第175話 来て欲しくない人がまた

 騒動も収まり、ビーツ王国との交渉も問題なくまとまり、国境でも交易所建設が始まった。国の要請で俺が雇った土属性魔法使いの冒険者が交易所作りに借り出されたがこれはしょうがない。


 ジーンがビーツ王国との往来の時に道路の状態が悪い事を報告してきたので、土魔法士を派遣して、交易路を簡易的に補修したのが国にばれて、土魔法士の魔法が公になってしまったことが原因。


 そのことで、他の属性魔法士の新魔法も続々と国にばれて、登録することになり。王宮魔法士がまた数人送られてくることになった。


 属性魔法もちは必要な魔力量とイメージさえ出来れば直ぐに修得するから問題ないが、新魔法が登録されるたびに来られても面倒なんだよね。


 イメージの登録はするんだから自分たちで研究しろよと言いたくなるが、実際に使える人がこの学校にいるんだから、見に来るのも仕方がないとは思うけど……。


 当分は新魔法の伝授はしないつもり、一応基本的な魔法は伝授したから、後はそれぞれで研究して貰う。


 今では属性持ちの引退した冒険者に伝授してきたけど、これからはこの人達に現役世代に伝授して貰う。冒険科の生徒や魔法科の生徒の属性持ちを中心にね。


 勿論、属性を持っていないが、無属性を研究中の生徒にも出来るかどうかは抜きにして、授業で試させてはいる。サラと同様なことをやっているのです。


 そのサラだが、毎日の練習の成果として、ウインドカッターまでは行かないが、風を吹かせることは出来るようになっている。


 サラは一度決めたら絶対に妥協しない。俺の傍に何時もいるから、練習の時間もそう長くは取れないはずなのに、もうここまで出来るようになっている。


 初めて、風を吹かせることが出来た時には二人でお祝いをしたぐらいだ。


 ステータスに風魔法は表示されていないが、実際に風を魔法で吹かせることが出来たという事は確実に属性魔法が使えるという事、俺の仮説が証明されたことでもある。


 魔力量と適正次第で属性魔法は後天的にも、修得できる可能性があるという仮説が証明された。


 これは無属性で殆ど証明されていたが、一般的に知られている属性でも同じことが起きることが証明されたのだから、大発見だ!


 そんな時、他人から見たら違うだろうが、俺にとっては平穏な日々が続いていたのに、ビクター経由でグランに嫌な連絡がきた。


「ユウマ君、ユウマ君が一番嫌がる人が近いうちに此処に来るそうだ」


「嫌な人ってまさか王様!」


「その通り、だけどそれだけじゃないんだよ。カルロス様も来られるらしいんだ」


「国の重鎮が二人とも此処に来て良いんですか?」


 詳しく聞けば、そろそろ代替わりをしても良い頃だから、王太子と宰相候補に執務を任せて、保養も兼ねて視察にまた来るそうだ。今年は留学生もいる、学校も大きく変化したし、小学校も出来たから、視察するには丁度良いというのも大きな理由らしい。


「そうなんですね。それなら納得できますからしょうがないですね。俺はまた休暇でもとって引きこもりますよ」


「それなんだが、今回はそう簡単でもないんだよ。今回の視察にはグーテル王国の国王も来られるから、ユウマ君の立場的に不在というのも問題になりかねない」


 俺はそれを聞いて固まった。何でグーテル王国の国王まで……。


 俺とサラが婚約する為に、形式的にも身分を上げないといけなかったから、俺はグーテル王国から名誉伯爵の称号を貰っている。


 名誉職だとしても、一応はグーテル王国の貴族という扱いだから、グーテル王国の国王には敬意を払わないといけない立場、それなのに来るを知っていて不在というのは極めて失礼にあたる。


 ましてサラのお父さんはグーテル王国の公爵だったから、グーテル王国の国王は俺にとって将来の親戚、お父さんは現国王の従弟にあたるらしい。


 俺は王家や貴族と関わりたくないと思っていたけど、結果的に王家一族の一人と婚約してしまっている。まぁ、他国の公爵家だったし、病人で死に掛けていた人だったから、貴族感が薄かったのもある。


