第174話 いきなりかよ
各国の留学生が入学しての学校と病院が始まった。入学に際しての注意事項は毎年のように入学式で言ってきているから問題ないはずだったが、今年は違っていた。
入学式から1週間も経たずに、教師にたてつく生徒はいるし、権力を振るう生徒もいた。勿論、それは留学生で特に共和国、神聖国、帝国の留学生ばかりだった。
入学前にどのように言われてきてるのかは知らないが、国際会議や留学生の定数配分の会議でもその事には触れている。学校や病院では貴族の特権はないと、身分制度は維持するが、身分による特別扱いはしないという事は通達済みである。
こちらがお願いして来てもらっている訳ではないのだから、こちらの方針に従えないのなら、辞めて貰って構わない。
それでも一方的に処分を下すわけにはいかないので、一度目は本人に注意して様子を見た。しかし改善されることが無かったので、今度は大使に連絡を入れた。
大使から当然注意はされたんだろうが、それでも一部の生徒たちの態度は変わらなかった。
結局、入学1か月目にはこの3か国の留学生の普通科の生徒は半分になっていた。問答無用で退学処分にしたからだ。
職業科や異種族の留学生は何も問題を起こさなかったので、普通に勉学に励んでいる。
病院の方がもっと酷い、王宮薬師が来ていた共和国と帝国の留学生は全員が退学、患者だけが残ることになった。
これが入学してたった1か月の出来事である。このことをスーザンの報告で聞いたカルロスは激怒し、問題を起こした国の大使を呼びつけ、次に問題が起きれば今後一切留学生は受け入れないと宣言した。
「どうなってるんだろうね? 普通科に来てる留学生は……」
「退学になったのはほぼ全員貴族です。貴族で残っているのは役人として働いていた人たちですね」
「成る程、社会に出ている人とそうでない人の違いですね」
「病院は逆に王宮薬師というプライドが強過ぎたからでしょうね」
騒動の後、俺とスーザン、ニックの三人で学校と病院の近況報告会をしている時の会話である。
「異種族の留学生や生徒の方はどうです?」
今年からこの国の異種族も入学している。別に差別していた訳ではないのだが、これまで入学してくる人がいなかっただけだ。
今年から留学生に異種族も加わるという事が、どうしてかこの国の異種族にも広まって、入学希望者が出てきた。
恐らくだが、同族間の連絡は世界をまたいで行われているんじゃないかと思う。勿論、異種族間同士も協力関係にあると思う。ドワーフは職業科にしか入学していないし、エルフと獣人は殆どが普通科にしか入学していない。
病院の方は各国10人という事なので殆どが人種だったが、グーテル王国とビーツ王国、フリージア王国は1人づつ異種族を入れてきた。勿論、エルフだったが……。
「異種族の方は何も問題ないですよ。職業科のドワーフはまだ1か月ですが、恐らく学校始まって以来の最短記録でスキルを発現させますね」
「それって種族特性的なものですよね?」
「多分そうだと思います。職業科のどの科でも、ドワーフが作ったものは他の生徒の物より出来栄えが良いですから、後はスキル発現の条件さえクリアーすれば直ぐにでもスキルが発現するでしょう」
スキルの発現にはこれまでの研究で条件があることは分かっている。しかしドワーフとの交流が出来た酒作りの時に、施設の建設の時にとんでもない速さで左官スキルを発現させた人がいた。
それも1人や2人ではないことから種族的に物作りのスキル発現が他の種族より異常に早い事が証明されている。
「それは病院でもそうですよ。エルフの薬師は理解力というか、魔力が多いのも関係してるのか、魔力感知も直ぐに覚えましたし、診断の精度も高いです」
「え! まだ1か月ですよ。もうそこまで出来るんですか?」
「病名とかが分かるわけではないので、勉強は必要ですが少なくともどこが悪いのかは判別できています」
マジか~ 凄いな。それだと獣人はどうなんだろう?
「獣人は普通科ですよね、そちらはどうですか?」
「あぁ~~ 獣人ですね……。種族特性はありますね、一応……」
なんだ? この含みのある言い方は?
その後のスーザンの報告で、獣人にも種族特性は確かにあったが、それは何とも言いようがない特性で、異世界あるあるの脳筋という種族特性であった……。
その理由はスキルとして無属性は発現していないが、獣人に身体強化を教えたら、レベルが足らず魔力量が少ないにも関わらず、身体強化をマスターしたからです。
冒険科の生徒の影響で、ラロックの冒険者にも身体強化が出来る人が増えているとは聞いていたが、今回の事があったので、詳しく調査したら、冒険者で身体強化をマスターしてる人の多くが獣人だった。
勿論、他の種族にもマスターしてる人はいるが、取得までの早さが圧倒的に獣人の方が早いそうだ。
俺達は学校が始まってたった1か月で大量の退学者を出したことで、それぞれの国のスタンスというか、お国柄が分かってきた。勿論、庶民もそうかは分からないから、あくまで国の権力者側の事だけど。
国同士の事は俺達に直接関係はないが、知識として知っていて損はない。俺の計画上必要だから……。
トラブルから始まった学校と病院とは関係なく順調なものもある。魔方陣式魔道具の製造と販売は順調に伸びていて、生産が追い付かない程だ。他にも料理のレシピの登録、魔法の登録も全て国の許可が出て法律として施行された。
我が国の法律が施行されていて、魔道具が販売されているということは、全ての国の特許の法律が施行されているから。
今回、料理のレシピや魔法の登録については国際会議はしていないが、各国に我が国の新たな特許の法律の内容を通達したら、他の国の法律にも含まれて発表されたので、無言の承諾という事で解決した。
料理のレシピは問題なく了承されるだろうとは思っていたが、魔法の登録はまだ時期尚早かとも思っていた。それなのにすんなり了承されたから拍子抜けである。
グランの話では、魔道具が魔方陣式になることで、まだ公表はされていないが、オックスの飼育をやっている以上、スリープの魔法やティムの魔法もそう遠くないうちに他の国に知られるだろうから、魔方陣と魔法も特許として登録出来るようにした方が良いという国の判断らしい。
魔道具は解体されれば現状簡単に魔方陣をマネすることが出来るので、登録してタダで使わせないようにするのが当然であるが、スリープとティムの魔法の方はわざわざ登録して教えてやる必要はないので、今は秘匿するがいつでも出来るようにしておけば対処が簡単である。
パスタの登録の時に乾燥の魔法は登録するから魔法登録は必要でもあった。しかし魔方陣としては登録しない。あくまで乾燥させる魔法として登録するだけ。
言うなれば魔法の登録とはイメージの登録。魔法はイメージというのはこれから留学生によって広められるから、問題なく理解される。しかし魔方陣は別、魔法文字が広まらない限り魔方陣は作れないのにわざわざ教えてやる必要はない。
魔法文字は賢者候補以外には教えない予定だ。以外の中には見習いも含まれる。魔法文字はそれぞれで研究して発展させて欲しい。あくまで世界の進歩次第だが……。
沢山の魔方陣魔道具が普及してくれば、魔法文字に対する研究も進むだろうから、その時に魔法文字を普及させれば、また一段加速して進歩するでしょう。
賢者候補にだけ魔法文字を教えるのは俺が楽をしたいのが一番だが、知識の継承の意味もある。進歩を止めない為の安全装置、保険である。
これは実験でもあるんだよね。チートは特別なものだけど、世界の理から外れたものばかりではないことは今までの研究で分かってきている。
だから鑑定の出来るフランクが魔法文字を習得して知識の吸収と経験を繰り返せば、俺と同じように魔法を鑑定すれば魔方陣が分かる様にならないかという実験。
サラの風魔法はいつかな……。
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