第313話 こんなはずじゃなかった
ビクターの突然のユートピア連れて行け発言で、物凄く混乱した俺は返事に困りどうしたら良いか分らず、取りあえずこの場での返事を保留にして貰って、何とか面会を終了した。
「ビクター殿はあんな人だったか? わしの印象とは大分違っていたが?」
「その通りです! ミュラー様。私もびっくりしました。ユウマも思っただろう? あれは以前のビクター様じゃないぞ」
「俺もそう思ったよ確かにね。でもそれ以上に連れて行く事によって起きる事の方が気になって、返事が出来なかったんですよ……」
俺は気になった事を皆に言って意見を聞いてみた。後から何か問題にならないか? 好奇心旺盛なこの国の王は僻まないか? ここに着いた時のシャーロットの態度から家族を差し置いてまたビクター達だけ連れて行って良いのか……? など思いついたこと全てを……。
「お前そんなこと考えていたのか? まぁ俺の家族の事を心配してくれるのは有り難いが、そこまで心配しなくても俺達家族は大丈夫だぞ」
フランクはそう言うが俺は気にする。俺の前世は若くして親を亡くし、気の良い優しい祖父母に育てられたけど、やはり両親がいないというのはどこか寂しいものだった。俺の場合は両親を亡くして絶対に会えないという状況だったが、フランクの場合は違う。仕事でちょっと何週間か家を空ける程度でも子供というのは寂しいものだ。今はもう子供達もそれなりの年齢に成っているが、小さな時からグラン一家は俺に振り回されてきているから、とても気になる。特に最近、俺もサラという家族をもったから家族が離れるという事がどんなに不自然かよく感じる。
「フランクさん、それは違うと思うよ。小さな時から子供達はフランクさんと一緒に居ることが少なかった。特に最近は家にもいない事の方が多い。それでは父親としてどうかと思うよ。父は賢者で男爵、それは子供達に誇れる事だけど、それも家族が支えてくれたからでしょ。嫌味位ですませるシャーロットさんの度量の大きさ、寂しいと言わない子供達の犠牲の上に成り立ったことだと俺は思う。だからこそこれからは家族といる時間を増やして欲しい」
「そう言われると、確かに俺は家族に甘えていたのかな? お前と出会ってからずっと走り続けているから、そういう意味では家族との時間は少なかったな。子供達の教育や躾けも全てシャーロット任せだったし、うちの家系がみんなそうだから気にもしていなかったかが、普通の家族はそうじゃないよな……」
「そこで俺から提案です。フランクさんも男爵に成ったことですから、グラン商会を全て従業員に任せて、ジーンさん家族も含めて全員でユートピアに移住しませんか? 勿論、完全移住ではなく一時的にです。本来俺は王に成る事なんて考えていませんでしたから、ユートピアには偶に行くぐらいで済むと思っていましたが、この分だと当分はユートピアに掛かりきりになると思うんです。それに伴って賢者の皆さんもね。だから一時的にでも家族でユートピアに住んだ方が良いと思うんです。そして子供達をフランクさんが教育したら良いと思いますよ。賢者の弟子として……」
フランク達の貰った男爵の爵位は世襲できる爵位なんだから、子供達もそれなりの教育をするべきだと思うし、レベルと寿命の関係もあるから、是非そうして貰いたい。以前からこの事は考えていた。グラン一家や賢者の家族の寿命のことは気になっていたからね。
「子供達を賢者の弟子……」
「今は良いですけど、いずれ魔力量や高魔力帯における寿命の変化の事は世界に広まります。そうなる前にグラン一家にはそれを知っていてもらいたいんです」
「ユウマ君、君が言ってることは妻やエリー、そしてわしに起きている体の変化と関係があるんじゃな」
「そうです。レベルの上昇と魔力の濃い場所では若返りと老化が遅くなるという研究結果がある程度出ています。ただそれがどのくらいまで伸びるのかや、どのくらい遅くなるのかの詳細な事はまだ分かっていません」
「成る程な、これを秘匿すればいずれユウマ君やその周りにいる人は隠れ住むしかなくなるな」
お義父さんが言うように、その不公平感を無くす為にも、この事はいずれ広めないといけない。ただそうなるとこれも戦争の火種に成りかねないんだ。だってビーツ王国は一番魔力が薄いからね。魔力が薄い=老化が早い(普通)ではビーツ王国の住民が他の土地を求める可能性が出てくる……。
