第172話 留学生

 醤油と味噌、ワインビネガー、ソースの生産はグラン商会に任せて、俺は留学生の対応に当たる。


 対応と言っても俺は直接関わらない。これはこれからの基本方針として決めている。


 これまでは全てにおいて完成形を教えて、それを俺が完成するまで実行してきたけど、これからは完成形は教えるけど、実際に完成させるのはこの世界の人にやって貰う。


 生産物に限らず、ソフト面もハード面も全てこの世界の人に任せる。勿論、俺は好きなように好きなことはするし、アドバイスはするけど、これらの度合いを段々と少なくして行って、最終的に俺の自由な時間を増やす。


 留学生の対応で一番しなくてはいけないのは、研究、改良、思考力などのような、プチ賢者教育。


 この国が変われたのは、多くの人が以前のような気質ではなくなったからです。研究や改良に関心がなく、新しいものを作ろうともしない、そういった気質だった人たちが、今では新しい物や改良に関心があるからだ。


 他国はまだまだ全然だけど、国の上層部は留学生を送ってくるくらいには変化してきた。


 後は送られてきた留学生に色んなことを吸収して貰って、それを国に帰ってから広めて貰えば、少しづつだろうが他の国も変わってくるだろう。


 この国と関わり合いが強い、グーテル王国では学校や病院を作る準備段階まで行っている。賢者見習いも後1年もすれば母国に帰って十分指導が出来るようになるだろう。


 最初のうちはこの国から教師を派遣しても良いだろうから、来年からは運用を開始できるように、サラのお父さん経由で国に建物などのハード面の準備に取り掛かって貰っている。


 この国に他国から留学生が来ることになったから、今年の教育内容を少し変更した。スキルの取得に関しては変わらないが、全学生に研究と改良についての授業を設けることにした。


 今までは自然に分かるだろうという事で、敢えてその事について教育はしてこなかったが、賢者教育のように前世の小中学校で習うような基本的な生物や化学のような授業を少し取り入れて、強制的に思考力を付けることにした。


 それに伴って教科書も少し変更した。


「ユウマさん、今年の教科書はこれで行くんですか?」


「そうです。以前作ったグラン家の子供たち用に作った教科書から、かなり流用しています」


「流用というレベルではないと思いますよ。特に普通科は……」


 職業科の方は以前の教科書に少し、研究や改良という所を強調した内容を増やしただけだが、普通科の教科書は、殆ど子供たち用の教科書と変わらない。


 子供たち用の教科書は賢者候補用の教科書でもある。賢者になるための基本を教える教科書。


 留学生で普通科に来る人の多くが、貴族や役人、またはその子息、子女だからこの人達の考え方を変えられれば、国が変わりやすくなる。


 この国の変化に学校の卒業生が大きな影響を与えたことは実証されている。だからこそ、それを利用しない手はない。庶民がいくら変わろうと、この世界では国の権力側の人が変わらないと大きな変化は起きない。


 それでも時間は掛かるでしょうがね。なんと言っても人数が高々20人程度ですから……。


 他にも学校や病院の変革について、国の了承が取れた時に、ゾイド辺境伯領のみで小学校の設立も認めて貰っている。


 簡易的なものはグラン家の女性陣がラロックで始めていたが、それを正式に国の方針として辺境伯領で試験的に始めることになった。


 それでも、本来は領全体でやりたかったことだが、建物や教師の準備が間に合わなかったので、ラロックと領都のゾイドだけで行う事になった。


 こういったことも留学生たちには刺激になるだろう。スキル発現の学校が出来ただけでなく、庶民の子供に読み書き計算を教える学校が出来るのだから。


 準備も整い入学まじかになった時に、留学生たちが続々とやって来た。同時に病院にも患者が送られてきて、世界の変革の第一歩が本格的に始まる。


 俺達が留学生受け入れの準備をしている頃、グランとジーンはビクターと共に王宮で奮戦していた。


「ビクターよ今度もまたとんでもないものを作ったな」


「王よ、作ったのはグラン商会とあの御仁です。私ではありません」


「それは分かっているが、そう言いたくなるのも分かるであろう?」


 そりゃそうだよね。グラン商会が作ったことは分かっていても、国に対するのは領主のビクターだからね。


「ビクター殿、今回も報告書で事前に知らせてくれたのは良いが、また世界がひっくり返るような内容なのだが勿論事実ですよね?」


「はい勿論です。実際に実物も今回持ってきています」


 持ってきたのは現在発売されている魔道具の魔方陣型、それと冷蔵庫と冷凍庫、クーラーはどうするか悩んだが、南国には輸出できそうなので、エアコンの完成前だけど持ってきた。


「魔道具はこれが完成形だという事は報告されたので問題ないが、その元になっているのが、以前報告のあった魔方陣と言うのが問題ですね。魔法だけでもあれほど王宮魔法士が騒いだのに、魔道具にも魔方陣が使われるとなると、魔法士どころか錬金術師たちも……」


 カルロスは魔道具が完成したことには喜んでいるが、やはり国の宰相、問題になりそうなことには気づいている。


「魔方陣に関しては特許登録して、製造方法に関しては当分は秘匿する予定です」


「秘匿? なぜじゃ? 製造方法も登録すれば良いだけであろう?」


 王が疑問に思うのも当然なのだが、スタンプ技術はまだ公開できない。


「大量生産する為には秘匿技術がありまして、その技術はまだ公開できないのです。その技術はこの国の優位性を担保する上で必要なので、敢えて公表しません」


 魔方陣は公表しても、手書きで書いたりすれば大量生産は出来ない。魔道具を作ることは出来ても大量生産が出来なければこの国の生産力には勝てない。


 スライムスタンプはそれだけ秘匿するべき技術。鉱物の代わりにも使えるし、以前にも考えた印刷にも利用できる技術だから、今はまだ出せない。


「国の為になるなら敢えてこれ以上は聞くのはよしておくか」


「それはさておきビクターよ、報告書に合った冷蔵庫と冷凍庫による物流の革命は前代未聞だぞ」


「そうです。また! ビーツ王国との交渉が必要になるのでは?」


 王の言葉の次にカルロスがビクターに尋ねた。嫌見たらしく……。



「はい、必要になると思います。それが報告書に上げた、関税に関する事と国境付近の交易所の事です」


「ビーツ王国との交渉か……。 砂糖の時の交渉は苦労したからな。今回はどうなる事やら?」


「それにつきましては、こちらに控えているグラン商会のグランとジーンより説明させていただきます」


 今回の王宮訪問にグランとジーンが同伴したのには理由があった。それは俺から聞いた楽市楽座の話やら、今後の他国との貿易について説明する必要があったからです。


 全てビクターにしてもらっても良かったのだが、実際にビーツ王国に行ったジーンの話は必要だろうし、それに今回は魚介類の料理も振舞うつもりなので、二人が必要だった。勿論、物凄く嫌がられたが、ケインも来ている。


 ビクター達が王達と謁見してる頃、ケインは王宮の調理場で物凄い視線を浴びながら、俺から伝授された料理を作っていた。
















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