第173話 飯テロ 国バージョン
「その楽市楽座というのは理解した。関税を下げて国境付近に交易所を設けることで将来的にはそこに町が出来るという事だな」
「その通りでございます。特にビーツ王国とは貿易をするにはもってこいの国です。国が縦に長い国ですから、南国の物から魚介まで取引が盛んに行われれば、この国の食生活は飛躍的に進歩します」
冷蔵、冷凍による恩恵で食生活が進歩するだけではなく、こちらもクーラーという南国には必要な魔道具や魔方陣式魔道具が大量販売できる。それだけではなく当分の間は化粧品やガラス、陶器なども貿易の商品になる。
ジーンが今回持って行った化粧品やガラスなどは飛ぶように売れて、次の注文も受けている。だけど拠点ではもう研究だけで生産は殆どしていないので、全て外注に出して、ラロックとゾイドの経済を回している。
楽市楽座にすれば、こちらだけではなくビーツ国も税金で高くならない魔道具や化粧品などを輸入できる。関税としては薄利になるが、結果的に国の経済が回り、税収が増える。
関税を掛ければ、庶民が頑張れば買えるものが高級品になってしまい、結果的に多く売れない。
「片方だけが関税を掛けないのではなく、両方の国で掛けないのですから、取引上はほぼ国内の流通と同じになるだけです。勿論、関税は0ではありません。幾らかは掛けないと差別化できません」
「王よ、そろそろお昼ですから昼食を食べてから、検討してくださいませんか? 今回の物流による食の進歩を実感されてから、ご検討されても良いと思います」
「そうだな。腹が減っていては良い考えも浮かばんしな」
そんなもんじゃすまない事は、この時グラン達は分かっていた。ビクターも事前にケインの料理は食べている。だからこそ今回グラン達を連れてきているのだから。
昼食は王宮の食堂で王家全員が揃って食事する。普段はバラバラの時が多いが、今回は事前に珍しい料理を出すと伝えてあるので、全員が揃っている。
「ん? 何だこの匂いは……」
「何でしょうね? 嗅いだこともないような匂い。 それなのに食欲がそそられる様な」
「美味しそうな匂い」
王家の人達がそれぞれ食堂に入るたびに匂いについて口にする。
今回の料理は醤油や味噌、ワインビネガー、当然ローム糖も使っている日本食と王達も食べたことのある、揚げ物も用意されている。
その中には魚介類も使われているが、今回は刺身はない。流石に王家に出すのに生は怖かったので、それだけは省いている。
料理の説明は事前に打ち合わせして置いて、王宮の執事が行った。ケインにやらせるわけにはいかないからね。ド庶民だから……。
「な! なんじゃこの料理は? 美味いぞ! 今までこんな美味しい料理は食べたことがない」
「美味しいですね~ これはなんと表現して良いか分かりませんが、独特な美味しさ。父上この料理は何です?」
「わしに聞いても分からん。わしも今日初めて食べるものが殆どだ」
王太子の質問に王もこうしか答えようが無かった。
その後も王妃や王太子婦人などからも絶賛の言葉を頂いた。
「この見た目が変なものがガニという物でこちらがエピか? どちらもビーツ王国では食べられていないと……。こんなに美味しいのに実にもったいない!」
「それにしても執事から説明のあった、調味料の醤油と味噌などは本当に美味しいな。しかしまだこれらが販売は出来ないとは実におしい」
王は味を、カルロスは販売をおしいという。実に性格が出ている言葉である。
食事はそこまで食べて大丈夫かという量があったのに、全てあっという間になくなった。女性陣も我を忘れるぐらいに食べていた。普段なら太ることを気にして多くは食べないのに……。
「醤油と味噌の原料は豆だそうだな?」
「はい、我が国でも栽培されている、ソイという豆です。やせた土地でも栽培が可能ですから大量に確保できます。それにあの御仁の話では豆の畑と他の作物と交互に栽培すると、作物が良く育つそうです」
この国ではローム→大麦→ソイ→小麦というサイクルが一番いい。輪作にもダメなパターンがあるから何でも良いという訳ではない。
この世界には魔力という前世とは違う物もあるから、一概に連作がダメとも言えないが、スライム肥料によって土の栄養が取られることは証明されているので、前世同様連作は避けた方が良い。
食事がすんで、会議の続きが始まったが、やはり料理の影響か殆ど俺が提案した通りに、決着した。
「それでは、カルロスよ交渉を頼んだぞ」
「御意、お任せください」
カルロスは二つ返事で了解したが、それには思惑があった。会議が終了して直ぐにビクターはカルロスに呼び出された。
「ビクター殿、今回の交渉にはグラン商会の料理を使おうと思っている。よろしいな?」
「料理ですか? ですがまだ調味料は生産されていませんから、交渉にならないと思うのですが?」
「何を言う、あの料理は一度食べたら、もう虜になるから食べたいなら条件をのむに決まっている」
嫌々、確かに胃袋を捕まえるというのは恋愛とかなら良い方法だけど、国同士の交渉にそれを使うか? 商売で接待というのがあるけど、それとも違うからな。
「特にガニやエピ、タシ、イカなどのようなビーツ王国で食べられていない物が貿易に使えるのだぞ。ビーツ王国としては以前の貝殻のように捨てている物が売り物になるのだからこちらの条件をのむに決まっている」
確かにそうだろうが、それだけではないとは思うけどな。留学生を送ってくるぐらいにエスペランス王国の発展に脅威を感じているはずだから、損をするわけではないのだから、この国の考え方に従ってくるのは当然。
だから別に料理が無くても交渉は成立すると思う。それなのに料理を持ち出したのは正直カルロスが食べたいだけだろうとビクターは思ったが、そこは流石に相手が宰相だから口にはしなかった。
「そこでじゃ、今回持ってきた冷蔵庫と冷凍庫は献上品だろうが、我が屋敷にも必要になるから早急に送ってくれ、勿論、冷蔵、冷凍馬車もな」
ん? 交渉に使う料理は王宮で大使に振舞うんだろう? それなら宰相の屋敷には必要ないでしょう? ましてまだ本格的に貿易はしないのだから、馬車も必要ないと思う。
もしかして個人的に買い出しに行こうとしてる? それって職権乱用じゃない?
当然、カルロスにも御用商人はいるだろうから、ジーンがやったようにこちらから売れそうな商品を持って行って、買い付けてくることは出来る。
それ大丈夫かな? 王様にばれたら怒られるパターンじゃない?
まぁ犯罪という訳ではないから、こちらとしては巻き込まれないなら問題はない。
「それは冷蔵庫、冷凍庫、馬車の発注という事でよろしいですか?」
「そうじゃ、だが今回の交渉は急ぐので、グラン商会に委託して、至急食材を調達して来てもらいたい。勿論、調味料の方もな」
そうなると料理はケインが作るわけにはいかない。食材の調達にはそれなりに時間が掛かる。ビーツ王国にも行かなければいけないし、ラロックに帰って調味料も俺から調達しないといけないから、ケインをそこまで引き止められない。
ケインではない別の人が料理を作るなら、料理のレシピを特許登録する必要がある。その計画も俺から伝えられているから、その打ち合わせを国としなくてはいけない。
特許の範囲が広くなる。今までは工業製品が主だったが、これからは異世界定番の料理のレシピも登録できるようにするし、魔法も特許登録制にする話までしなくてはいけない。
結果的にグランはその打ち合わせをしなくてはいけないので王都に残り、ジーンは急ぎラロックに帰り、食材調達にもう一度ビーツ王国に向かう事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます