第314話 神聖国の歴史
「お邪魔しますよ! 校長に会いに来たんだけど何やら取り込み中かい?」
俺はそう言いながら、校長室の中に入って行ったけど、あまりに突然周りの人が次から次と倒れて眠りだしたので、何が起きてるのか理解出来ず、生徒も校長らしき人も反応がない。
「何があったのか教えてくれないかな?誰でも良いから」
二度目の俺の言葉にやっと皆我に返ったのか、先ほど一番大きな声で校長に何か言っていた生徒が、真っ先に俺に答えた。物凄い形相で……。
「うるさい! 関係なやつは引っ込んでろ! お前には関係ない話だ!」
「そうもいかないのよ。この学校の関係者だから」
「関係者! それならお前も同罪だな!」
同罪? 校長が責められているという事は学校側が何かしたという事だろうか? 何かするって学校だぞ……。
「校長、これはどういうことですか? 何があったのか説明してもらえますか」
「どちら様ですか? 関係者とおっしゃっていますが」
「それは後で話します。今はその事よりどういう状況なのか説明してください」
「それが……」
言い辛そうにしていた校長が何とか説明してくれた内容は、俺にも関係がある事だった。俺に関係があると言えば、最近関係した神聖国の事なんだが、それも神聖国の惨事ではなく、飛行船とシンボルを破壊した兵器の事というか魔法が関係していた。
他国から見れば、ユートピアとエスペランスが親密だという事は裏切り者や暗部によって知られている。特に飛行船についてはエスペランスの持ち物という認識があるだろう。だから神聖国と帝国、共和国の生徒が、飛行船や魔法について教えろと校長に詰め寄っていたのだ。
それってどう考えても理不尽な要求なんだよね。飛行船なんて特許の塊だよ。それに魔法だって秘匿して良い事に成っている。魔法は開発者として登録すれば称賛されるけど、お金は入ってこない。
特許登録してるなら商業ギルドに聞くことだし、魔法だって知りたければ魔法登録を管理してる国に聞くべき。この騒ぎは結局ただの嫌がらせと見た方が良さそうだ。
しかし、同罪とはどういう意味だろう? 秘匿していることが罪だとでも言いたいのか?
「話は大体分かりました。ですが何故、抗議してるのか分からないんですが?」
「そんなの決まっているだろう。エスペランスだけがそんなもの持っていい訳がない」
「君は何を言っているのかな? 国が秘匿技術を持っている何て普通の事じゃない」
「そんな不公平なことがあっていい訳がない。特許登録して世界に公表すべきだ」
この子の頭の中はどうなっているんだろう? 確かに産業の発展の為には特許登録して公表するべきだが、何処の国にも国家機密というのは存在する。まぁこの世界では技術的な国家機密は今まで存在しなかったが、国境の砦の軍備だとかそういう事は公表しないものだ。
「それなら君の国が独自に武器を開発したとしても公表するんだね。どんなものでも発明したり、発見したら絶対秘匿しないんだね」
「それは当然だ! 知識は世界で共有するものだ!」
この生徒が言ってることはある意味正しいのだが、それは詭弁なんだよな。
「君は何処の国の留学生?」
知ってるけどわざと聞いてみた。学校の名札には留学生を引き受けるようになってから、国別に色を変えているから見ればどこの国の生徒か分かるようにしてある。学校関係者なら当然知っている事。
「学校関係者なら名札で分かるだろう。俺は神聖国の者だ」
「君が神聖国の人だと知ってるよ。それなのに何故聞いたか、それは君が神聖国の人なのに神聖国の歴史を知らないんだなと分からせる為だよ」
「我が国の歴史?」
「そう、昔の神聖国は治癒魔法について秘匿していたんだよ。歴史の授業で習わなかった?」
「そんなバカな事があるか!」
人が生まれた歴史なんてこの世界には記録がない。前世のように猿から猿人というような進化があったのかさえ、この世界では分からない。エルフや獣人、ドワーフなんていう種族がいる以上、神が創ったといっても何ら不思議ではない。
そういう昔の歴史はこの世界では分からないが、国が出来た
そうやって初めは人が集まって来て国が大きくなってきたけど、世界の人口が増える事で他にも国が出来るように成ると、そこでもスキル持ちが生まれるので、宗教を作り、教会をそれぞれの国に作って、教会=治癒魔法というイメージを作って行った。
これは転移したばかりの時に図書館で読んだ歴史書に書いてあったことだが、恐らく現在神聖国にはない本だろう。これも元は口伝だから、何処まで信用できるかは分からないが、今の神聖国や教会を見ると逆に真実味が増す。神の
恐らくこの生徒がこういう事を言うという事は、神聖国で習う歴史はもっと違う物なんだろう。宗教に合わせた歴史を作り上げてそれを教えていると想像できる。
「では、君に聞くけど治癒魔法は誰がどこで何時始めたんだい?」
「それは我が国の初代国王である、教皇様が始められたんだ」
「それじゃ、その前に治癒魔法は無かったの? 治癒魔法のスキル持ちはいなかったの?」
「なかったに決まってる……」
「どうしたのかな? 無かったとは言えるけど、居なかったとは言えないの?」
言えないよね。居なかったと言ったら国が出来ないからね。治癒魔法をスキル持ちに伝授しなければ、国が出来るほど人は増えないから……。
「それがどうした? それのどこが秘匿した証拠になる?」
「簡単でしょ。今を見れば分かるじゃない。冒険者にも治癒魔法士はいるよ。王宮にだっている。その人達はどうやって治癒魔法を学んだの? 教会の人が教えたの? 違うでしょ。自分達で学んだんでしょ。教会に行って治癒魔法を教えて欲しいと言ったら、教会に入れと言われるよ。これでも秘匿していないと言える?」
「……」
止めを刺すか、
「特許制度が出来るまで、自分が作った物を他人に教える人がいた? 弟子制度が未だに続いている国で知識の伝授が進んでる? 貴方の国は病院に留学生はいないね。貴方の国では治らない病気も怪我もここでは治るよ。都合の悪い事は教えなくてもいい、都合の良い事だけ教えろ。どれだけ自分勝手な国なの。教えて貰う方が勝手が出来るなら、教える方にだって勝手は許されるでしょ」
最後にもう一つぐうの音も出ないようにしてやるか。
「君たちは勘違いしているようだけど、あの飛行船と魔法はエスペランスの物じゃないからね。あれはユートピアのもので、俺の物。今度初代ユートピアの王になる男のね。そしてこの学校は俺が作ったものだよ」
「あ、あなたがユウマ様ですか! グーテル王国名誉伯爵の……」
これで色々俺の事をバラしてしまったけど、これもしょうがないよね。エスペランスとは同盟国になる訳だし、俺も王に成るんだから、何もかも隠していると都合が悪いから、この際生徒を通じて世界に広まってくれた方が色々やり易い。
以前はエスペランスを世界の中心にしようと思っていたけど、ユートピアの王に俺が成るなら、ユートピアを世界の中心にした方が良い。文句があるなら俺に言って来いというように仕向けた方が、エスペランス王国にもグーテル王国にも迷惑が掛からない。
「国に帰ったら、俺の事を話してあげて、俺の国にちょっかい掛けるなら、神聖国のように成るよと……」
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