第312話 建国って大変

「それではそういう事で決まりだな。国王が決まらないと何も進まなかったから、これで一安心だ。実際、同盟の調印も土地の割譲も国王のサインがないと正式なものにならないからな」


「私が国王に成るのは良いのですが、今私が持っている爵位はどうします? 返上した方が良いのでしょうか?」


「そこなんだが、これまで通りという事にしておいて貰えないだろうか?」


 ん? 何か含みのある言い方だな。俺は王に成るのに、爵位も持っていろ?


「どういう事です?」


「それは、非常に申し訳ない事なんだが、体裁の為だ。こう言ったらなんだがユートピアは小国だから、そこと対等という事には出来ないのだ。表面上だけでもな」


 あぁ~~、そういうことか。実情は対等な関係だけど、同盟国以外から見て対等であってはならないという事なんだな。だから俺の爵位はそのままの方が良いという事だ……。まぁ考えようによっては、エスペランスとグーテルが盾に成ってくれるという事でもあるからこの方が良いか。


 卑怯な手だが、王の立場と伯爵の立場を使い分けられるから、これも使いようだよな。丸投げしたいような案件の時は伯爵の立場を使えば良い事だし、その逆のような時は王として拒否が出来る。


「それは理解できますので問題ないです。どの道これからもエスペランス王国とグーテル王国とは今までとそう変わらない関係ですから」


「理解してくれて助かる。ただ、書面上もそうでない部分も対外的では無い所は対等な同盟関係だから、そこは安心してくれ」


 国同士の関係はこれでいいとしても、大賢者と賢者の関係からするともっと複雑になるから、対外的にユートピアがどう見られるかは分からないな……。大賢者の俺は王、賢者は一人を除いて全員それぞれの国の男爵だし、その除かれた一人は王女だから物凄く複雑。


「話は変わりますが、例の神聖国に加担していた貴族はどうなりました?」


「あの貴族なら爵位を剥奪して国外追放にしたよ。罪状としてはある意味国家反逆罪なんだが、命を取るところまでの犯罪ではないと判断したのと、神聖国への配慮と意趣返しだな。信者を殺したとなれば良くも悪くも世界中にいる信者の心象が悪くなるし、国外追放先が神聖国なら、神聖国が黒幕だと世界に言ってるのと同じだからな」


 お~~、中々の判断だな。こういう所は俺にはまだ出来ないな。これこそまさに政治と外交の見本のようだ。国同士の同盟の形式的体裁や外交的判断を俺もこれから学んでいかなければいけないな。貴族ならそういう教育を受けているんだろうが、俺みたいな前世を含めても庶民ではこういう高度な駆け引きはまだ出来ない。


「話を戻しますが、建国ってどうやるんですか?」


 物凄く間抜けな質問のようだけど、庶民には建国なんていう知識は無いし、前世とこの世界ではやり方も違うだろうから、ここは聞いておかないと困る。


「そうだね、そこは当然の疑問だ。だけど私もこうするとははっきり答えられない。なぜなら、資料が殆ど残っていないんだ」


 そういえば、以前ゾイドの領都の図書館で読んだ本にも建国の事が書かれた物は一部を除いてなかった。国の秘蔵する物になら少しはあるのかもしれないが、この世界に国が出来た時に記録する物がなければ、口伝になる。それだって真面に伝わっているかも分からないから、後日書かれた物があっても全ては信用できない。


「それなら、自分の思うようにやっても問題ないという事ですよね。ただ最低限世界に対して建国宣言だけすれば……」


「まぁそうだね。対外的に宣言さえすれば、後はどういう建国の仕方でも問題ない」


 しかし、そうなると人材が問題になるな。如何にユートピアが小国でも国として運営するなら、組織も作らないといけないから人がいる。特に役人だな……。兵士は図らずももう作り始めているから、何とかなるだろうが、役人はそういう知識がないといけないから、今すぐとなれば無理だ。元役人のロベルトにユートピアの住民代表のロベルトを教育して貰うか?


 でも一人教育したぐらいじゃ駄目だから、副代表の二人もやらないと駄目だな。それと俺の作る国はどういう物にするかも決めないといけない。


 王制の国というのは決まりだが、現状貴族がいないのだから、貴族を作る? それとも貴族は作らないで選挙で個別の集団の代表者選ばせて、交代のある議会のようなものを作るというのも有りかな?


 軽い咳払いの後、サラが、


「あなた、またブツブツ言っていますよ」


「あ! ごめん」


「建国となれば、やることが山ほどあるので、そうなって当然だ」


「そうなんですよね。今少し考えただけでも組織作りに、法律、税制度、それを運用する役人……。本当に色々ありますね」


「ユウマ、その辺はユートピアに戻ってから考えれば良い事なんじゃないか? 一人で考えるより、色んな意見を聞いて決めて行けばいいと思うぞ」


「そうだね。ユウマ君、そういう物はひとつずつゆっくり考えるものだから、急ぐ必要はない。それに後発国なんだから、既存の国の制度や法律も参考に出来る」


 本当に皆の言う通りだ。急いで良い事など何一つない。王さえ決まっていれば、後はゆっくりで良い。


 国作りって本当に大変だな……。


「それでは私はこの事を陛下に報告に戻るが、他に何か伝える事はあるかね?」


 これで終わりなのは良いけど一緒に来ているのにビクターが一言も喋らないのが不気味だな……。


「報告することは沢山ありますが、聞くとまた忙しくなりますけど良いですか?」


「また怖い事を言うね。結婚式からたった何か月だよ、そんな短期間に何があった?」


 隠してもしょうがないから、全部話した方が気が楽なんだが、さてどうしよう? 自分で言っておきながら躊躇してしまうな。


「それほど多くの事があったのかね。前回の報告だけでもまだ理解が追い付いていないのに……」


 あれ? 今まで喋らないから不気味だと思っていたビクターが急に話しかけてきた。


「そうですね。発見やら色々ありましたね」


「そんなにか……。それならそれを直に見せてくれないか? 私をユートピアに連れて行ってくれ!」


 な! 何を言い出すのかなこの人は、辺境伯が動くことじゃないだろう? ほら見ろビクターがそんな事言うから、カルロスの目の色が変わったぞ。


「ビクター殿その抜け駆けは看過できんな。それが可能なら私も行くぞ」


 いやいや、待て! 待て! まだビクターを連れて行くとも言っていないのに、自分も行けると思っているのか?


「なんで急に二人ともユートピアに行くことに成っているんですか?特にカルロス様は国王に報告があるでしょ」


「それなら問題ない陛下にはクルンバで報告を入れれば済むからな」


 そんな簡単に済むなら俺達もそれで良かったんじゃないか? まぁ確かに国の建国という大きな話だから、手紙だけとはいかないのも理解は出来るが、何となくこの場では納得できない気持ちだった。


 それにしてもビクターはどうしたんだ? これまでこんなに積極的に俺達に絡んでくることは無かった。どちらかと言えば一方的にこちらが絡んだり利用させて貰っていた方なのに……。


「ビクター様、どうして急にユートピアに行きたくなったんですか?」


「それはな……、正直に言って退屈なんだよ。少し前まではもう勘弁してくれと思う程に色んなことが次から次と起こっていたのに、今は全くない。ラロックを始めとして、辺境伯領は物凄く発展したが、今はその変化も鈍化していて刺激が無いのだ。そんな折、グランが新酒作りの為にユートピアに行くという話を聞いたら、居ても立っても居られなくなって、カルロス様が此処に来るというのに便乗させてもらってここに付いて来て、あわよくば君たちに連れって行ってもらおうと思ったんだ」


 今まで感情を無理やり抑えていたかのように、一気に自分の気持ちと希望を俺達にビクターは捲し立てた。これが魔道具に目がないカルロスならまだ理解出来るんだが、ビクターだから余計に俺は反応に困ったよ。それはビクターを良く知るフランクも同様で、あまりの変貌ぶりにポカンとして何も言えないという顔をしていた。


 国作りの話も終わって後は二三日ここに滞在して温泉に浸かったり、孤児たちの様子を見たりしながらのんびりするつもりが、俺の報告発言から始まって何も報告していないのに、こんなことに成っている。


 どうしたら良いんだ? 連れて行く事自体は問題ないが果たしてそれで良いのか? 後から何か問題にならないか? 好奇心旺盛なこの国の王は僻まないか? ここに着いた時のシャーロットの態度から家族を差し置いてまたビクター達だけ連れて行って良いのか……?


 俺は一瞬にして大量な色んな疑問が浮かんで、頭が混乱してしまった……。




















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