「フランクさん、一度グラン家で話し合ってください」
「あぁそうするよ」
「ところで、さっき言った。ビクター様とカルロス様の件はどうしましょう? これもこのレベルと高魔力帯にも関係してきます。ただユートピアを視察するだけなら良いんですが、島や魔境に連れて行けなんて言われたら、レベルの件はバレると思うんですよね。ビクター様はまだ若い方ですから気づかないかも知れませんがカルロス様は確実に気づきます」
「そうだな。カルロス様の肉体が変化したら、確実に陛下にもバレるな。そうなると間違いなくあの方の性格なら僻むな……」
「それだけなら、まだ良いですが、奥様方にバレたらもっと大変なことになりますよ」
エスペランスとグーテルの両陛下ともお義父さんの生活を羨ましがって、引退してラロックに移住するなんていう話も出ていたから、その時に奥方達がお義母さんやエリーの変化を見たら、大騒ぎになりかねない。
「それだったら、いっその事その部分も国に丸投げしたらどうだ」
「それもありだとは思うんですが、流石に時期尚早かと思うんですよね」
国のトップに話すのは良いが、それを世界に広める前にラロックでレベル上げツアーを始めたいんだよな。そうやってレベルを全体的に底上げしてから広めれば、色んなことに対処出来そうな気がする。
こうなったらやはり、別大陸の調査も早急にするべきだろうな……。
「建国の話だけで済むかと思ったが、こりゃ大変なことに成りそうだな」
「そうですよ。ホントはこんなはずじゃなかったんです。面会が終われば此処ですることを済ましたら、ユートピアに直ぐに戻る予定だったんですから……」
「こうなっては仕方がない。今日一日それぞれで考えて明日また話し合おう」
お義父さんの提案通り、この話は個別で取りあえず考えることにして、それぞれのやりたいことを済ませることにした。
「サラ、俺達は孤児の所に行こう。これからの事を話し合っておきたいから」
「孤児の所もそうですが、学校や病院も見に行かないと心配です。完全に国主導に成りましたからね」
そうだな、病院はまだ良いとしても学校は留学生がどうなっているか確認しておかないと、神聖国のこともあるからな。
「先ずは学校を先に見に行こう。孤児の方は時間が掛かると思うから」
「はい」
サラと二人で学校を訪れたら、直ぐに何かおかしいと思える程、雰囲気が以前と違っていた。
「何でしょう? この異様な感じは?」
「そうだね。何か物凄く殺気立っているというか、殺伐としているね。これは何かありそうだから、校長に会いに行こう」
俺達が校長室に向かって部屋の入り口が見える所まで来たら、校長室のドアは開いていて沢山の人だかりが出来ていた。
俺が学校を離れて大分経つから、今いる生徒に殆ど顔見知りはいない。魔法科には何人か俺がまだ学校に関わっていた時の生徒がいるらしいが、ほんの数人だ。これでは俺達が生徒にどくように言っても聞くかどうかも分からない。まして凄く興奮しているようだから……。
「サラ、今の校長が誰か知ってる?」
「いえ、私も学校の事は殆ど知りません。病院の方はニックさんの関係で今の病院長の方とは会ったことがあります。確かお名前はサミエルさんだったかと」
困ったな……。こうなったらカルロスもいることだし、もしこの人だかりに貴族の生徒がいてもどうにかなるだろう。強硬手段で排除するか……。一応、どくようには一度は声を掛けるけどね。
「あ~あ~君達、そこをどいてくれないか! 私達は校長に用があって来たんだ」
「……」
返事なし。外側にいた生徒の何人かが振り返ってこちらを見たが、それだけで、無視するだけならまだ良いが、中にはこちらを睨みつける奴もいた。
「しょうがない。魔法で強制排除しますか」
俺は見える範囲の生徒にスリープの魔法を掛けて強制的に眠らせて行った。複数同時の魔法は以前のアクイラの捕獲で慣れてるから、簡単なのもだ。ドアの外にいた生徒達をスリープの魔法で眠らせて校長室の中が見える所まで来たら、校長らしき人と何か話している生徒の数人を残して、部屋の中にいる後の生徒全員を眠らせた。
ここからが本番だね。簡単に片付く問題であって欲しい……。
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