「いいですよ。但し皆さんには守秘義務は守ってもらいます。もし情報漏洩したらこのメンバーからも外れてもらいますし、国に帰ってもらいます」


「そうだな、ここに来るような人達だ、信用は置けるだろう。ではユウマの許可も出たのでお話します。発展の始まりは私とユウマの出会いから始まっています。それは今から5年ま……」


 フランクは俺とロイスしか知らないことを抜きにして、俺との出会いから今日までの事を話した。飛行船やミスリルの剣のことなどはまだ話せないからね。


 ミランダ達でも知らないことがあったから、どちらのメンバーも驚いたり、不思議がったりと、色々な表情でフランクの話に聞き入っていた。


「はい! 質問です!」


 今度は商人のミレーヌが質問してきた。この人の質問はちょっと怖いな、何を聞いてくるんだろう? 


「発展の切っ掛けがユウマさんという事は分かったんですが、どうしてユウマさんはそんな知識があったんですか?」


 ヤッパリか~~ この人怖いと思っていたのが的中したよ。そこは聞いて欲しくない事、ナンバーワンだよ。


 旅の薬師の弟子という設定が無くなれば当然そうなるよね。確かに俺の周りに長くいる人達はそこの部分は何故か完全スルーだったんだよね。


 大きな理由は自分たちに利益がある事だから、下手に聞いて俺に逃げられたりされるより、俺が嫌がるだろうことは聞かないというのが暗黙のルールになっていたんだと思う。


 よし! ここはあの設定で行くか!


「それはですね、信じて貰えないでしょうが、私は時々夢を見るんですよ。子供のころからずっと。その夢の中で知った知識を実際にやってみたら色々と出来るようになったので、それを続けているだけです」


「夢ですか? そんなことがあるんでしょうか?」


 この人まだ疑ってるよ。確かに荒唐無稽な話だけど、転移者というより真実味はあると思うんだけどな……。


「信じられないのも無理はないですが、私にはそう答えるしかないです」


 ここはこれで押し切る。お互いに証明も否定も出来ないんだから、これ以上は突っ込みようがないだろう。何とかこれで引いてくれ!


「それじゃ、ユウマさんの夢に出てくる物って他にもあるんですか?」


 そうきたか~~ この人スーザンと似てるけどそれどころじゃないな。何枚も上手だ。


「聞きたいですか? 聞くともう後戻りは出来なくなりますよ」


 これは冗談ではない。本当にこれ以上の情報を知れば、国や世界から逃げられなくなる。オーバーテクノロジーばかりだからね。


 まぁ俺も話す必要もないからこんな言い方をせず、今はないけど今後見るかもで濁しておけば良かったのですが、この人は本当に頭も回るし勘も良さそうだから、中途半端は後で辻褄が合わなくなりそうなので、こう答えた。


「う~~ん、それじゃ今は止めておきます。でも聞きたくなったらまた質問します」


 この人本当に怖い……。 絶対油断できない、下手すると転移者だという事まで話さなけれいけなくなるかも。


「他に質問はありますか?」


 そこからは極普通の質問が多くされた。グーテル王国側の人達からすれば、話には聞いているが、学校や病院でやっていることはとてもじゃないが信じられることじゃない。


 だから、事細かに質問してくる。その質問内容によってフランクが回答者を指名して、答えさせていく。


「色んな質問に対して回答されましたが、それでも納得できないと思います。その疑問は明日の見学の時に解消されますからお待ちください」


「では、ここからは私が質問をしていきます。初めに私のペアのゴランさんに質問します。ゴランさんは鍛冶師ですが、ベアリングについてはご存じですよね?」


「はい、知っています」


「そのベアリングですが何に使っていますか?」


「何と言われましても、馬車の車軸にですが」


 あれ? グーテル王国にはリヤカーも滑車も伝わっていないの?


「リヤカーとか滑車には使っていなんですか?」


「え! それは初耳です」


 これは、なんということでしょうのセリフが出てきそうになったよ。なんで伝わっていないんだ? 


 そうかこれ、特許がこの国の管轄だからだ。窓口は商業ギルドだけど、特許自体は国が管理しているから、国外には出ない。他国の人はこの国に来て特許の開示を請求しないといけないし、その人は知ることが出来てもそれを人に教えてはいけないから、他国では広まらない。


 これは例の噂の国際会議を早急にやって貰って、特許制度を国際制度にしてもう必要があるな。


「初耳ならしょうがないですね。今この国ではベアリングは馬車以外にも使われています。これが今回の議題である研究と改良に関係してくるんです」


「それって、ベアリングはもっと他にも使えるという事でしょうか?」


 お! この人もう、そこに気づくか。


「その通りです。良く気づきましたね。ではゴランさんは何に使えると思います?」


「考えてみましたが、分かりません」


「それで普通です。では何故? この国でリヤカーや滑車に使われるようになったかを考えてみます。この二つに共通することは何でしょう?」


 これで気づくかな? これで分かったらこの人はそうとう思考が柔軟だ。


「う~~ん、もしかして回転するものでしょうか?」


 お~~ この人凄い! 答えを導き出すのが早い。フランク何て5年掛かったのに。


 あれ? これって賢者見習でいいのか? 思考力はあるけど知識はまだないから、一応見習いで良いよね。


 フランクたち大丈夫かな、直ぐに追い抜かれないよね……。


「そうです大正解! 回転するものこれが基本です。この基本を研究することで、新たな使い道が生まれるんです。滑車を作ったのはここの学校の卒業生ですよ」


「ほ! 本当ですか? ここの卒業生という事はまだ20歳にもなっていない人ですよね」


 ついでなので、移動店舗の話なども教えてあげると、みんな感心していた。


「このように一つの物が研究、改良、応用されると、物凄く作れるものが増えるでしょ。その為には多くの知識が必要だし、それを思いつく思考力が必要になります。それを皆さんに身に着けてもらいたいんです」


「だから自分は鍛冶師だから鍛冶の知識だけあれば良いとか思わないようにしてください。皆さんでいろんな知識を共有してください。それが賢者になるということです」


 賢者計画は順調なんだけど、俺の計画はいつ実行に移せるんだろう……。






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