 サラの両親にしても貴族というより、悪戯好きにのおじさん、おばさんという感じだったから、そこまで意識していなかっただけで、本来は王族なんだよね。


「そうなんですか、それでは貴族の事は貴族に聞けと言いますから、サラやサラの両親と相談して決めます。グランさんは何時ものように準備されるんでしょ?」


「そうだね、もう慣れてきてるから問題ないけど、今回は他国の王様も来るから規模が分からないことぐらいだね」


 そんな感じで話が終わりそうになった時に、フランクがやって来て、爆弾を投下した。


「ユウマ聞いたぞ、王様達が視察に来るそうじゃないか、今回はどうするんだ? それに忘れていないとは思うけど、お前、公爵様の屋敷の事考えてるよな?」


「あ!」


 俺が逃げるとかの問題より、屋敷の問題があった。屋敷のお披露目の時に王宮より立派だと言われていたんだ。もし今回二人の王様に見られたら何を言われるか?


「これは一大事です! すぐさまどうするか相談しないと! 失礼します」


 その場を離れてすぐさま、少し離れたところで魔法の練習をしていたサラを攫うように小脇に抱えて、お父さんの屋敷を目指しました。


「ユウマさんいくら何でも女性を小脇に抱えるのは失礼ですよ。そこまでするには訳があるんですよね?」


「ごめんなさい。気が動転してしまって……」


 屋敷の前に着いたので、屋敷に入る前にサラに俺が動揺した理由を説明した。


「成る程、それはちょっと拙いですね。国王様が此処に来ることは想定していませんでしたから、口止め程度でなんとかなるという考えが甘かったですね」


「そうなんですよ。ただ屋敷に関してはこの際ですから、とぼけて普通に公開してしまおうと思っています。魔法の可能性を国王自ら肌で感じれば、この先の国の運営にも生かされるでしょうから」


「そうですね。どう言い訳しても現物がある以上言い逃れは出来ませんから、必要なら自分たちで作ればいいだけです。その為の協力だけすれば良いと思います」


「ただ、お父さんが嫌味を言われるのは覚悟して貰わないといけません。大丈夫ですかね?」


「大丈夫ですよ。どちらの国王とも昔から仲は良いですから、上手く躱すでしょ」


 そうなると後は俺のことだな。俺としては逃げたいがどうしたものか?


「サラさん、俺はどうしたら良いと思います?」


「そのことですか……」


 いつもなら割とすんなり決断をするサラですが、今回ばかりは慎重に考えています。


 前世なら親とか親戚とか関係なしに、自分たちの決断が優先されるし、身分の差などないから、そう言ったことも考える必要がない。まして貴族社会何て俺には歴史上の事で現実味が無いから判断のしようがない。


「ユウマさん、今回までは森の家に二人で隠れましょう」


「何故? 今回まで?」


 俺の質問に答えたサラの考えは、サラという婚約者がいて、必然的に王族と関係性が出来るのに、国王から隠れるという認識を持たせることで、無理強いをすればどんな立場になっていても逃げるという印象を持たせるためだと言った。


 確かに王族との婚姻が、この国に取り込むという条件にすらなり得ないと思わせれば、無理難題は言えなくなるだろう。


 俺が好きになった人がたまたま王族だっただけで、サラの身分と結婚すのではないという事を分からせる良い機会だ。


 俺にとって王族は親戚ではあるけど、家臣ではない。名誉伯爵であってもグーテル王国の家臣でもない。


「ちょと今から考え事をしますので、気にしないでくださいね」


「それなら邪魔にならないように、私は先に両親に会って今回の事を伝えておきます」


 俺も少し成長したのか、最近は考え事をする前に断りを入れるようになってきた。


 普通の人は決してそんな事はしないだろうが……。


 サラが屋敷に入って行ったのを確認してから、俺は少し屋敷から離れて思考を開始した。



















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