第151話 二人で
度量衡の原器の製作が開始され、出来たものを俺の鑑定で確認し、何度も作り直して、漸く完成した。1mの原器。
次はこの原器を使って10cm×10cm×10cmの箱を作って貰う。本当は1cmと言いたいところですが、流石にこのメンバーではその大きさは作れないでしょうから、10cmにしました。
出来たものに入る液体の量を1リットルと決めます。
その箱に純水を入れて、天秤を使って、同じ重さになるように錆びにくい金属で錘を作ります。
出来たものが1㎏と決めます。
こんな感じでどんどん出来るだけ小さなものを作ったり、目盛りを使って細分化していきます。
初めは純水に近いものを作ろうと複式蒸留で作りましたが、よく考えるとこの世界には錬金術で分離できることを思い出し、錬成陣を使って、純水を作りました。
ここが魔法のある世界の錬金術と前世の錬金術との違いですね。ビーカーの中の水を純水にするというイメージで出来てしまう。不純物はどこに消えるのか?
あれ? これってもしかして……。 やばい事に気づいたかも……。
まぁ実際にやってみない事には分からんよね? それにしても何で今頃なんだよ、やっぱり前世の知識や常識が邪魔するんだろうな。どうしよう? 今は良いか? 森の拠点に帰ってから、実験すれば……。
結局、その日のうちには原器は完成しなかった。当然だよねそう簡単に作れたら苦労しない。1mの原器が出来ただけでも凄いよ。
翌日も午前中は見学に時間を使い、午後から賢者候補は原器作りをやって貰う。
見習いの人達は午後からの時間を使って、冒険科に同行してレベル上げをしてもらう。 今後レベル上げは必須になるから、時間のあるうちに少しでも上げて、近いうちに来る、鬼畜のパワーレベリングに備えさせる。
そんな毎日を一週間ほど続けた結果、漸く原器や錘などが完成した。
勿論、原器は持ち出せないので、それと同等の物はいくつか作らせている。そうしないと世界に統一した度量衡を広められないからね。
さて此処からは、グランの出番なんだけど、グランだけでは今回は厳しいよね。統一した度量衡の必要性を説明しなくてはいけないし、原器についても説明しないといけない。
よし! 今回はスーザンとロイスにグランに同行して貰おう。スーザンは学校などの責任者で貴族だし、ロイスは今回原器を作ったメンバーの中心人物だからな。
「え~~ ちょっと待って下さいよ。 何でフランク様じゃないんですか? 私はただの使用人ですよ」
「そうだね、使用人だよね。従業員ではなく使用人。もうフランクさんの店とは全く関係ないよね。グラン商会の普通の従業員でもないよね。給料は確かにグラン商会から出ているけど、商売は全くしていないでしょ」
ロイスの立ち位置はグラン商会の一員だけど、俺の弟子でもある。だから今回はその弟子の立場で行ってもらう。
「諦めろロイス、俺だって嫌だったけど王都まで行ったんだぞ。良い経験になるさ、だから勉強のつもりで頑張ってこい、どこまで行くことになるかは分からんが……」
わぁ~ フランクが根に持ってるよ。前回の王都行きを皆が助けてくれなかったから。
まぁフランクの言う通り、どこまで行くかは未定だ。ビクターのところで終わるかもしれないし、フランク同様王都まで行くかもしれない。
もしかしたら、本当に偶然が重なったらだけど、最悪もあるかも?
最悪とはロイスが王都に行く時期と国際会議の開催が近かったら、そのまま国際会議に連れていかれる可能性があるということ……。
スーザンは学校と病院の責任者だし、両方の事に詳しい。それにロイスは度量衡。国際会議の議題は特許と医療分野、それに度量衡まで加わればこの二人が適任、あり得る話なんだよな。
俺としては実はそうなって欲しいと思っている。なぜなら賢者候補が今のうちに表舞台に立ってくれたら、俺の存在感が薄れるから……。 すまんなみんな。
そうと決まればグランに事情説明、そうなると当然いつものパターンでビクターに報告に行くことになり、ロイスとスーザンは取り決め通りグランに同行した。
「ローズさん、ちょっと頼みがあるんだけどいいかな?」
「え~~ ユウマさんの頼みですか? なんか嫌な予感しかしないんですが、一応聞くだけ聞きますよ」
こいつ最近遠慮が無くなったな。鬼畜レベリングから特にそうなったな。まぁ気楽に俺に返事すると酷い目に合うと認識したんだろうな。前回は只の付き添いのつもりがあれだったからな。 痛い目に会えば人は成長するからな。
「明後日から俺はサラさんを連れて、森の拠点に15日ほど帰ろうと思っているんですよ。それでその間にフランクさんと協力して、見習い達に基礎的な知識を教えてもらいたいんです」
「サラさんと二人きりで? まぁ婚約者ですから良いですけど、お暑いですね。でも基礎の知識って何を教えたら良いんです?」
そこも今回の試練、何をどう教えるのか? それを自分たちで決めて実行して貰う。
今回が初めてだから、最初から上手くいくとは思っていない。でもこういう事を経験することで、人に教えることを学べる。
「何をどう教えるのかもみんなで考えてください。決まりはありません、自由にやってください」
「無茶ぶりですね。まぁやれと言われればやりますけど、後から文句言わないでくださいよ」
「嫌、文句は言いますよ。文句というより指導はします。反省会も兼ねてね」
ローズは物凄く嫌そうな顔をしていたが、しぶしぶ了解してくれた。
さて、今回は何の準備も必要ないので、帰ってきてからのお父さんたちの屋敷作りに必要な、俺が準備するのに面倒なものだけ注文して置いた。
「サラさん、準備は良いですか?」
「はい、必要なもは着替えぐらいですから問題ないです」
俺の拠点には何でも揃っているから、サラの言うように着替えさえあれば何の問題もない。強いて言えば心の準備かな?
初めての二人旅だし、拠点でも二人きりだからね。お互いに緊張すると思うから、心の準備は必要だと思う。本当は俺の方が緊張してるんだよ。それを誤魔化すために、サラに質問したんだ。
前世の俺は恋愛経験皆無、女性と二人きりでデートすらしたことがない。
すみません、嘘です。グループでもしたことありません。会社の飲み会が全てです……。
「サラさん、嫌だったらしょうがないですが、拠点までかなりありますから、俺におんぶされて行きませんか?」
「ユウマさんが大変でなければ、よろしくお願いします」
お姫様だっこも検討したが、いきなりそれは俺の方が厳しかったので、おんぶにした。小心者だからね、元々俺は……。
良く考えると、スーザンの時は平気でお姫様だっこ提案してたな? やはりそこは恋愛対象とそうでないかなんだろうな。
スーザンも話さないと相当美人なんだけどな。正体を知っていると、こうも人というのはあからさまに態度が違ってくるんだな。
スーザンは前世でいう、残念美人という人です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます