第311話 ユートピア建国
夫婦の会話とは思えない話ばかりをしていた旅も終わり、魔境の俺の家に夕方到着した。到着が夕方という事もあり、その日は久しぶりに自分の家で休息をとって、翌日ラロックに皆で向かった。
四人の中で一番レベルの低いお義父さんのペースに合わせたので、朝早く出発して身体強化で走っても、ラロックに到着したのはお昼を過ぎて夕方に成る寸前でした。
「お義父さん疲れたでしょ。日頃こんなに走ることも無いでしょうから」
「そうだな。これはいかんと実感したよ。自分では日頃から体は鍛えているつもりだったが、長時間走るという事はしてこなかったから、持久力が全くないな。だからこれからは騎士の訓練にも持久走を取り入れることにするつもりだ」
お義父さんの言葉を聞いて俺も思ったのだが、この世界の人って体力を付ける為に走るという事をしていない事に気が付いた。体を鍛える=剣術や槍術で基礎訓練のような事を殆どしていない。これもレベル制の弊害なのかもしれない。魔物を倒してレベルが上がれば、HPも数値も上がるから力や体力が訓練しなくても上昇する。
ん? これって本を読んだりして知識を付けるとレベル上昇の時にその系統の数値があがりやすいのと同様に、日頃から基礎訓練をしていたらレベル上昇の時の数値の伸び率が変わったりしないかな……?
今までは頭を使うか体を使うかでレベル上昇時にMP、HPの割り振りが違ってくるとしか考えてこなかったけど、数値の伸び率も違ってくるんじゃないだろうか?
本を100冊読んだ人と10冊しか読んでいない人が同じ伸び率というのもおかしい。そう考えると、体力的な事でも同じじゃないか? 同じレベルが1上がっても人によって力の数値が10上がる人と、5しか上がらない人がいると考える方が論理的だ。
「お義父さん、それは良い事ですね。他にも良い訓練方法がありますから、今度お教えしますよ」
俺もユートピアに帰ったら? いや、行ったら? まぁどちらでも良いがユートピアの兵士たちの訓練に取り入れてみよう。俺は鑑定で数値が見れるから、違いが出れば直ぐに分かる。
「久しぶりのラロックだな。こんなに長くラロックを離れたのは本当に久しぶりだから、凄く懐かしい気がする。こんな事嫁に行ったら怒られそうだが……」
「それなんですが、フランクさんは家族がいるから、もう少し頻繁にラロックに帰るなりして良いんですよ。俺に付き合う必要はないんですから」
「まぁその通りなんだが、うちの家系の男は昔から家を空けることが多いから、嫁たちもそれに慣れているんだ。だからそうそう表立っては怒らないが、それに胡坐をかいていると、ある日こっぴどく仕返しをされる事がある」
そのフランクの言葉はほんの数分後に実証され、俺も気を付けようと心から思った。
「ただいま! シャーロット」
「あら? どちら様? 私の名前を知っているという事は知り合い何でしょうか」
「シャーロットそれはないだろう。愛しの旦那様が久しぶりに帰って来たのに」
「旦那様? 私に夫何ていたかしら?」
「シャーロットさん、今はそれぐらいで勘弁してあげてください。今回は国からの要請で身を隠していたんですから」
「仕方無いわね。今回はサラ様の顔を立ててこれぐらいにしといてあげます。だけど帰れないのは仕方がないかもしれませんが、手紙一つ寄越さないのは貴方の怠慢です。次にこんな事があったら、このぐらいでは済みませんからね」
すげ~~怖い。俺がこんな事サラにされたら、即座にその場で土下座して平謝りだよ。これはやっぱりどうにかしないと拙いな。俺の為にフランク達家族がおかしくなるのは申し訳ない。
「ユウマさん、私たち夫婦に構っていないで、早く貴族用施設に行った方が良いですよ。宰相様とビクター様が一昨日からお持ちです」
一昨日って? いったい何時王都を出たんだよ。手紙は移動中に送ったのか?
「シャーロットさんありがとうございます。家族との団らんもあると思いますが、誠に申し訳ないですが、もう暫くご主人をお借りしますね」
俺はあまりにもシャーロットが怖かったので、思わず物凄く丁寧な言葉遣いでお願いしてしまった。
「大丈夫ですよ。後でゆっくりお話合いという団らんをしますから」
うちのサラもそうだが、一度死に掛けた人というのはこんなに強くなるんだろうか……? サラもそういう一面が出る時があるからな……。
「遅く成りました。お待たせして申し訳ありません」
「こちらの都合で身を隠してもらっているのだから、それは問題ないのだが、今回はどえらい事をやったもんだな、ユウマ殿」
「今回の事はご迷惑をお掛けして申し訳ないと思っていますが、後々を考えるとこれが最善だと思ったのです」
これ以上の方法を思いつかなかったと言うのもあるが、この方法で神聖国の信用はがた落ちだし、帝国や共和国をけん制することも出来るから良かったと思っている。
「それで至急戻れはこの件でしょうか?」
「それについては問題ない。ユウマ殿の思惑通りに、神聖国は今自分達の失態を必死に隠そうとしているから、こちらに文句が言えるような状態ではない。勿論、それでも言ってくれば、こちらも正式に抗議するから気にしなくていいぞ。今回の帰還要請は別の理由だ」
「別という事はビーツ王国とフリージア王国との件ですか?」
「確かにその両国も関係しているが、君が思っている事とは少し違うと思うぞ」
少し違う? 両国との土地の割譲と同盟以外に何がある?
「少し違うとはどういう意味でしょう?」
「それはユートピアの正式な国としての承認だ。実は……」
カルロスの話だと、ビーツ王国とフリージア王国の土地の割譲は正式に決まって調印を済ませる段階まで来ているそうだ。その他にもエスペランスとグーテルを含んだ四か国の同盟もほぼ決まっているそうだが、問題はそこにユートピアという名前を入れて五か国いう事にしないとユートピアがエスペランスとグーテルの持ち物のようになってしまう。そこであくまで別の国という事にしないといけないから、ユートピア王国を建国しろという事らしい。
あぁそうか……、この時点でもうユートピアが別大陸の国という事は通用しないという事なんだな。学校の事や帆船の事が漏れてる段階で無理だろうとは思っていたが、やはりそうなったか……。
まぁそれでも文句を言わず、五か国として同盟を結ぼうというのだから、ビーツ王国とフリージア王国はかなり譲歩してると言える。
しかし、これってユートピアに正式に国を作れと言ってる事なんだよな。作るのは問題ないが、国を作れば小さくても王が必要になるから、そこが俺にとっては問題になる。現在ユートピアの宗主は俺だから、このまま行けば俺が王に成るのが必然なんだが、それだけは辞退したい。
ん~~~、それなら日本と同じにすればどうだろう? 天皇制と同じように俺は象徴という立場で、政治やそういう事には関わらない。否、これは無理だな。今の状況では俺は口を出すことも当然あるから。
やはり俺が王に成らないと無理なのかな……。
「国としての承認という事は、王かそれに並ぶ人がいるという事ですよね?」
「そういう事になるな」
「それってもしかして俺に成れと言っていませんよね?」
「他に誰がいる? ユウマ殿が作った場所で、実際今宗主と呼ばれているんだろう」
それだけは絶対拒否したい。だけど現状ユートピアの代表ロベルトを国王にしても、誰も認めないよな……。
それまで俺達の会話を黙って聞いていた、サラが何を思ったのか口を開いた。
「あなた、観念しなさい。男らしくないですよ」
この世界は表面上男尊女卑の世界だから、普通女性がこういう場面で発現することは無いが、サラは公爵家の人間だし、王家とも親戚だからそれなりに地位があるから意見位は言える。だけどそれは自国の事ならで、こんな場面ではない。
「男らしくないですか?」
そう言われれば反論のしようがないんだが、俺はやりたくないんだよな……。
「ユウマ君、サラの言う通りだよ。ここで逃げたらずっと逃げることに成るよ」
お義父さんまで……。俺は影のフィクサーが良いんだけどな……。
「ユウマ、お前に王が出来るかどうかは俺には分からんが、少なくともユートピアの住民はお前が王になることを望んでいるぞ。その気持ちをお前は無視するのか?」
――分かりました。私がやります。ですが普通のやり方はしませんから、そこに文句は付けないで下さいね。
はぁ~~~、結局こうなるのか……。
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